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9.薔薇の花束

お読みくださり有難うございます。


「キョウ少しいいか?」

「あぁ」

「2人ともこっちの部屋を使うと良いよ」

「有難うございます。」


 どこかいつもと様子が違うユリオが、キョウとスノードを連れ立って部屋に入った後。


「ユリオ何かあったのかな?」

「「「…………」」」


 アイリスがそう問えば、3人とも目を見開いて固まっている。勘違いかと少し不安になっていた沈黙を破ったのはカレンだった。


「どうしてそう思ったの?」

「様子がいつもと違うような……」


 少し考えながらカレンの質問に答えると、三者三様の笑いが起こった。笑う程変な事を言ったのだろうか?とアイリスは不安になる。


「っく……ユリオ修行が足りない」

「ヤナギ笑いすぎ」

「ごめんごめん。まぁ心配しなくてもこういう時は、キョウが居るから大丈夫」

「ユリオに関しては、皆んなそれぞれ役割分担してるからね」

「役割分担?」


 笑いながらも3人は顔を見合わせて言った。


「俺は、体調管理」

「俺は、揶揄い担当」

「私は、背中を引っ叩く担当」

「俺は、弄って遊ぶ担当」


 シンはともかく後は何か違う気がすると思ったのだが、それよりも自然と会話に参入している黒い人、そうとにかく黒い、服装は闇夜だと絶対に気がつかないくらい目立たない黒い服、髪も黒く、同じ黒髪のシンの方が明るく見えるほど全体的に黒い青年がいた。


「あの……」


 4人一斉にこちらを見る。


「貴方は……誰ですか?」


 失礼だと思ったが、聞かない事には分からない。他の3人はアイリスの見てる方に目をやる。


「ノギいたの!?」

「扉から入りなよ」


 カレンの驚いた声とシンの呆れた声が重なった。


「おかえり〜あとおつかれ〜」

「ただいま〜」


 ヤナギと青年は呑気に拳を合わせながらアイリスの方を向いた。


「楽しそうに話してたからつい。俺はノギ、ノギ・エール」

「アイリス・フドルです。」

「よろしく!いやいや〜ユーくんの些細な変化に気づくとは俺としては嬉しいね」

「ユーくん?」

「ノギはユリオの事、ユーくんって呼んでるんだよ」


 仮にも王子に良いのか?と「敬語なしで普段通りでいい」と言われた当初と同じ疑問をアイリスが浮かべていると、ノギはアイリスに、ずいっと顔を近づけてきた。


「アイリスって()()ではないユーくんと先に知り合ったんだよね?」

「ユリオが、王子だって知ったのはこっちに来てからだけど?」

「いや〜俺らはともかく、ユーくんって周りからは表情が分かりづらいって言われてるから」

「そうなの?」


 カレン達の方を見ると皆んなうなづいている。


「なんていうのかな、王子ってだけで、ユーくんと他の人には壁があるんだよ。まぁ表情がでないように訓練はしてるけど」

「まぁ普段も王子として振舞っていないとダメだから一個人(ユリオ)よりも王子(ユリオ)が先に出てしまうんだ」


ノギに続くようにヤナギが言った。


「そうそう! だからユーくんの微々たる表情の変化に気づくって事は、一個人(ユリオ)として見てるからこそ気づけるものなんだよ」

「たとえ王子でも、ユリオはユリオだから…あまり深く考えた事無いかも?」


 アイリスの返答に、ノギは優しく笑う。


「それで良いんだよ。そのままでいてあげて、ユーくんは生まれた時から周りに人が居ても、孤独なんだと思う。つい最近まで、俺たちが側にいるのも仕事だと思ってたみたいだし?」


 困ったような戯けたような表情をして肩をすくめるノギに、ヤナギが笑いながら言った。


「キョウが落ち込んでた時のことだろう?珍しく「飲むから付き合え」って言うもんだから何事かと思ったよ」


生真面目なキョウが、ヤケ酒をしたくなるくらい落ち込むのは確かに珍しい事だろう。


「ユリオが何か言ったの?」

「ん?えっと確か……力がどうのこうのって話からキョウは守る力が欲しいって言ったら、誰守るんだ?って」

「そんでユーくんだって答えたら、「側近だからだろ?」って……仕事じゃないって事は、しっかり伝えたみたいなんだけど、結構ショック受けてヤケ酒」


キョウはユリオの事を弟の様に大事にしているは知り合ってから日が浅いアイリスでもわかる。それを仕事だと言われ伝わってない事にひどく落ち込んだのだ。


「俺らも話聞いて唖然としたからな……そんで次の日ノギとオレンジの薔薇100本持ってユリオに愛の告白しに行った」

「そこで薔薇の花束を選ぶ所が2人らしいよね。血相変えたユリオが医務室ここまで来て、「シン!ヤナギとノギが〜」って扉をあけてシンに詰め寄ったとこで、シンが無言で、黄色の薔薇一輪ユリオの前に差し出したの。私平静装うの大変だったんだから」


 ユリオが更に慌てふためく様子が目に浮かぶ


「オレンジと黄色?赤色じゃないの?」

「俺らも始め真っ赤な薔薇を渡そうとしたんだけど、カレンが同じ愛の告白ならもっと意味を持たせようって」

「オレンジの薔薇は、絆とか信頼って意味があるの100本は(貴方を100%愛してます)って意味だから3つの意味を掛け合わせるでしょ?黄色は、友情や愛の告白って意味があるから」

「まとめれば俺らユーくんのこと愛してますなんだけどね」

「なるほどね。けどユリオ色の意味知ってるの?」


 知らなかったら渡したところで意味がない。


「大丈夫!色の意味は、自分で調べてねって私からは本を渡したから」


 お酒を飲みながらみんなで、相談している様子が浮かび微笑ましい気持ちになった。


「ノギが、ユリオの事をユーくんって呼ぶのもそのため?」


 ノギはフッと笑い。何処か遠くを見るような目で言った。


「俺孤児なんだよ。小さな村で育ったんだけど山火事で、村人みんな亡くなって、食べる物も無くて俺も死ぬのかなって思ってた時に、ユーくんに会ったんだ。「生きるのを諦めるな」ってね。そのまま城に連れて来られて、王子だって知って、まぁ周りと同じように殿()()って呼んだの」


 その時の事を思い出したのかノギが少し寂しそうな顔をした。


「そしたら凄く辛そうな寂しそうな顔をされたからさ〜俺何か間違ったのかねぇ?って思ってキョウに聞いたら「見てれば分かる」と言われたわけ、そこから始まったユーくん観察の日々、何処に行くのも影からこっそり付いて回って……気がつけば別のスキルを身につけてしまっていた」


しんみりとした空気が一瞬でおかしな方向へと向かうが、シンが嗜めるように言った。


「ノギ話飛んでるよ。今思えばそれストー「シンくん〜それ言っちゃダメなやつ」」

「ある日さ、俺の熱い視線が恥ずかしくなったのか「後ろからついてくるなら隣にこい!」って言われたわけよ。その時にストンとユーくんって言葉が浮かんだわけ」

「う……ん?」


 結局よくわからないオチにアイリスが首を傾げているので、シンは簡潔にまとめて言った。


「要するにノギは、基本王子って言う仮面を外せないユリオにあえて絶対他の人がしない呼び方や行動で、仮面剥がす事にしたんだよ」

「だから弄って遊ぶ……」

「そうそう!それをヤナギが揶揄う」

「「ユリオ(ユーくん)が怒って肩の力が抜ける!一石二鳥!」」


 声を揃えて言う2人に、シンは呆れた顔を隠さずアイリスを見た。


「まぁこの2人は置いといて、ユリオと気長に付き合ってあげて」

「そうね〜アイリスの前では、結構自然体だから」

「そうする」


 

「お話中に失礼しますわ。スノード様居られますか?」


 軽いノックと共に顔を覗かせたのは、知的で穏やかそうな貴婦人だった。


「サルビア様?師匠に会いにきたの?」

「陛下が呼んでいるのだけれど……診察中かしら?」

「話てるだけだから呼んでくるよ」

「有難う」


 シンが呼びに行くのに、奥の部屋へ向かうのを見届けているといつの間にか隣にいて声をかけられた。


「貴女が、アイリスさんですね?」

「え?はい」

「私は、スノードの妻のサルビアと申します。カトレアさんからお話を聞いていて是非会いたいなって思っていたのです」

「カトレア様が?」

「ええ、養女むすめのアイリスが可愛い、可愛いって言うものですから……」


 ふふと笑い。アイリスの頭を撫でるので、戸惑っていると、そのまま抱きつかれてしまった。


「本当に可愛らしいですわ」

「あ、あの……」

「伯母上何をしているのですか?」

「スノード様を呼びに来たのですが、先ほどカトレアさんから娘自慢されて……話に聞いていた通り可愛かったのでつい」


 ユリオに問われたサルビアは、撫でる手を止めずに笑顔で答えている。


「シン少し席を外しますね。さぁ行きましょうか?」

「分かった。」

「アイリスさん今度ゆっくりお話ししましょうね。後お仕事で困ったことがあれば言ってくださいね?以前司書室で務めていましたのお役に立てると思いますわ」

「有難うございます。」


 そう言って優雅にスノードと出て行った。

 静かになった部屋の沈黙を破ったのはキョウだった。


「ユリオ……夫人の名前って確か」

「伯母上の名前か?確かサルビ……ん?」

「「あ!サルビア書記官」」

「ずるい!叔父上そこだけ触れなかった!」


 ユリオとキョウはスノードが出て行った扉を見ているので、何事かとカレン達と顔を見合わせた。


「ユーくん!会いたかったよ〜」


 そんな事は、お構い無しのノギは、後ろからユリオに抱きついている。


「ノギ重い……帰ってきたなら先に顔出せと言っているだろう」

「楽しそうに話してたから邪魔しなかったの!」

「で? ノギ頼んでいた事は?」

「終わったよ〜」


 言ったのと同時にグルグル〜と盛大にノギのお腹がなった。


「お腹空いた」

「これしか手持ちがないぞ」


 キョウが懐から出した包みをノギが受け取りさっそく食べている。中身は焼き菓子だった。


「あぁ〜この味、愛しのハニーの手作り!」

「ハニー?手作り?」


 ノギの独特な呼び方について行けてないアイリスを見たシンがこれまた簡潔に説明する。


「ハニーってキョウの事。気まぐれで呼び方変えるから気にしなくていいよ。ちなみにノギが食べているのはキョウの手作り」

「キョウの腕前、王宮シェフ直伝だから! 味は超一流!」


 淡々と教えてくれるシンに、ウンウンと言いながらヤナギが続ける。


「買いかぶりすぎだ」

「俺遠征で、キョウが一緒にいる時テンションあがるもん」


 ヤナギがキョウの手料理を誉め殺しし始めたのだが。ユリオがそれを見て笑う。


「キョウが照れてる」


 ユリオが笑いながら、包みの中のお菓子を1つ取って食べた。案の定――


「ユーくん俺のを取らないで!」

「1人だけ美味しいもの食べるとかズルいだろ?」


 するとカレンがアイリスを見て言った。


「あ! ねぇアイリス今日の午前中の執務は?」

「?急ぎのものは無かった筈だけど」


 確認を兼ねてキョウを見る。


「午後からやっても大丈夫な分だが……どうした?」

「ん? ちょっと……いやかなり早いけどみんなでお昼食べない?」

「朝ごはんもまだだしね。誰かさん達が暴れるから」

「「「ごめんなさい」」」

「なんかしたの?」

「あははは」


 朝の出来事を知らないノギは食べながら首傾げ、部屋にはユリオの笑いが響きわたった。


 食堂へと向かう廊下を歩いていると、隣にいるユリオが、声を潜めてアイリスに問いかけた。


「さっき何話してたんだ?」

「さっき?」

「俺たちが部屋に入った後……」

「う〜ん気になる?」


 ちょっと口を尖らせて「気になるかと言われればそりゃ」とかボソボソ言ってる。ついつい微笑ましい気持ちにアイリスがなっていると不服そうなユリオの顔が眼の前にあった。


「アイリスなんだその含みのある笑みは…」

「私変な顔してる?」

「変というか何というかむず痒い、絶対失礼な事考えてらだろ」

「そんな事ないよ」


 信じられないのかユリオがジト目で見てくるので、観念して話す事にした。


「薔薇の花束の話だよ」

「薔薇の花束?」

「そう、皆んながユリオをどれだけ思っているのかって話。」


 思い至ったのだろう。ユリオは、顔を赤らめている。


「おいノギ、ヤナギ何話してるんだ!」

「えー何のことだよ」

「今度ユリオが、似たような事考え出したら執務室の花全部薔薇に変えとくね」


 アイリスが言うと、ノギが楽しそうに笑いながら賛同の意を示す。


「いいね! お嬢なんならユーくんの寝室も全部薔薇で埋め尽くす?」

「それ楽しそうね」


 カレンまで悪ノリに便乗し始め、先程より更に顔を赤くしたユリオは全力で止めにかかった。


「いやいやまて!まずカレンやアイリスは、貰う側だろ渡してどうする!」

「えー」


 カレンは可愛らしく頬を膨らませてユリオに抗議している。


「カレン大丈夫。ユト(フドル領)では女性からも渡すから」

「そうなの?」

「うん。ポール兄さんから聞いたんだけど、シュロ様からの求婚を受ける時に、カトレア様が、薔薇の花束に一輪だけ自分と同じ名前のカトレアの花を添えたんだって(カトレアは貴方を愛しています。)って意味を込めて」


 目をキラキラさせて続きを促すカレンと対照的にユリオは何故か「タイムリー」などと言っている。


「でも直接渡すのも恥ずかしいから……早朝に出勤して、執務室の机の上にそっと置いたんだって。朝出勤したシュロ様が、机の上にある花束を見つけて、「隊長説教は後で聞くのでちょっと行ってきます。」って花抱えて飛び出して、カトレア様の気が変わらない内に薬指に指輪をはめたらしい」

「どれくらい焦ってるんだよ」


 ヤナギの呆れた声にアイリスは兄達から聞いた話を話し出した。


「兄さん曰く、長年の片思いらしいよ。そこからユトでは、2人にあやかって、気持ちを伝えたいけど恥ずかしくて中々口に出せない時に、薔薇に自分の名前と同じ花や自分の誕生花を添えて送るようになったんだって、まぁそれをきっかけに勇気を出すって人もいるらしいけど」


 腕を組みながら話を聞いていたノギが何かを思いついたかのように手を叩いた。


「分かった! 俺らの名前に関係ある花を薔薇と一緒にユーくんの寝室に沢山飾ればいいんだよ」

「おい!ノギ!なんならお前の部屋も同じ様にするぞ」


 ユリオは対抗のつもりで言ったのだろう。だが、ノギが一枚上手だった。


「ユーくんの愛で満たされる部屋か〜悪くない」


 ノギが真剣に答えるのでユリオが頭を抱える羽目になった。


「ユリオ諦めなよ」

「本当にねー」


 頑張れと言う気持ちを込め、カレンとアイリスは、ユリオの肩を叩くのだった。





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