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記憶を無くした空の騎士姫と太陽王子  作者: 桜月雪


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33.アトル国 ①

お読みくださり有難うございます。

 

 出発から半日と少しユリオ達一行はエテの国境付近にある森の中にいた。

 エテ国とアトル国は、両国の森にある川を国境としている。アトル国は小さな森を抜けるとすぐそこは岩壁で、国自体は崖の上にある小国で遥か昔戦乱の世に、戦に疲れた物達が集まり国を起こしたと伝えられている。


「実際アトル国の初代王は、終わらぬ戦いを嘆いて争わず対話で歩み寄る国を目指していだが、先の大戦では対話に持ち込む事すら難しい物だったと聞いた。先代達は自衛の為に後継を育てて来たのが、こんな事になるなんて……」

「アスペル殿、先代達が培ってきた事は間違ってないと思うぞ、悪いのはそれを私欲の為に利用する者達だ。力は使い方を誤れば滅びでしかなくなるからな」

「父もよく言っているな。民は駒では無い、民無くして国は成り立たないものだと」


 道中ユリオとアスペルはポツポツと会話をしていた。


『殿下良いですか?戦略を立てる時でも外交する時でも相手を知ることから始めなければ、理解するつもりでは何も知る事が出来ないものです。些細な会話でもいいのです。そこから全てが始まっていくものです』


 以前話を聞いた時、ヒイラギが自身の目で見て聞いて知らなければ理解できないことも多く、それを基に他の意見も取り入れていく事が重要なのだと言っていた。

 アトル国とは同盟国だが、アイリスはさておき、初めて出会った人達だ。どういった国でどのような考えを持っているのかは、書物で知る事はできない。実際話していると「力が全てではない」とシュロがあの時言った言葉の意味を違う視点から理解出来る。


 今のアトル国は、まさに力に固執しすぎた者達が結託し暴走している状態だ。力で全ての支配権を手に出来ると思っているのだろう。


「あの国について、アスペル殿はどう聞かされているんだ?」

「非情かつ傲慢で短慮な王がいる国と母上が言っていた。かの国も歴史は長いが、どの時代の王もあまり変わりは無いらしい。元々かの国から逃れてきた者もいるので、そのあたりの話は、口頭で伝えられているが……母上の言っていた事とあまり内容に差はないと思う」

「ますます不思議だな。あの国に取り入ろうとしている者たちが……」

「殿下方、複雑に考えすぎです。案外単純なのですよ」


 前を歩いていたノギが振り返り言った。ユリオとアスペルは互いに顔を合わせ、またノギの方を見ているが、よく分からないと言った表情だ。


「そういうものか?」

「利害が一致したからとか単純に口車に乗せられてって事が多いですからねぇ〜甘い話があればコロリと落ちる人間は沢山いますしね?」


 そう言われるとそうなのだが、ダメなものだと分かっていても手を取る事があまり理解出来ないでいる。


「人の弱さですかね?簡単に白くも黒くも染まってしまう。それがとてつもなく良いものに見えるように時間をかけて誘導されれば尚更落ちるのは早いと思いますよ」

「だとするとアイリスが出汁に使われた可能性も出てくるのか……」


 声を潜めて言ったアスペルは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「巫女のような扱いだったか?」

「あぁ余りにも度が過ぎて、あの子は彼らを苦手としていたからなぁ」


 本人の意思とは関係なく祭り上げられるのは気分の良い物では無い。ユリオにとっては叔父のスノードが分かりやすい例だ。いつも困った顔をしている。

 祭り上げている側は、上げられている側の気持ちなど結局のところ考えていないのだろうとユリオは思う。


「殿下お話中すみません。此処から先がアトル国の領域となります。」


 先頭を歩いていたポールが立ち止まった。


 川を越えれば直ぐそこはアトル国だ。向こう側にも木々が生い茂っているが、自国と違うのは見上げれば断崖絶壁の岩肌が目の前にある(そび)え立っている。上は霧がかかっており何処まで続いているのかは確認が出来ない。

 ユリオは、会議の時に見たアトル国の地図を思い出しながら周りを見渡し、ポツリと言った。


「アイリスが無事で本当に良かった」


 シュロは倒れているアイリスを見つけたと言った。その場所が国境となっているこの川だ。見えている部分でも結構な高さから落ちて、命が有るのは奇跡としか言えない。記憶を失っただけで済んだ事が何よりだ。


「シュロ殿が、奇跡的な事に本当に大きな怪我は無かったんだって、見える外傷は擦り傷や打撲程度でホッとしていたら記憶喪失だったから頭は確実にどこかに打ちつけているけど……」

「もしかしたらあの辺にある木々がクッションになったのかもね」


 シンとノギもユリオの直ぐ隣で見上げながら話している。当のアイリスは、これから別行動になるヤナギと話していた。


「アイリスこれを」


 ヤナギが手渡したのは2本の小指ほどの棒のような物だ。アイリスは手渡された物を見ながら首を傾げている。


「それは仕込み武器だ……本来師が弟子に剣などの武器を渡すんだが、アイリスが弟子になって日が浅いのと、ぶっちゃけるとまだまだだしな!後アイリスに合う武器が何かまだ考えている所なんだ。これは、髪飾りとして使えるが、そこを軽く捻ってみろ」


 2つの内1つを捻れば、先の尖ったものが中から出てきた。


「かなり丈夫な作りだからそのまま武器として使っても良いし用途はさまざまだ。大ぴらに帯剣出来ない時に役立つ」

「ヤナギもこう言った物を持ってるの?」

「あるにはあるが、前にも言ったけど、武器が無ければその辺にある物で代用はきく」


 初日の稽古を思い出し、アイリスは納得した。そもそもヤナギは素手でも強い、武器を持たせればそれが倍になるだけだ。


「ポール、レイ兄手筈通りに、ユリオ殿下信号弾が2箇所から上がればそちらも動いて下さい」

「分かった。ヤナギ無理はするな」

「殿下には言われたくありませんね。では、私は一足先に……キョウ、ノギ、シン後は頼んだ」

「「「いってらっしゃい」」」


 3人が口を揃えてこの場には不釣り合いな見送り方をするので、流石のアイリスでも虚をつかれた顔をする。拠点を襲撃しにいくヤナギが、軽装で城下に遊びに行くような雰囲気をまとったままヒラっと手を振り、姿を消した。それと同時にポールとレイス達一行も動き出す。


「ヤナギ殿の動きは、人とは思えないほど洗練されているんだな。父が見たら一戦交えてくれと頼みそうだ」

「それはヤナギも喜びそうだ。国では、本気を出せる人があまり居ないようだからな」

「父も似たような感じだな。よく身体が鈍ると言っていた」

「あぁシュロの暴走を拳で止めれると聞いた……」

「人外増えて、他国にも人外認定され……「こらノギ、アイリスも笑ってやるな」」


 アスペルの率直な称賛に相槌をうっていたユリオの背後では何故かノギとアイリスのツボに入り、キョウが諌め、シンが呆れているというよく分からない状況だ。


「お前達そろそろ移動するが大丈夫か?」

「いい感じに気が抜けたので大丈夫でーす」


 いい感じとは国境に近づくに連れ表情が固くなっていたアイリスを指しているのだろう。


「アスペル殿案内を頼みます」


 アスペルは真剣な表情でユリオに向き直り、頭を下げた。


「これは私一個人としてのお願いだ。我が国の為に力を貸してくれ」


 アスペルの肩にユリオは手を添え言った。


「アスペル殿」

「なんだ?」

「一つ私と友人になりませんか?」

「それは私としても嬉しいですが……」


 何故今?と言わんばかりの顔だ。やはりアイリスの兄妹だと思わせる表情でもある。ユリオは笑みを浮かべアスペルに言った。


「友を助けるのに、まどろっこしい理由や礼が要らなくなるからなぁ〜」

「ユリオ殿?」

「俺にとってはアイリスもアスペル殿も友人なのだから俺の手が伸びる範囲で手伝うそれだけだ。さぁ行こうかヤナギに先を越される」

「ユリオ殿下、ヤナギと張り合わないで下さい」


 ユリオに小言を言っているキョウを見ていたアイリスの隣にアスペルが並ぶ


「アイリス……」

「はい」

「私は……お前が無事生きていてくれて嬉しいよ。なんと声を掛ければ良いのか分からなくて遅くなってしまった……」

「……」


 兄だと言われてもいまだに思い出せないでいるので、少々気まずいアイリスなのだが、アスペルは気にした様子もなく苦笑を浮かべながらユリオ達を見ている。


「理由や礼が必要ないか……アイリスから見てユリオ殿はどんな人だ?」

「ユリオは、太陽のように暖かい人」

「確かにそんな感じがするな……その大丈夫なのか?」


 アスペルの問いは、これから国に向かう事についてだろう。アイリスは、懐にある懐中時計にそっと触れる。


「……私は1人ではありませんから」

「そうか……お前にとっては良き出会いになったようだな」

「友や師にも恵まれました。だから大丈夫です」


 きっぱりと言ったアイリスに、アスペルは優しく笑う

 その笑顔はとても懐かしいもののように思えた。




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