31.再びの闇ギルド
明けましておめでとうございます。
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本年もゆるりとお付き合い下されば幸いです。
「まさか」
ヤグルマギクはぼそりと呟いた後、足早にヤナギの隣へ行き積んである資料を漁り始めた。キョウ達は顔を見合わせヤグルマギクの近くに寄ってゆく、その間にもヤナギは言葉を続ける。
「医務室は、フォレ一族のように王族に近しいもの達ですが――」
「あぁ〜そうかヤナギ、ロランとカレンにコムラをつけるよ。君が元からつけている護衛以外に誰かつけるの?」
ヤナギの言葉を遮りそのまま問いかけるマイペースなヤグルマギクに、流石のキョウもどうすればいいのか分からなくなったが、ヤナギは気にした様子もなく
「今アイリスといる小隊を医務室につけるつもりだかが……いいのか?コムラをこちらにおいて」
「構わないよ。それにロラン達が東の宮に行く時は、僕も一緒に行くよ。固まってた方がいいからね。所でヤナギこの印がある人達は見間違えじゃなければ、昔シンたちを襲った闇ギルドの人たちだよね?釈放されていると解釈しても?」
ヤグルマギクが放った最後の言葉にみんなの視線が一気にヤナギに注がれた。闇ギルドにいた者達は、1人残らず無期懲役だからだ。ヤナギは隣の資料からいくつか引っ張り出し机上に並べていくそれはすべて冒険者登録時の人相書きである。
「あぁ、ギルド登録した人間の特徴がどうにも知っている顔だからノギに調べさせた。釈放名簿が偽造されている。今ヤグルの手にあるのが、ノギが調べた正確な物だ。それよりもお前、顔をわざわざ確認してたのかよ」
闇ギルドにいた人間は、かなりの人数になる。壊滅させた本人と一緒にいたノギが、記憶の片隅に置いているのはともかく、知りたがりなヤグルマギクがここまでするとは思っていなかったので、ヤナギは、呆れた表情を隠しもせずにヤグルマギクに問いかけた。当人はのほほんと笑いながら言う。
「念のためにね。用心に越した事はないとはこういう事だよねぇ〜で、国境は越えたの?」
「まだ確認が取れてないが……奴らは闇ギルドの情報が漏れたのはアルブル家からだと思っている。だから警戒してるのは事実だな」
「なるほど、この集まりは、商会とは名ばかりの闇ギルドの復活という事かな?どおりで君の機嫌が悪いわけだ。まぁ僕としても大事な弟達を何度も狙われるのは癪だしね〜」
何故だろうヤグルマギクまでもが不穏な空気を出し始めている。キョウは如何するべきかを考えながら隣にいるフドル兄弟を見やったが、2人とも苦笑して肩を竦めただけだった。
「陛下、保守派の動きを私にも教えて頂けますか?」
「構わんが……」
「お爺様商会を探るついでに、商会の取り扱っている物の動きも見てもらえますか?」
「ヤグルよお前根こそぎ潰すつもりか?」
「お爺様人聞きが悪いですよ。ただしっかりと調査するだけです」
この祖父にしてこの孫あり――
終戦後にダルマギクが領地で引き篭もっていた貴族達を笑顔で追い返していた顔とヤグルマギクの今の表情が余りにも似ており、その当時を知る近衛や影達は、関わっているであろう保守派に同情した。
「ところでヤナギ」
「なんだ?」
ヤグルマギクは先程ヤナギが倒した駒を指差しながら
「ここを落とすって言ってるけど、前回と同じで生け捕り?でも牢には当分繋げないよね?」
「あぁその事か、ここは開拓予定地らしいからそのまま捕縛したらレイ兄達に見張ってもらおうかと、あ!レイ兄心配しなくても、死なない程度に動けなくしてから行くから少人数でも大丈夫だよ」
「ヤナ……会議中に言うのもあれなんだけどね?そんな無邪気な笑顔で言うのやめようね?後もしそこに一般人がいなければ、網を張るためにも表向きは機能させて行こうかと思うんだけれども……話を聞き出すのに誰が適任だろうね。確か以前もかなり苦戦したみたいだから」
「ランスに頼むよ。この間暇とか言ってたし」
「「「「ランス!?」」」」
ヤナギが、名を出すと空気に徹していた近衛が、反応した。ランスは一応近衛所属なのだが、与えられていた任務が特殊で、戦時には取り調べ等を主に行っており、また好きな事が教育(調教含む)という変わった面があり、毎年新人教育期間になるとふらりと現れたりするが、基本的に外で情報を集めてふらふらしてる事が多いため近衛達が居場所を把握できないでいた。
「ヤナギ、ランスは今何処に?」
「?ずっと冒険者ギルドで新人鍛え直してるよ?」
近衛一同絶句である。直ぐそこに居たのかと……ラークが近衛達の顔を見て、困り顔で聞いた。
「ランスが、ここに居ることは伝えてると言ってましたが、もしかして何も――」
「聞いてない」
何処までも自由な人間である。ヤナギが仕切り直すように咳払いする。
「ランスに頼めば、笑顔で引き受けてくれそうですし、なんなら色々聞き出せるかと」
「レイス、ランスには一度城に戻れと連絡を入れてくれ」
「承知しました。陛下」
「陛下発言宜しいでしょうか?」
「構わぬぞ」
黙って壁に控えていたルドベキアが、そっと前に出る。
「殿下達がお戻りになるまで私が、医務室の守りとなりましょう。元々医局に身を置いていた私なら自然な理由付けにもなりますかと」
「ルドベキアよ。無理はするな」
「あの子達がいたら無理など出来ませぬよ」
ルドベキアは、騎士一家であるフドル家に生まれたが、幼少期に身体が弱かった事もあり、騎士としての道を進むよりも後方支援の為に医療の道に進む傍ら、戦う兵士らの犠牲を少しでも減らせるように、あの手この手で走り回っていた人物であり、毒物に関して右に出るものはいないと他国にまで名前が知れ渡った人物である。ただ頑張りすぎると、電池が切れたように眠るので、ある意味要注意人物でもある。余談だが、父の体質に反して強靭的なシュロという息子が生まれたのは、フドル家七不思議らしい……
「ならユリオがいない間、ユリオのふりをして、わしが東で生活しよう。寝るとこは沢山あるからなぁ」
「シラン様が眠るには流石に……」
「なぁにユリオもそこで寝起きしとるのなら問題あるまい。わしがユリオに課題を与えてると話を流せば誰も何も言わん。ケイジュよシュロと共にシオンの側につけ」
「承知いたしました。シラン様」
「シラン様、我が隊のゼラを東に控えさせます。何かあれば言伝を」
「あいわかった。私からシオンへの連絡にはオリヴァーのみを行かせる。シオンからはどうする?」
「タルロを行かせます。影達はダルマギクと連携を取りつつ進めてくれて構わぬ。報告は全てタルロへとそちらの方が情報に誤りが出ないからな。ヤナギよユリオはなんと?」
ヤナギは、苦笑を浮かべ質問に答えるべく口を開いた。
「ユリオ殿下ですが……」
***
「ユリオ殿下」
アトル国の現状を聞き終わり、一時解散となった後、ヤナギはユリオの名を呼んだ。立ち止まったユリオは、キョウに医務室への差し入れとアイリスの側につけと言った後、自身の執務室へと向かう。
「で?」
全てを話せとユリオの目が雄弁に語っている。
「簡単にご報告しますと、カレンを除く我々がアイリスの事を知ったのは、私の弟子となる前夜フドル兄弟から聞きました。殿下にご報告しなかったのは、その方が良いと判断したからです」
「私が信に足らんか?」
「いいえ。何も知らないままで接するのと、知ってて接するのとでは、相手への届き方が変わります。アイリスが真実を知った今寄り添えるのが、殿下貴方だけです」
「お前でも無理か?」
「私とアイリスは師弟関係を結びました。寄り添うとは少し違うかと、他の面々でも同じ事が言えますがね。アイリスと殿下は友人として出会ったのでしょ?」
ユリオはそういうものかという顔をしたが、切り替えるように咳払いした。
「お前の頭の中で、出来上がってる状況は?」
「まず冒険者ギルドで……」
ヤナギは今現状把握している事柄とそこから導き出された。闇ギルドの影、保守派と彼の国の関わりをユリオに告げた。さらに秘密裏に動く以上、城内外での大まかな策を幾つか挙げた。ユリオはそれを険しい表情で聞いていた。
「以上が現状乗り切る為の策ですね」
「ヤナギ・ソル。ユリオ・ソレイユの名において命ずる。エテ国を脅かす不穏分子を一掃しろ。この件に関しての全権はお前に預ける。もうヤナギの実力隠す必要ないだろ?」
王子らしく話したかと思えば、最後は普段通りのユリオの口調に、ヤナギは困ったように言った。
「御意に。ですが、最後まで取り繕ってくれませんか?」
「最後は命令ではなくお前自身に言ったんだ。いつまで実力隠すつもりだ。大体あの3人の次はお前だろ?」
「いや、レイ兄とか近衛とか影とかいるし」
「全員口を揃えてお前の方が強いって言ってたぞ?」
「……」
目を逸らしたユリオだが、少し思案顔になり言った。
「だが父上の事だからノースかポールをお前につけそうだな」
「多分ポールだろうな。ノースには解毒薬を届けてもらわないといけない。だがそうすると、ユリオお前の護りが薄くなるやはり俺が戻ってくるのを……」
「そこは同時にだ。キョウとノギがいる。戦闘に向かないのはシンだけで、俺やアイリスは自分の身くらい守れる。交渉がメインだからな。ライラック王がそれまでに間に合えば良いが」
「スノード様が見てるし、シンの解毒薬があれば話すくらいは回復すると思う。体力は厳しいかもしれないが……」
大怪我に毒だ。普通ならとっくに死んでいる。それが自己の治癒力で一命を取り留めていたのだから、憶測だが、回復は早いだろうとヤナギは思ったのだ。まぁ半分は実体験がほとんどだ……伊達に何度も命を狙われてはいない。
「ユリオ頼むから怪我はしないでくれ、絶対に突っ込むなよ。アイリスと2人大人しくノギとキョウの後ろにいるこれが同時に動く絶対条件だ。守れないなら俺が戻るまで待機」
「自身を護ること最優先だろ?」
「そうだ。争いの火種となる物は無いに越した事はない」
「それよりもノギが拗ねるだろうなぁ」
「なんでだ?」
「可愛い弟が、何かあった時に自分が何も出来ないのは嫌だっていつもヤナギの任務内容を事細かに聞いてくるんだぞ?今回致し方無いとはいえ、外されたら拗ねるだろ」
ユリオの返答に目が遠くなるヤナギだった。
***
「という事で、此度の件はユリオ殿下の命で私は動く事になりました」
「「そうか。そうか。もう隠れんぼは終わりか」」
声を揃えるシランとシオンに
「シラン様、陛下。私を使ってユリオ殿下を試すのもう辞めません?」
ヤナギは呆れた表情で言った。普通なら不敬なのだが、ヤナギはこれまで何度もユリオ試しの出汁にされている為、取り繕うのをこの2人の前では辞めたのだった。
「お主が一番色んな物に好かれておるからの」
「全く嬉しくありませんね。お二人から見て殿下は合格ですか?」
「及第点かのぉ。ヤナギやユリオもお主の弟子にするか?」
「お断りします。適任者なら他に沢山いますよ」
満面の笑みで、シュロを見るヤナギに、アイリス事で事情を知る面々は、ヤナギに師の素質はあるぞとは口が裂けても言えないのであった。
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