29.来ないでください
お読みくださり有難うございます。
「で、お前達の見解は?」
ケイジュが双子の方に視線をやりながら問いかけた。
ポールが肩をすくめつつ先程よりも若干砕けた口調になる。
「大将絶対分かっていて聞いてますよね?今回の一件首謀者に国の重鎮がいるのは間違い無いんですけど、どうも頭が弱いようで唆されてる感じがしてならないんですよね〜アトル国って温厚な小国で知られてますけど、元々戦力的にはかなり強いですよね?」
「まぁそうだな……主にライラック殿が主軸だが、元々住んでる民達は精鋭達だぞ。先程居たリンって子の一族はその筆頭だろうな」
ケイジュの言葉に、戦時時代を知っている者たちは皆一様に頷いた。
「しかもですよ。なんとあの国も関与してるみたいなん――父上殺気を納めてくれません?」
あの国という言葉だけで、過剰に反応するシュロに息子達が呆れた顔をしている。
「何人かあの国の者達が旅人を装って酒場に居るのを見かけました。後我が国の者と思われる集団とも話しているのを確認しました。その前に、ヤナギこれ」
ポールが手渡したのは紙で、ヤナギが受け取って確認していると、ノースが大きめの紙と筆を用意している。
「またポールが描いたのか?」
「ノースが、スノード殿下を迎えに行ってた時にね。敵情視察って言って回ってきたんだけど、ってユリオ殿下恥ずかしいので見ないで下さい!」
ユリオはヤナギが手にしている紙を覗き見て絶句していた。
「何を描いているのかよく分からんな」
「だから私は絵心無いんですって」
「ポール煩い。これどっちが国?」
「えっとこっち、じゃあ右回りで行くね」
ポールは自身の目線からどれくらい先に何がありと絵を示しながら一つ一つ答えていくのだが、その絵は丸と四角と三角とが入り乱れており、何を描いているか理解が出来ない。二人の軽快なやり取りが部屋に響く、今は会議中で、この部屋には陛下もいるのだが、その陛下も含め皆面白そうに二人のやり取りを見ているので、誰も咎める者はいない。
「普通あれを聞くだけであの絵を理解出来るのか?」
ユリオは隣で控えているキョウに尋ねたのだが、同じく近くで控えていたノースが答えた。
「ユリオ殿下、ポールのあれは兄である私や父も理解できませんよ」
「そうなのか?」
ユリオが、シュロに尋ねると「無理です」と一言返された。暫くすると「出来た。ノースもう一枚」と言ったヤナギが2枚目は迷いなくスラスラと描いていく、描かれたのはアトル国内の地図だ。一枚は補完用、もう一枚が今から使用する物。アスペル達には流石に見せれない物である。
「ヤナギ腕を上げたな。私の知っているアトル国だ」
「お褒め頂き光栄です陛下」
シオンは補完用の地図を確認し、タルロに手渡し、それをしっかりと箱に収め鍵をかけた。
「ポール続きを」
「では、地図を基に説明します。まずアトル国は、エテ国とあの国の間に挟まれてはいますが、陸続きではなく岩山の上にあると考えた方が良いですね。国同士の境目は川と岩肌になります。標高もかなり高く上へ行けば行くほど霧が濃くなります。城の位置はここです。国自体はそれほど大きくはありません。アスペルが催事に訪れていたのは、地上に近くエテ国近郊の村になります。そしてライラック殿やスノード殿下が今居られるのが、城から見ればかなり真下の位置にはなりますが、この辺りです。ここは迷いの道とも呼ばれているらしく、霧が濃いの道が複雑な上危険な為、他の国民達は立ち寄ることもしないので誰にも知られていない場所になっております」
「あの国の者を見た場所は?」
「この酒場と冒険者ギルドです」
「それに関してご報告があります」
声を上げたのはヤナギだ。手にした書類を机に広げてゆく
「エテ国のギルドでは差し止めておりますが、この依頼が出回っております」
「捜索……これはアイリスのことか?」
出ている依頼内容を見たユリオの顔が険しくなった。
「だと思われます。またギルド登録に新たに来た者達の中で、書類上釈放となっている者達がおり、全て東側に行く依頼を受けていると言う報告がありました」
「それは確かか?」
問いかけるシオンの声は、重いものだ。
「エテ国本部の冒険者ギルドでは、登録している冒険者を把握するために人相書をしており、そちらを確認致しました所、私のが認知している人物達の顔を確認しました」
ヤナギが認知している顔という事は、彼が以前捕縛した者たち並びに、城が保管してる罪人達のリスト内の事を指している。
「あとは……ヤグル、アヴァール商会を知っているか?」
「アヴァール商会ね~ここ数年で出来た比較的小さな商会だけど」
「アヴァール?」
ヤナギに問われたヤグルマギクが、手帳を見ながら答えていると、ダルマギクが訝しげに声をあげた。
「お爺様?どうかしましたか?」
「レン、大戦中我先に逃げ出した腰抜け隊長がアヴァールという名ではなかったか?」
「そう言えば、ケイの前任の総隊長の家名がそうだった」
「そんな奴いたか?「そのような者居たか?」」
ダルマギクとレンギョウの言葉に、ケイジュとシオンが首を傾げた。
「陛下はまだ幼かったので覚えていないのは無理もないかと……だが、ケイ仮にも上司だった者くらい覚えたらどうなのだ?」
「と言われてもよ~ダルが俺を無理やり引っ張ってくる前まで、最前線の地方に居たんだぞ。覚えている訳がない」
総隊長の役に付いている人の名前くらい覚えているものではないのか?とユリオとキョウが顔を見合わせていると、当のケイジュが言いたいこと察したのか首をすくめて言った。
「殿下、あの頃地方で戦っている兵なんぞ使い捨ての駒なんですよ。そんな駒に王都での話など耳にもしませんよ。それほど緊迫していましたからね」
「なるほど……」
「覚えるのが面倒だった様にも思えるが……ヤナギくん続きを」
レンギョウは呆れ顔を隠しもせず、ケイジュを見た後、ヤナギに続きを促す。
「この東側に行く依頼を出しているのが、アヴァール商会なのです」
「あの家は、戦が一旦落ち着いた時に何食わぬ顔して戻ってくるので、追い出した後色々あって没落したと聞いたが――」
「関連性があるかどうかは、分からぬが……ダルマギクよ。一から洗えるか?」
「陛下のお望みとあれば」
ダルマギクは胸に手を当て礼をした。
「では、おまえに任せる。アトル国の件もだが、根源を叩かなければ解決せん」
アトル国は巻き込まれたという事だ。
「では、我々も備えなければ」
シュロがおもむろに立ち上がったところをノースが止める。
「陛下。ガーベラ・シエル王妃よりお手紙です」
「タルロ」
ノースが取り出した手紙をタルロが受け取り、読み上げ始めた。
「「シオン陛下。このような形でご挨拶することになりましたことをお詫びいたします。まずは、娘のアイリスを保護していただき有難うございます。記憶の事を甥達から聞いております。あの子に気に病む必要はない無事で良かったとお伝え願いますでしょうか?此度の件で、ライラック様と危惧していたことが確信に変わりました。息子たちには伏せておりましたが、かの国から以前アイリスを嫁にと打診がありました。ライラック様は昔の一件もあり、とても丁寧にお断りしたのですが、今度は国の一部の者が同じ話を持ち掛けてきたのです。かの国の御方の事ですから簡単に引いてくれることは無いと思っており、どうするか悩んでいた所に此度の一件が起こりました。兄上が娘を見つけていなかったらと思うと身が凍るような思いです。私が記憶しているだけのこの件に関わりのある国の者たちの名を2枚目にしたためておりますが、どこまで根を民まで広げているのかは私の方でも把握できておりません。ライラック様が目覚めるまでの間、お力添えを頂けれと思います。ガーベラ・シエル」後追伸がありますね。「兄上が来ると事がもっと大きくなりそうなので、来ないでください」と書かれております」
「ガーベラ……」
追伸の内容にひどく納得してしまい、シュロの何故だと言わんばかりの呟きには、誰も答えなかった。
「さて、どう動くか」
「陛下」
「どうしたユリオ」
ユリオを見るシオンの目が、試すようなものに変わった。ユリオはその視線を受けながらも悪戯が思いついたかのように笑って言った。
「ここはひとつ正面から向かいましょう!」
ユリオの言葉に予想していたのかキョウとヤナギのため息が自然とこぼれたのは無理もない。
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