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記憶を無くした空の騎士姫と太陽王子  作者: 桜月雪


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28.

お読みくださり有難うございます。

 

 アイリスに迫る勢いで近づいていた男は、突如両腕を掴まれ停止した。


「アイリスは記憶を失ってるって言っただろ?今のお前は見知らぬ人間なんだからただ怖がらせるだけだぞ」

「な!だが、俺は――」


 止めたのはノースとポールなのだが、今度は3人で話はじめ――いや、2人で諫めるといった方が今の状況を表すのに最適だろう。背後にいる大人たちは見ているだけ――いや、ユリオが止めろということなのだろう。軽く咳ばらいをし男に向けて言った。


「私はエテ国の王子ユリオ・ソレイユだ。貴殿は?」


 男はハッとしてユリオに向き直り、軽く頭を下げた。


「失礼した。私はアトル国の王子アスペル・シエルだ」

「アイリス……お前の兄だ」

「兄……」


 シュロの言葉にアイリスは呆然と呟いた。


「まずは、みな座りなさい。アイリス嬢も」


 シオンが静かに命じた。

 アスペルと名乗った男はユリオ達の向かい側、アイリスはユリオの隣に腰を下ろした。

 アイリスは、突如言われたことに動揺を隠せずにいたのだが、突如背中に3発パシッと何かが当たったのと同時に、背後からの圧を感じる。


「ヤナギ何投げたの」

「稽古用の紙、これなら大きな怪我にならないだろう?」

「紙ってこんな音するんだね」


 アイリスとユリオの背後で控えているヤナギとノギがのんびりと会話をしている。荒療治が過ぎると呆れたユリオだがアイリスの顔色が少しマシになっていたので、咎めることはせず、膝の上で手を握りしめているアイリスに、大丈夫だとポンポンと軽く叩いたのだが、アイリスはそのままユリオの手をぎゅっと握ってきたので、ユリオもそのまま握り返し、シュロにもう一度問いかけた。


「シュロ殿先ほど言われたのは?」


 シオンがシュロを見て頷いた。シュロは一つ息をつくと話し始めた。


「アイリス・シエルが彼女の本当の名です。アトル国国王ライラック・シエルと私の妹ガーベラ・フドルの間に生まれた子で、私にとっては姪です」


 ユリオはそれを聞いて納得した。アスペルの面立ちが、ノースとポールと似ていたのだ。それと、この事を知らなかったのは、この場にいる者で、ユリオ自身とアイリスという事になる。背後で控えている3人からは何の動揺も感じない。


「東の地を回っていた時に、アイリスを見つけたのは偶然です。その時にはすでに気を失っており、私はアトル国に何かあったことを悟りました。実際私がアイリスを保護しその場を離れてすぐ、追ってらしき者たちが、アイリスを探しているのを確認しました。状況を知るにもアイリスが目覚めてからの方が良いと思ったのですが、目を覚ましたアイリスは記憶がありませんでした。アトル国とエテ国では互いに何かあったときに密書を飛ばす約束をしているのですが――」


 それが届かないという事は国王自身に何かあったという事になる。話を続けたのはシオンだった。


「アイリス嬢、ここから先貴方にとってつらい内容になるかもしれないが聞くか?」

「はい」

「分かった。ライラックは私の友人でね。流石に密書が届かないとなると表立ってこちらも動くことは出来ない。だからノースとポールにアトル国へ赴くように命じた。では、2人からの報告を聞こうか」


 シオンがそういうと、控えていたノースが代表して話始める。


「私たちがアトル国に到着した際、「国王を王子が襲った」という話を耳にしました。さらに調査を続けていると、それを吹聴するものがいるのです。何か裏があると思った私たちは、二手に分かれて調査をすることにしました。そこでポールがアスペル王子を見つけたのです」


 ノースが言葉を区切りアスペルを見る。彼は承知したと頷くと「あの時――」と話し始める。


「私と母は国の麓にある村での催事に呼ばれており、参加をしておりました」


 アスペルは隣にいる。女性を示しながら話を続ける。ら


「この者は、リンと言います。私たち王家に代々仕えているものなのですが、彼女が「陛下が何者かに襲われた」と急ぎ伝えてきてくれたのです。催事が終わるのを見計らって急ぎ村から戻り、城に戻るのかと思いきや父が居たのは、彼女たち一族のみが住む集落でした。リン、君が知っていることを」

「かしこまりました。私たち一族は代々、国の中心から少し離れたところに住んでおります。この場所は、王族の直系の方々以外国民は知りませんし、陛下方がお越しになる際もいつもなら私たちに先触れを頂くのですが、その日はブロンが全身に矢傷を負った血だらけの陛下を抱えてきたのです。その時陛下はまだかすかに意識があり、王子に急ぎ「敵は中にいる」そして狙いは姫様だと……伝えろと命じられ、私たちは内密に王子に伝えると共に姫様を探しておりました」

「ブロンとは?」


 シオンが問うと、ポールがそれに答えた。


「外見はホワイトウルフ似の魔獣です」

「魔獣はこの近隣諸国にはいないはずだが……」


 この世界は広い、ある国は魔法が使えるとか、ある国は、恐ろしい魔物がいるとか話には聞いているだけで、このエテ国近隣の諸国では、そういったものとは無縁だ。冒険者の多くがそういった世界に憧れて冒険者を目指すくらいだ。


「密輸から逃げ出してきたのか怪我をして倒れているのを幼い頃のアイリスが見つけ手当てをしたのですが、懐きまして、基本的にアイリスの命しか聞きません。私たちの話も聞いてはくれるのですが、アイリスの言葉がまず絶対のようで、私たちが駆け付けた時には、父は昏睡状態が続いておりまして、父の傍らにブロンが付いているので、アイリスの命が父を護れだったという事にはすぐに気が付きました。私がそこで分かったのは、アイリスと父が一緒にいるところを襲われ、アイリスはブロンに父を託し囮になったのではないかという事だけです。アイリスの所在が分からず、父も意識がないので、敵を炙り出すためにも私はリンと情報を集めておりました。そこでポールと会ったのです」


 アスペルが区切ったところで、ポールが口を開いた。


「シオン陛下。まずライラック王の容態ですが、スノード殿下に見てもらったところ矢傷は数十か所、すべて遠距離からの攻撃だそうです。また矢じりに強めの毒が仕込まれていたのか、傷の回復を阻害しているそうで、今シン医師に毒の解剖を頼んでいるところです。スノード殿下は「ライラック殿だからまだ命がある」と申しておりました。また、ライラック王を襲った者の中に、アルト国の重鎮たちも関与しているようで、アスペル王子が動けないのも国民が人質となっている為、敵の特定が難しい状況でございます。アイリスが狙われている真相はまだ分かりませんが、一部の者からアイリスが巫女の様に崇められているのも要因かと思われます」

「ライラックでまだ命があるか……ケイジュどう見る?」


 話を振られたケイジュは、苦笑いをしながら言った。


「ライラック殿で、それなら私でも厳しいかと……彼が帯剣もしていない時を狙っていたのかと思われますな。でなければ、彼が今の状況になるのはまずありえないかと、あと巫女の様に崇められているとは、アスペル殿は知っておられたのか?」

「一部の者がそういった事を話しているのは知っております。アイリスの容姿は父に似ましたが、髪と目は父より母の要素の方が強く引き継いだのか、私の濃い藍とは違い珍しい空色ですし、あとブロンが常に傍にいるので、神聖化する者もおりました。アイリスは否定していたのですが……」


 ユリオは、隣で話を聞きながら手が小刻みに震えているアイリスを横目で見た。


「(記憶を失っている間に、自分の家族が危険な目に合っていれば無理もないか)」


 狙いはアイリスだ。自分のせいで、父親が危険な目に遭い、自身は記憶を失っている。アイリスにとっては苦しく辛い状況である。


 そこから更に数分立ったところで、「アルブル前伯爵とフドル前公爵がお見えです」と来訪を告げる声があった。部屋に入って来たのは、ヤグルマギクとシンを背後に連れた。ダルマギク・アルブル前伯爵とルドベキア・フドル前公爵だった。


「「シオン陛下、ユリオ殿下お久しぶりです」」

「元気そうで何より、それより報告があるのだろう?」

「私ではなく孫がですが」


 シンが促され前に出る。その時にアイリスを見た後、ユリオを少しばかり見つめた。シンも状況を聞いているのだろう。その表情は少し辛そうだ。


「スノード殿下より託されたライラック陛下の血液の解剖が終わりましたので、ご報告申し上げます。まず、矢じりに含まれていた毒物ですが、複数に及びます」

「複数だと」

「はい。毒と毒が作用し回復を阻害しているため、現在の昏睡が続いているように思われます。私の目から見ても生きているのが不思議なくらいです。これから急ぎ解毒薬を調合したのですが、城内にある薬草ではいささか足りないものがありまして、私の家の方へと急ぎ遣いを出したいのですが」


 城内に薬草を入れるには許可がいるそして今回は急ぎの案件だ。ユリオは背後を向きノギに問う。


「ノギ、アルブル家へ行くとなるとどれくらいかかる?」

「私の足ですと速くて、1日半ですかね」

「これを私の妹にでも渡せばすぐにそろえてくれるよ。後これはカレンから」


 ユリオが誰に頼むのか見越しての事だろう。ヤグルマギクがノギに手紙と食料と水を手渡している。


「すぐにそろえてもらえるならもう少し早く帰ってこれそうです。ところで、ユリオ殿下」


 ノギがユリオを見た。ユリオはノギが何を言いたいことが手に取る様に分かってしまった。アルブル家の方角はシオンの座る窓側――


「陛下少しの間だけ目をつむって頂けますか?」

「ヒイラギには黙っておいてやる。頼んだぞ。ノギ・エール」

「有難うございます。陛下」


 ノギは、シオンに一礼し、ふとアイリスに視線をやった。


「お嬢そんな顔するな。大丈夫だ!お兄ちゃんに任せなさい!」


 朗らかに笑ってアイリスの頭を撫でた後、そのまま3階の窓から飛び出した。約2名ほど唖然としているが説明が面倒なので、他の人に任せるとしよう。


「私は今手元にある物で調合を進めておきます。アイリス嬢、以前あなたにお渡しした種を見せていただきたいのですが」


 ノギを見送ったシンが、アイリスに問いかける。アイリスは黙って頷いた。戸の外でゼラを呼びに行ったヤナギが戻り、アイリスに小声で告げた。


「アイリス。俺かキョウが行くまで、シンとカレンの傍から絶対に離れるな。何かあればゼラに言え」

「……分かった」


 アイリスとシンが退席したあと、後ろで静かにしていた、ルドベキアが


「では、アスペルとリンさんかな私と向こうで話をしようか」


 戸惑うアスペルに、ルドベキアは穏やかに笑い


「最後に会った時はまだ小さかったから覚えておらんのも無理はない。私は君の祖父だよ。少し孫と語らいたいだけだ。それと君たちは少し休んだ方が良い。解毒薬が出来るまでは、動けないのだから休みなさい」


 そう言って二人を半ば強制的に、促して退出していった。


「ルドに任せておけば心配はいりませんよ陛下」

「分かっておるが、ルドは戦闘には向かんぞ?」

「オリーもついていると思うので大丈夫ですよ。では、本題に入りましょうか?」


 ケイジュのその言葉で、場の空気が再び変わった。


 

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