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記憶を無くした空の騎士姫と太陽王子  作者: 桜月雪


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27.夜空

お読みくださり有難うございます。


お話しの区切り上今回は短めです。

 

 ユリオとアイリスが目にしたのは、夜空の色だった――


 ***



 ユリオがアイリスに兄弟の契りを渡してから数日後、スノードがユリオの執務室を訪れた。


「ユリオしばらく城を空けるよ」


 入って開口一番にそれを告げたスノードにユリオは驚いた。


「叔父上が?隣の部屋で話そう」


 2人が隣室に行くのと同時に、ノギが部屋の窓に手を掛けようとしている。


「ノギどこへ向かうつもりだ?」


 優しい声色だが、非常に拘束力がある。問われたノギは、さびた鉄の様にぎこちない動きで声の主を振り向き引き攣った笑みを浮かべた。


「やだなぁ~師匠逃げ……空気入れ替えようとしただけじゃないですかぁ~」

「殿下の品位を落とすような行動は控えろとあれだけ「あああぁ〜分かってますよ」」


 ノギが耳を塞ぎこれ以上は聞きたくないと意思表示をする。それを呆れたように見ていたヒイラギは思い出したかのようにノギへ何かを手渡し、受け取ったノギは顔を真っ青にして「横暴だ。これ絶対あいつらの分も入ってる」などと小声で文句を言っている。


「あれは?」


 一部始終をずっと見ていたアイリスは、同じく隣で見ているヤナギにそう問いかけた。


「あれはね。父さんの課題」

「課題?」

「そう。何かあってもすぐに動けるように、色々と状況に応じた課題を出されるからどうやって対処するか案を出すんだよ。弟子に定期的にやらせてる」

「兄さまたちも?」

「普段はそうだね。たまに三人で、課題を解いてることあるよ」


 まだ唸っているノギを置いてヒイラギは、アイリスの目の前に立ち言った。


「こうして面と向かって話すのは初めてだな。ヤナギの父、ヒイラギと申す。息子が世話になってる」


 先ほどとは打って変わって穏やかな雰囲気を纏っているヒイラギは、笑顔でアイリスに言った。笑った顔は祖父も含めて皆そっくりだと思った。


「アイリスと申します。師に世話になっているのは私なので、あと兄達とシュロ様がお世話になっております」


 兄の師で、シュロの同期だ。「ヒイラギ様に会ったらしっかりお礼を伝えてくれる?」とカトレアに言われていたアイリスは、その事もしっかりと伝えた。


「君があやつらの影響を受けていないようで安心した」


 酷く安堵した表情でヒイラギが言うので、アイリスは首を傾げた。


「影響ですか?」


 この問いにヤナギが笑いながら教えてくれる。


「ノースとポールとノギって単体だと普通なんだけど3人混ぜたらだめなんだ」

「そんな生易しいものではない。シュロに至っては一人であの3人分だ」


 何かを思い出したのか今度は苦い顔をするヒイラギに、ヤナギが笑いながら続ける。


「アイリス難しく考えなくていいよ。ただ父さんの中では四人とも劇物扱いだから。混ぜるな危険!ってことだよ」


 兄達やシュロは何をしたんだろうと、アイリスは思ったが口にしなかった。聞けば自分の中での彼らの像が崩れていきそうな気がしたのだった。

 ヒイラギが仕切り直すように咳払いする。


「スノード殿下が暫し城を離れる事になった。護衛は私が行く」


 ヤナギとノギそして茶の準備をしていたキョウに流れる空気が張り詰めた。


「スノード様がね」


 医務局を束ねているスノードが城を離れることはあまりない。この言い方だと遠方なのは分かる。


「あぁ、それに最近スノード殿下の周りが少し騒がしいから用心にこした事はない」

「なんでこうも過激な方々が彼方に集まるのかね?」


 ノギが酷く面倒臭そうな顔で言った。キョウがヒイラギに茶を勧めながらそれを軽く嗜めている。


「その件も関係があるのだが、アイリス嬢」

「はい」

「我々が戻るまでは、城内を移動するときでもここに居る3人の内1人は必ず共につけて欲しい」

「ユリオ殿下ではなく私ですか?」


 驚いたように言うアイリスに、ヒイラギは静かにうなづいた。


「表立ってこの城内で、ユリオ殿下に手を出す馬鹿は流石にいない。奴らはあわよくばユリオ殿下も手中に収めたいと思っている。そして今その為に欲しているのがフドル家に連なる弟子2人もしくは君だ」

「フドル家は改革派ですよね?」

「子供達はまだ公言していないから引き込みたいのだろう。それに外向き弟子2人は、誰の傘下にも入っていないからな」


 その2人は任務で不在となると、狙われるのはユリオに近いアイリスという事である。保守派の餌として動くことになっていたアイリスだったが、状況が悪い。保守派が大人しいのは水面下でスノードが抑えているからであって、目が届かなくなれば何をしでかすか分からないのがいる。


「分かりました」

「まぁお嬢、当分は執務室(ここ)と部屋の行き来だけにしておこう!」


 静かにうなづくアイリスに、難しく考えるなとノギが、朗らかにそう言った。


 だが、スノード達が城を離れて2日後の昼――

 近衛兵が部屋を通したのは、ロランだった。


「ユリオ殿下〜お食事届けに来ました!」

「カレンに何かあったか?」


 ロランは食事の準備をしながら


「姉さんとシンさんは、急ぎしなくてはいけない事が出来たらしく此方に来れないそうです。だから僕がお届けに来ました!ちゃんと料理長達に許可貰ってますよ!」

「ロランの事は信頼してるから心配してない」

「そう言われると嬉しいです!俺早く一人前になりたいんです」


 そう笑いながら話していた昼だったが、夕刻になり、厳しい顔つきをしたヤナギが執務室に入ってきた。


「ユリオ殿下、陛下がお呼びです。キョウ、アイリス、ノギも来るように」

「分かった」


 ヤナギを先頭に廊下を進んでいくがその間、ヤナギは何も言わない。前方にある人物を見つけたアイリスは、小声で名前を呼んだ。


「ポール兄さま」


 呼ばれたポールは何故か辛そうな顔をし、アイリスの頭を静かにひと撫でした。途端に不安がよぎるアイリスだったが、ヤナギが扉に向かって声をかける。


「ユリオ殿下並びに側近の者たちをお連れしました」

「入れ」


 返答と共に扉が開き入ると、中にいたノースの傍に、頭からローブをすっぽりと覆ったユリオの見知らぬ者が二人ほど居たのだが、その者たちは、ユリオの背後を見ていた。


「アイリス無事で‥‥‥」

「姫様……良かった」


 一人がこちらに駆け寄らんばかりに近づいてくるだか、その拍子にフードが取れ


 ユリオとアイリスが目にしたのは、夜空の色だった。


 アイリスの晴れた日の空の色とは真逆の――


 深い藍――


 冬の澄んだ夜空の色――


 それをそのまま切り取ったような藍さだった――


 

 

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