25.不穏な影
久しぶりの投稿です。
お読みくださり有難うございます。
「若様、アルブル家からの使者がいらっしゃっています」
「直ぐに行くから客間に案内してくれる?」
「畏まりました」
手にしていた画材道具を置いて伸びをしていると、くすくすと可笑しそうに笑う声が聞こえ振り向くと当人は絵筆を持ったまま言った。
「ヤナギ人に会う前に、着替えなさいね。背中に塗料がついてるわ」
「え、うそ」
「嘘じゃないわ。スケッチしかしていないのに何処で塗料をつけてくるかしら」
窓辺に近寄り自身の背中を見ると、何処かで服が掠れたのか濃い塗料がついていた。
「取れるかなこれ」
「リィナに頼んでおいてあげるわ。人を待たせてはダメよ早く行きなさいな」
「有難う。母さん」
母に夕飯は共に取ると伝え、部屋で着替えを済ませた後、応接室に向かった。
「コムラ?」
「ヤナギ様。連絡も無く訪れて申し訳ございません」
頭を下げるコムラに、ヤナギは大丈夫だと告げ、人払いをした。
「何かあったのか?」
「まずはこれを……旦那様が見つけられまして」
そう言って取り出した紙の束にざっと目を通す。どれも必要なところだけを抜粋した内容だった。
「昨晩ケイジュ様とレンギョウ様にもお見せしたところ……ケイジュ様が嫌な予感がすると」
ヤナギは途端に眉を顰めた。
「爺さまが嫌な予感って言ったのか」
「はい。冒険者ギルドでここ最近の依頼の場所と主を探せとも」
ヤナギは思案顔になりぬつも手は忙しなく資料を確認している。
「俺がいる方が、全て閲覧出来るしな……爺さま達は?」
「大旦那様とフドル前公爵を王都へお呼びになったのと、此方は外をもう一度さらうと……後双星が調べている件も絡むだろうとも言っておりました」
「他国まで絡んでくると厄介だな。ヤグルはなんて?」
「若様は、我らの国内で動くとすれば、年が明けてからだと……」
年末にある事といえば、フドル2部隊との統合の一件
「少し待ってくれ」
ヤナギはそう言うと、使用人を1人呼び出した。
「ノギは?」
「畑の方で庭師と話しておりますが……」
「火急だと呼んできてくれないか?今日出る予定を早める」
「では準備しておきます」
コムラとヤナギが話していると、ノックもそこそこに扉をあけ放つノギがいた。
「返事を待ってから開けろって言われてるだろ?」
「急ぎって言ったのヤナギだろ?コムラさんおはよう!」
「おはようノギ君」
ヤナギやヤグル達には、敬称も敬語もつけさせないコムラだが、ノギだけは彼の自由にさせている。曰く、「私はただの平民ですので、彼と元が近しいのですよ」だそうだ。両者がそれで納得しているのであれば、ヤナギがとやかく言う必要ない。
「で、どうしたの?」
ヤナギは見ていた一部をノギに渡した。
「爺さまが嫌な予感がするんだとよ」
ノギは先ほどのヤナギと同じように眉を顰めた。
「大将が……それ絶対当たるやつじゃん」
「ギルドへ早めに出かけるぞ」
「俺今日のお昼楽しみにしてたのに……」
「そういうと思って軽食運んでもらってる。コムラも食べてくれ、先に着替えてくる」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
支度を終えて正面玄関ではなく、使用人用の裏口へ向かうヤナギに、コムラは視線を向けた。
「どうかしたか?」
「いえ、相変わらずお上手だなと」
「そうか?コムラは表向き俺たちに依頼をしている商人ってことで受付では通す」
「かしこまりました」
各国にはそれぞれ、国という機関のほかに、冒険者ギルド、商業ギルド、農業ギルド等それぞれの分野で、ギルドが作られている。最終的な統括は国だが、基本的にはギルド内で、連盟をがあり各々その規定に従って仕事をしている。他国で商売をするのも依頼等受けるのもまずは、ギルドを通すことになっている。エテ国内でも領地ごとに点々と小規模なギルドがあり、王都はその国のギルド本部が置かれている。
「いっつも思うんだけどさぁ~なんで冒険者ギルドの扉ってこう物々しいんだろう?」
「さぁな……」
「他のギルドでは受けられるのに、こっちで受けられないってなんだよ!」
「ですからランクの条件が足りてないものは、お受けできません!」
ノギが扉を開けると受付で、ガタイのいい男が怒鳴り込んでいた。周りも止めるすべを持たないのか迷惑そうに遠巻きに見ているだけだ。
「黒豹」
「いってらっしゃい」
ノギが笑いながらヤナギを見送る。
「ギルドマスタとの面会を」
低い声が男の声に割り込む形でギルド内に響く
「あぁ?なんだよこのガキ」
威勢よくヤナギを睨みつける男だが、受付にいた職員はヤナギを見るなり「ただいま呼んできます」と立ち上がった。案の定男は黙っていない。
「テメェ俺様に割り込むんじゃ……」
そのままヤナギに突っかかろうとしたが、気が付けば天井を見ていた。正確には、ヤナギがわずかに重心をずらし足払いしただけだなのだが、男は何が起きたのか分からず、面白いくらい呆けた顔をしている。
「は?」
自分を見下ろす青年が冷めた目をしながら淡々と述べる。
「程度が知れる。それに依頼のランク分けは、すべてのギルド共通だ。お前の言うギルドはどこだ?然るべき対策をしてもらわなければ、不必要な損失を被る」
「誰が!」
「おぉ~鬼智待たせたな」
地面に転がっていた男は今度は驚きに目を見開いた。
「このガキがSSランクの鬼智……」
「ランスは?」
「呼んだ~」
やたらとガタイのいい男が地下へと通じる階段から上がってきた。ヤナギは、床に寝転がった男の襟首をつかみそのまま放り投げる。男は綺麗に放物線を描くようにランスと呼ばれた男の腕に収まる。
「こいつを再教育しろ」
「はいはい。さぁ行くわよ!鬼智ちゃんまたね」
身体に不釣り合いな話口調のランスは、そのまま男を抱えたまま地下へと消えて行った。
「悪いな」
「そう思うのなら早めに出てきて対処しろ」
「そしたら育たねぇだろ?お!黒豹も来てたのか上で話聞くよ」
エテ本部ギルドマスター、ラークについて行きギルド最上階にある彼の部屋へと向かう。扉を開けると副ギルドマスターのロウもいた。入ってきたヤナギ達を見て、目尻を下げて言った。
「久しいですね。お二方」
「久しぶり変わらずだね~」
「後ろの方もどうぞ」
椅子に座り一息つくとヤナギが本題を切り出す。、
「去年の暮から直近の依頼内容をすべて見せてもらいたい」
ラークが理由を説明しろとヤナギを見たが、ヤナギはただ一言しか言わない。
「いやな予感がするんだとよ」
「「はぁ~当たるやつだ」」
途端にラークとロウが嫌そうな顔をする。先ほどのノギと全く同じだ。ノギがコムラの耳元で説明する。
「この二人はギルドにいるけど、こっち側の人だよ」
「道理で……」
「ロウ出してやってくれ、ついでにお前も手伝ってやれ、あとお前はこっちな」
そう言ってヤナギを逃げぬように、抱えて別の部屋へと向かう。助けろとノギを見ているヤナギに、此方は任せてと手を振って見送った。
***
抱えられて着いた先はラークの私室だ。マスター用の執務室には私室もある。ラークはヤナギを下ろし、戸を施錠した。そうする事で完全な防音となるからだ。
「久しいなヤナギ」
「ラークも相変わらずだな」
冒険者ギルドでは基本的に実名を知っている間柄でも登録名やチーム名を言うのがルールである。
エテ国には、王の影と呼ばれる部隊がある。その構成人数を知るのは王族と影の部隊たちだけで、王宮内の様々な職員としてまぎれていたり、ラークやロウの様にギルド等で、活動しているものもいる。この二人に至っては、ギルドの役職に就くつもりは無くただの冒険者として過ごすはずが、当時Sランクの実力を持っている適任者がこの二人しかおらず基本的にこちらで活動している。因みにヤナギも幼少期から影の一人で、王の命令で、王宮内の下っ端に紛れて各部署を転々としていたが、まさか王子の近衛部隊になるとは思ってもいなかったのである。冒険者の資格を持っているのは、こちらでしか取れない情報もあるからである。因みに王族であるユリオを除くとキョウ、ノギ、ヤグルは影の存在があるのを知っており、ヤナギが身を置いているのも本人から伝えられている。
「で?別件で何かあるのか?」
「これだ」
手渡してきた書類はすべて依頼書だった。ヤナギは素早く目を通し始める。
「他国のギルドで出されたものでな、こっちのギルドにも回って来たんだが、内容が内容だったんでな。俺以外はまだだれの目にも触れてない」
「人探しね」
「心当たりあるだろ?」
「あるな……他国では出てるんだな」
「あぁ、それはさすがに止められない。報酬が報酬だ自国になければ他国に来る。お前たちが探しているのは?」
「多分関わっているな……持ってくるには量が多くてな。抜粋した物だ。読んだら燃やせ」
読むや否やラークの眉間にしわが寄った。
「ちょっと待ってろ」
そう言って外に出て数分。抱えてきた書類を机に置いた。
「これは、ここ数ヶ月で冒険者登録してきた者たちだ」
紛れてはいないか?という意味だろう。ヤナギは書類の一枚を手に取った。
「お前、人相書きまで用意したのか」
「こちらで把握するためだ。問題の種は積んでおかないとな。それにさっき見たく最近は素行が悪い新人が多い。対策を練ろうにもな」
「マスターの集いは2ケ月後か」
定期的な意見交換の場である。
「一応書面にしたためて、対策案を各々考えてもらっているんだが、ヤナギちと暴れない?」
「目立つ行動は避けたいんだが?」
「SSランクが何言ってる」
「SSに推薦したのはお前だろう」
冒険者としてそこそこのランクにいれば得られる情報も変わるためある程度のランク上げはしていたが、SSみたいに目立つものは避けたかったのだが……
「俺だけじゃない、悩みの種の闇ギルド壊滅させたんだから満場一致だったぞ」
この話は終わりが見えない物なので、ヤナギは強制的に話を打ち切った。
「これはそのまま表に出さないでくれ」
「分かったが、他はどうする」
「任せる。双子もこっちの件でまだ戻っていないんだ」
「戻れば動くんだな?」
「主体が殿下になるなら俺も出る」
「その時は知らせてくれ」
「分かった」
話を終え部屋を出ると黙々と作業をしているコムラとロウがいて、ノギに至っては半分死んだ魚の目をしてる。
「真面目にしろ」
「してるよ。これとこれが怪しい」
「おや?それと似たようなのがこちらにもありますよ?」
「輸送護衛ね……それも同じ方面か」
「こっちはそんなに物騒じゃないし変でしょ?」
資料をすべて確認するのに夕方近くまでかかり、その中で怪しいのが数件――
「この商会を調べられるか?」
「いいぞ、分かり次第そっちに連絡する」
「頼んだ」
他にもやることはある。ヤナギは帰ろうと立ち上がると後ろから声がかかった。
「お前少しは休め、動きすぎだ」
軽く手を挙げて返事とする。
だが帰った後に従者にまで同じ事を言われ、告げ口したのがノギだと悟る。
「あいつ……」
自身の寝台に寝ころびながら今日の事を反芻する。
「(それにしてもあの依頼……目的はなんだあの時の言葉と関連があるのだろうか)――さま、にげてか……あの人に話聞いてみるかなぁ」
相手の目的が分からないのであれば、持っている情報をつなぎ合わせるしかない。
ヤナギが見た人探しの依頼
そこには良く知る人物の特徴が書かれていた――
空色の髪をした。少女
空色の髪は珍しいのだ。空色の髪をした人物が何かに巻き込まれて記憶を失い。その身柄を誰かが探している。
「警備強化するしか……いや鍛えた方が早いな」
ヤナギのその考えが届いたのか、王宮にいたアイリスが寒気を感じたのは言うまでもない……
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