23.素質と予感
お読みくださり有難うございます。
「お待たせして申し訳ない」
「いや、こちらが急遽願ったのだ。気にしなくていい」
ユリオ達が夜のお茶会をしているのと同時刻――
アルブル家の王都の屋敷に、ケイジュとレンギョウが尋ねてきていた。別件を先に片づけていたヤグルマギクが応接室に入ると、控えていたメイドがそっと茶をテーブルに出す。ワゴンに乗ってるボトルは未開封のままだ。
「ワインを開けなかったのですか?」
「3日前に約束をしていたなら開けたが?」
遠回しに、「寝ずに本を読み漁っているのだろう」と言われ、ヤグルマギクは黙って茶を一口飲み言葉を濁した。
「センリョウが戻って来た時に開けましょう」
笑いながらレンギョウに諭され、仕方がないとヤグルマギクはメイドを下がらせた。
「で、お話とはアルカイック家の嫡男の事でしょうか?」
「流石だな。情報が早い」
素直に感心したケイジュだが、ヤグルマギクは苦笑しながら首を振る。
「殿下が教えに来て下さったのですよ。後調べろと」
「殿下とは、ユリオ殿下か?」
「私が基本殿下と呼ぶのは、ユリオ・ソレイユ様ただ一人ですよ」
ケイジュやレンギョウが知っているユリオは、基本的にいい子なのだが、たまに悪戯をして傍にいるキョウが困っているのを見たり――まぁ無邪気な子供の印象が強いのだろう
「お忘れですか?殿下の教育係は、私やヤナギと同じく祖父がおこなったのですよ?」
「そうだったダルだったな……」
ヤグルマギクやシンの祖父ダルマギクは、レンギョウの傍で宰相補佐として仕えていた。戦争が激化し一部の貴族たちがわが身可愛さに、騎士としての仕事を放り出して田舎に逃げ帰り、指揮官を失いながらもなんとか立て直そうと残っていた騎士たちの中で、ケイジュを見つけ隊長に推したのが、ダルマギクだった。
その戦争が、終わりの兆しが見えた時、手柄だけを取りに戻ってきた一部の貴族たちを何食わぬ顔で妨害したのもダルマギクだった。ケイジュとしては、戦争が終わり平和になればそれで良かったので、他はどうでも良かったのだが、「いざという時に役に立たない人間に、無駄な地位を渡してもこの国が腐る。それに私は、しがらみ無く信頼できる親友が欲しい。なので、レンギョウ様この男を巻き込みましょう!」とケイジュの目の前で堂々と宣言したのであった。それがのちの侯爵という地位を賜った話につづく――
「殿下がダルに影響されているのか……」
何と嘆かわしいと言う顔をしたケイジュに、ヤグルマギクは、祖父は一体何をやらかしたのだと思いながら誤解が無いよう事実を先に述べた。
「殿下は教えられる以前に、全部息をするように素でやっているのですよ。祖父から教わったのは、知識を広げただけにすぎないと思います。まぁ外交するにはまだ甘い所がありますが……」
「殿下も16歳になったのだったな」
「はい」
大戦時いつ何が起きるか分からないからと、次期王の後継者争いなどという無駄な内戦を起こさないために、先王シランが、早々に王位を長男のシオンに譲り、後方から全面的にフォローに回っていた。当時は幼い子供と言えどいつ国が滅ぶのか分からない以上、皆色んなことに生き急いでいた時代ともいえよう。大戦が終わり、ユリオを授かったシオンは、自身の子供の頃とは違いもっとあらゆることに目を向けて欲しいと、段階を経て教えていく事にしたのだ。
貴族や王族の振る舞いは、切っても切り離せるものではないのでさておき、ユリオは国内の領地やそこに住む人々、内政などを重点的に学んでいた。そして16歳という成人の節目を迎えたところで、国外の事についてこれから知識を深め、陛下の代理として外交をさせると内々に決めていたのだった。
「先ほどユリオ殿下は、素でやっていると言っていましたが……」
レンギョウが引っかかった部分に対して問いかけたのだが、ヤグルマギクは困ったように笑って言った。
「そのままの意味ですよ。計算なしで素で駆け引きをしているのですよ。そうですねぇ〜その人の本質を見抜くといいますか。殿下はまず直感でその人がどんな人なのかを見極めそこから実際に接して擦り合わせて行ってるんですよ。だからあの人の前では下手な嘘は通用しません。私なんか初対面で「無理して笑わなくていいぞ」と言われましたから」
表情を隠すのが得意だと思っていたと言いながらそれを見抜かれたことに対し、嬉しそうにしているヤグルマギクを見てダルマギクの血を引いているなとレンギョウは思う。貴族の外交など表面のみで繕った腹の探り合いだ。だからこそ本音で話すことの出来る存在ほど貴重なのだ。
「殿下の今後の成長が楽しみですね」
「えぇ、守るべきものの指針が定まればまた変わってくるかと思います。まだ自身の気持ちに蕾が生ったところですし」
国外に出ていた二人の話や国内で起きたことを話していると控えめに扉をノックする音が聞こえた。
「若様、旦那様が戻られました。すぐそちらに向かうとの事です」
「分かった。コムラも同席してくれ」
しばらくしてコムラと手に何故か大量の資料を抱えたセンリョウがやってきて、抱えている物の隙間から顔を覗かせる。
「お久しぶりです。レンギョウ様、ケイジュ様」
「お久しぶりです。センリョウそれは?」
「いやぁ~ちょっとおかしな数字を見つけまして、他の所にあるものと照らし合わせていたら何か面白いものが見つかるかと思いお二人にもお見せしようかと」
そう言って広げた書類は、財務や物流関連の物から何故か人事関連の物まで多種多様である。
「若様、ヤナギ様がアイリス様に伝えたうえで餌にするそうです。アイリス様に至っては、元々お兄様方が戻るまで、休暇の日は東の宮殿から出ないようにと言われていたそうですが……」
「そうか。どちらにしろ今年の末には貴族たちは荒れることが分かっているのなら早めに情報が欲しい。ヤナギの明日の予定は聞いてる?」
「明日の休暇は、ご自宅に戻られた後に、冒険者ギルドで聞き込みに行くとだけ」
「コムラ、明日ヤナギについて行け、ギルドに出てる依頼をここ数ヶ月分すべて探れ、ヤグルマギク借りるが良いか?」
資料と懐から出した地図を睨みながら読んでいたケイジュが声をあげた。ヤグルマギクは訝しげにケイジュに問う。
「構いませんが、なぜまたギルドの依頼を」
「ここを見ろ」
ケイジュが指示したのは、刑吏の退所人数。軽度な犯罪などは厳罰の期間が終われば、解放されるがここ数ヶ月の退所人数が明らかに前年より増えている。
「そしてこの国境付近の関所を通った人間の数が近いんだが……」
「ギルドの依頼を調べるのは、内容ではなく向かった場所と出している依頼主ですね?」
「あぁ」
レンギョウは隣に座るケイジュが纏う空気が変わったのを感じる。気遣わしげに彼に声をかけてた。
「ケイジュ?」
「センリョウ、ダルとルドを至急王都に呼べ、来るついでに情報拾って来いと付け加えろ。嫌な予感がする」
ケイジュの最後の一言を聞いた途端レンギョウとセンリョウの絶望感を顔に浮かべている。どうしたのかとヤグルマギクが父センリョウを見ると困ったように言った。
「ケイジュ様の嫌な予感は当たる。コムラ手紙の用意を」
「畏まりました」
静かにそして急ぎ足でコムラは出ていった。
手紙とそしてそれを届ける従者を呼びに行ったのだろう
まだ思案顔をしているケイジュに、レンギョウはふと思い至った人物の名をあげた。
「ケイ、オリーにも伝えるか?」
「オリーか……俺恨まれないか?」
遠い目をしたケイジュに、レンギョウもあーと声にならないため息をついた。ヤグルマギクは一部からその愛称で呼ばれている人物が頭に浮かぶ
「オリーとは、オリヴァー殿の事ですか?」
オリヴァーとは書庫にいる書庫長の事である。
ヤグルマギクからしたら己と同じくらい本にのめりこむタイプの本友達である。年代的には祖父達とそう変わらないので顔見知りなのは知っているのだが、何故今彼の名が上がるのか分からず、向かい側に座る2人を見る。
「あの人は元々諜報とかまぁ色々裏で動いていたんですよ」
「表では書庫長として長いからな知っているのは一部の人間だけだ」
元々静かに本を読むのが好きな人間なのだが、戦争ならそんな暇はない。因みに諜報向きだと連れてきたのはダルマギクで、軍部の機関として走り回らせていたのがケイジュである。ヤグルマギクはそれを聞いて納得してしまった。人の出入りが多いと言うことは、それだけ噂も飛び交うのだ。
「貴方が一言嫌な予感がすると言えば動くが、オリーに小言を言われるのは決定事項だな」
「あいつの小言は長い、レンが代わりに聞いてくれ」
「そこは、ルドに任せよう適任者だ」
本人がいないところで勝手に話を進めている時点でだいぶあれだが、少なくとも祖父たちが動かなくてはならないほどの案件になりつつあると言う事である。
「この件どこまで知らせますか?」
「俺の推測が正しいのなら双子が調べている東の案件も絡んでくる可能性がある。こちらが、動くとすれば二人が戻った後だが、実際に動くとなるとヤナギを含めユリオ殿下たちになる。それまでに出来る限りの情報が欲しいが、今殿下に伝えるのは得策じゃないな」
「殿下に伝えるのは、情報が確定次第という事でいいでしょうか?双星の任務についてアイリスには何も伝えていませんし、ヤナギにはコムラが伝えるとして他3人にはこちらから先に伝えておきます」
「何かあれば、私の屋敷の方で城内だと何処に耳があるか分からない」
「では父とルドベキア様にはフラウ家に向かうように付け加えます」
この件と年末のユリオの近衛騎士の件すべてうまくまとまるように調整するのが己の仕事だ。
「(書庫にこもるのは全部終わってからかぁ~なるほどオリヴァー殿も同じ気持ちなのだろうな)」
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