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記憶を無くした空の騎士姫と太陽王子  作者: 桜月雪


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22.癒えない傷と悪夢

お読みくださり有難うございます。

 

 ノギは、街の広場でぶんどり物の酒を飲みながらゲラゲラ笑う男たちを見て、心が真っ黒に塗りつぶされている感覚を感じでいた。


『いい?心配なのは分かるけどしっかり前見て歩いていくのよ?お薬お願いね。母さん助かるわ。有難うノギ』

『『お兄ちゃん。はやく帰ってきてね』』

『これは、護身用で持っておきなさい。父さんが行けたら良かったんだが、すまないなノギ』


 冬の流行り病にかかった兄妹の薬を買いに、ふもとの村へと早朝に出かけるこの時期の山間は、陽が沈むのが早いため、数日後に荒れる天候を見越して、大人達は建物の補強に朝から忙しそうにしていた。


『ノギちゃん。お使いだって?帰ってきたら家に寄ってね。甘いもの持って帰りなさい』

『ノギ〜気をつけて行けよ』


 自分の姿を見ると手を振りながら声をかけてくれる。

 小さな村での当たり前のような日常だった。だが半日かけて戻った村の景色は一変していた。


 まだ微かに火が残っている家

 無数の矢や槍が刺さった誰だか判別できない黒い塊かあちこちにの転がっている。言葉にならない叫び声をあげ、自分の家の場所まで無我夢中で走ったが、その場所にあったのは、つい先程見たのと同じ光景で、違ったのはそれが庇うように折り重なっている事だけだった。


 ノギに出来たのは、畑にするつもりで柔らかくしていた場所の土を掘り、泣きながらみんなを供養することだけだった。


「(許せない。許せない。こいつら許せない。)」


 護身用だと持たされていた短剣を握りしめ、男たちへと向かって行ったが、呆気なく投げ飛ばされる。


「んだぁ?このガキ」

「お前なんかしたのかよ」


 下品な笑い声が耳に響く、ノギは男達を睨みつけながら吠えるように叫んだ。


「よくも‥‥‥よくも村のみんなを」

「おい誰だよ始末し忘れたバカはよぉ〜坊やお仲間と同じように刺した後に火炙りにしてやるぞ」


 ニタニタと笑いながら、男はゆったりと歩いてくる。手にある短剣を握りしめたノギは、次の瞬間呆気に取られた。


 こちらに来ていた男が向こうに吹っ飛んでいたからだ。


「大丈夫?」

「……」


 自分の前に立ち首を傾げて問いかける少年が、弟の影と重なる。違うと分かるのは、漆黒の髪と真反対の月夜に照らされて金色に光っているからだ。それでも似ている。別れる最後の寂しそうな顔が浮かび視界が滲む。


「あの人達が言ってたの本当?」


 その少年は、酒が入ってるせいなのか呆然と起きた事を理解出来てない顔で、飛ばされた男を眺めている一団を指す。


「俺その時村に居なかったから分からないんだ。でも戻ったらみんな……」

「そっか……これは君の?」


 短剣がいつの間にか少年の手にあり、なおかつ腰に下げていた鞘にしまわれた。


「父さんが護身用にって」

「じゃあこれは君を守る為の物であって、誰かを傷つける為の物ではないよ」

「でも!」

「駄目だよ。敵討ちしても亡くなった人は帰って来ない。そして君も闇から帰って来れなくなる。それは君の大事な人達が望む事じゃない。光の中で真っ直ぐ生きて欲しいって願ってる筈だから」


 少年の歳は、自身と変わらない筈なのに、その言葉に重みを感じた。


『そのみんながお前に、生きて欲しいから生きているんだろう?生きるのを諦めるな』


 先程、貴族の子供に、言われた言葉が頭に浮かんだが、行き場を失ったノギはやるせ無い思いを何処にぶつければいいのか分からなくなっていた。


「でも、仇も討てなきゃ俺は、みんなに何もしてあげられない」

「あの人達は、多分君の村以外にも同じ事をしている。こういう人たちは、しっかりと法で裁くのと、他にも仲間が居ないから聞き出すって父さんが言ってたから……とりあえず君はここから動かないでね!」


 そう言うのと同時に、元気よく一団に駆けていき、大の大人を軽々と倒していく。空に赤の火花が散ったと思ったら時を待たずして白の火花が散った。


 静まりかえった街に、地響きがする。すごいスピードで馬が駆け来ていたからだ。


「やっぱり!こらヤナ!」

「レイ兄、離してよ」

「避難完了の合図が来ないどころか、戦闘が開始してなんですぐ任務完了の合図が上がるの!」

 

 さっきの少年が、怒った顔の青年に捕まっていた。他の大人達は、倒れている男達を縛り上げて


「ヤナギ。避難させたらアルブル殿と待機だと言ったはずだが?」


 物静かな顔をした男の人が、捕まっている少年に話しかけていた。


「街の人達を避難させて、最終確認しに来たら襲われてるんだもん!」


 指し示す少年の指先を追った男達は、ノギを認めると1人が頭を抱えた。


「何故ここに……」

「ごめんなさい。話聞こえて、身体が勝手に動いてました。その子を怒らないで下さい」


 ノギは、素直に謝った。

 ヤナギと言われた少年は悪くない。助けてくれなければ、自分は今こうして話していないからだ。



 ***


「まぁその後俺も怒られたんだけどね。いつかお礼を言いたいって思ってたのに、次に会ったら死にかけてるわ。自分はどんどん危ない事に首を突っ込んでいくし」

「巻き込まれているが正解じゃない?そういえば、ヤナギと喧嘩するのもいつもそう言う時だよね?心配だからって素直に言えばいいのに」


 シンがそう言うとノギは、少しバツが悪そうな顔をした。


「心配というか、ヤナギは強いから大丈夫だって分かっていても何が起きるのか分からない中で、自分がその時側に居なかったからって考えたらさ……俺が、怖いんだ」


 自分とそして近しいものだけの小さな世界の中で、ずっと一緒にいた人……自分と親しかった人……それを無くした時の絶望と喪失感――


「生きてるものは、いつか死ぬ。それは分かってるけど、理不尽に失っていい命なんて1つもない。俺の手はそこまで長くないけど、守れるのなら守りたいんだ」

「そうだな……」


 キョウも自身の無力を嘆くことは多々ある。


「だからと言って、無謀なことして怪我するのはやめてよね。帰りを待つ僕たちの身になってよ」


 待っている者は無事をただ祈るしか出来ない。シンの呆れ口調の叱咤にキョウとノギは、「はい」とはいえずに苦笑で返すしか無かった。


「話し戻すけど、アイリスも妹に似てるんだよね?」

「うん」


 そう言って、ノギが懐からペンダントをとり出した。


「これは、俺がユーくん付きに決まった時に、師匠に呼び出されたんだけど、その時にテスから祝いにもらったんだ」


 ふたを開けると、その内側に絵がはめ込まれている。

 家族が寄り添っている絵だ。出会った頃より少し幼いノギとその両手を掴んでいる小さな双子。


 貴族もいれば平民もいる。特に農村や山に住む人たちは、読み書きができないものも多い為、教会に家族簿の記録のほかに村では、家族ごとに絵姿を描き、村の集会所に置いておくのが常だった。

 集会所が村から少し外れたところにあった為、火事に巻き込まれず無事残っており。名前のない村でも自身の村の役割を示す紋章がそれぞれあり、その刺繍が施された布と絵姿をシオン達は大事に保管していた。

 ノギにとっては家族や村の遺産である。


「これはテスがソル婦人に頼んで、俺の家族の絵姿を描き写してくれたんだ」


 ノギの家族がノギを見守ってくれますように。ペンダントからはその願いがあふれ出ているようだった。


「ヤナギとお嬢はね。雰囲気とかじゃなくて根っこの部分が、似ているような気がするんだ。面影を重ねているようで二人には悪いと思うんだけどね」

「二人ともそんな事気にする人じゃないでしょ?」


 むしろヤナギに至っては、ノギを兄として慕っているように見えるが、こればかりはノギがどう思うかだ。


『あの子の傷は、まだ癒えていない』


 そう辛そうに言った大人がいる。失ったものをは戻らない。大事なものに代わりなどないが、前を向いて歩いて行けるよう。それはノギだけでは無く、傷を抱えているのは、他にもいる。


「シンお嬢が」


 ノギがヤナギを起こし直ぐに、真っ青な顔で魘されているアイリスの下へと駆け寄った。

 ヤナギは何かを呟く、アイリスの小さな声を聞き逃さないよう耳を傾けている。


「ん……どうした?」


 異変に気づいたユリオが、寝起きの声で問うたが、隣のアイリスを見て「何をすればいい?」とシンを見た。


「ユリオ。アイリスの左手を握っててくれる?このままじゃ手に爪が……」

「分かった」

「シン。私がやるわ」


 キョウに起こされたカレンは、ユリオと反対側にそっと腰を下ろす。


「そうだね。同性の方がいい」


 酷く魘されている時、無理に起こすと夢と現実の境目が分からず混乱する事もある。カレンは、アイリスを刺激しないように、ゆっくり彼女の名前を意識がこちらに向くまで呼んだ。


「カ……レン?」

「ええ私よ。アイリスゆっくり深呼吸ね?」


 アイリスが少し落ち着いたのを確認し、シンはどんな夢を見たのか問いかけた。


「覚えている範囲でいい。話す事で解決出来ることもある」

「大丈夫よ!私たちが傍にいるわ」


 そう言ってカレンは、アイリスを優しく抱きしめた。

 暖かい腕の中で、ホッと息を吐く、ふと左手にも覚えのある温もりがあり、そちらに目を向けるとユリオが心配そうに見つめていた。


「いつもはね……」


 アイリス断片的だがよく見る夢の内容を話した。


「死にかけた夢を見るのは怖いわね。分かるわ」

「カレンもあるの?」

「フォレ家は、代々宮廷料理人として王家に仕えているわ。それともう一つが妃や姫の側仕えとしての仕事なの」


 王族を狙う人間は外部だけではない。内部にもいる。そして権力を望む者たちにとって、自身の血縁が混じっていない妃やその子供を狙うのは必然的だった。確実なのが食事に毒を盛ることだった。


「そして真っ先に疑われるのは、食事を作っている私たち一族。私たちは仕えているとは言ってもただの平民。他の貴族からしたら使い捨ての駒でしかない」


 そこで何代も前の妃が、王に進言したのだ。フォレ家は、男が宮廷料理人。女が自分たちの一番近い側仕えとするように、一族から悲しい犠牲者を出さないためには、同じ一族の者が責任をもって職務に当たればいいと、それからフォレ家は忠誠を誓うとともに一族を護るため仕えている。


「その事を知らない人からしたら、側仕えっていう王家の人間と接することのできる美味しい仕事をやりたいって思うでしょ?最初はねぇ王家主催の夜会の時かなぁ~叔母さまやお母様の隣で仕事を覚えながら時々後ろを向いて話しかけてくるユリオの話し相手をしていたんだけど、ふと給仕服の中に紙が入っていたの。身の程知らずって」


 小さな嫌がらせがどんどん大きくなる。とうとう命を狙わる事態も起きてしまった。


「王妃様やカトレア様も心配して見に来て下さったわ。そこで叔母さまも含めてみんなが自分たちの苦労話を教えてくれたの。いわば女の闘いってやつね。それを聞いてたらここで私が怖がって引いたらあっちの思うつぼだって、なら私が替えの聞かない人物になればいい、私の味方を増やしてしまえばいいって」


 一体母たちは何を話したのだと。一緒に話を聞いているユリオやキョウは思う。


「そこからよ。王妃様に頼んで、貴族の処世術を教えてもらったり、王都の貴族平民関係なしに調べて城で務めている女性をまず味方につけていったの。その後薬学も学んで医学や毒の知識も勉強していざという時役立てる用意したの。それでもね。時々殺されかけた夢を見るの」


 何故か楽しそうに話すカレンに、アイリスは首を傾げた。


「怖くないの?」

「怖いわけどね。私の周りには何かあったら助けてくれたり護ってくれたりする人がいるって考えたら怖くなくなったの。「夢でも駆けつけてやる」って言ってくれた人もいるしね?だからアイリスもし今日みたいに怖くてつらい夢を見たら私たちを思い浮かべて……ね?」


 もう一人じゃない抱え込まなくていいとカレンは告げる。


「あとは、夢なんか見る暇がないくらい鍛錬して寝るかだな」

「ちょっとヤナギ!人が良い話したのに台無しにしないでよ~」


 これ以上鍛錬を増やすと言う言葉に夢よりも怖いのは、平然とした顔でそれを告げるヤナギだとアイリスは思ったのだった。






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