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記憶を無くした空の騎士姫と太陽王子  作者: 桜月雪


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21.パジャマパーティー?

お読みくださり有難うございます。

 

 夕食を食べ終え、自室で湯浴みを終えた後、東の宮 応接室の扉前でアイリスは、重い溜息をついていた。

 原因は、今日の合同訓練で自身の失態である。


「まだまだ未熟だ」


 ここで立って落ち込んでいても仕方がない。アイリスが扉を開けると、ふかふかの絨毯の上で、クッションを背もたれに寝転がっているノギ。その隣で薬や包帯を出し入れしているシンとカレン、そして上半身裸のヤナギらしき人物がいた。いつもは、後ろに整えられている前髪が下ろしてある。髪型で人の持つ雰囲気が変わるとは、よく言われるが、元々の顔立ちから幼く見える。言えば怒られるので、口には出さず中へと入った。


「お前たちなにしてるんだ?」


 少ししてから入ってきたユリオは、部屋のど真ん中での光景に呆れ半分で問いかけた。


「こっちに来たら服をひん剥かれたんだよ」

「今の今まで治療しに来ないのが悪い。それに何をどうすればこんな場所にけがするの?」

「それは爺様に聞いて」


 ケイジュによるヤナギの訓練は凄まじかった。あれと同じことをしろと言われても一生できる気がしないとユリオは率直に思う。


「ユリオ来たのか」


 キョウがティーセットを手に持ち隣の部屋から顔を出す。


「ヤグルも誘ったんだが、先約があるそうだ」

「ユーくん、ヤグルとあったの?」

「ああ、用があったからな」

「部屋に居たの?」

「居なかったぞ?ヤグルの部下が連れて来てくれたぞ」


 実際は、連れて来たのではなく、殿下を待たせないように、大慌てで部下が本の山から探し当て引っ張り出したが正解である。ユリオは話しつつクッションを2つ重ねてそこに凭れ掛かり、所在無さげに立ったままのアイリスに、もう一つクッションを引っ張り自分の隣をポンポンと叩いた。


 おずおずと座るアイリスに、思わず苦笑が漏れる。


「まだ気にしてるのか?」

「……」

「それとも俺が、手を握ってたのが嫌だったら悪い」

「違うの……嫌とかじゃなくてただ情け無くて」


 顔を伏せるアイリスに、ユリオは頭をぽんぽんと優しく叩いた。


「あれは、流石に俺たちも予期してないから焦ったし、気にするな。それにずっと伏せっていたら楽しく茶が飲めないぞ」

「……明日から精進する事にする」


 それで気が晴れるなら良いかとユリオは思う。そんな2人を周りは、暖かく見守っていた。


「今日のは威嚇というより殺気?……いや必死の抗議にも見えたよね」


 ノギが笑いながら言う。大勢の部下の前で失態を見せる事のできない悲しい事情を知ってるのはごく一部だ。直接それを向けられていたヤナギはケロッとしている。


「ヤナギは、どうやって……うまく言えない」


 アイリスの聞きたいことを察したのかヤナギが苦笑しながら言った。


「威嚇って言っても色々あるんだよ」


 威嚇は、実際の攻撃ではない。そのように見せることで対象を脅かすものだ。いわば、自身を守るために自身の力を誇示する事。そのやり方は多種多様だ。


「貴族でのやり取りでもよくあるのと同じ、分かりやすく言えば、ユリオみたいに公の場で、相手になめられないよう威厳を保つ程度に相手を威嚇するとか、貴族だと覚えておけって言われる対人スキルだな。で今日みたいな戦闘の場合、まず大事なのは、自身の置かれている状況を瞬時に、そして客観的に見極めることからかな」

「客観的に見極める」

「そう。さっきも言ったように威嚇にも種類がある。特に爺様や師匠が威嚇を上手く使って戦闘するタイプだな」


 裏から暗躍するのが得意なヒイラギは、気配すら消して動くが、ケイジュやシュロの場合は、一人で戦ったり少人数での戦闘を強いられるのが常だった。そのため相手を少しでも怯ませる為や相手が引くことを願って威嚇をすることが多かった。


「誰も好きで殺し合いなんかしないからな。出来れば穏便に戦いを終わらせたかったんだって、まぁ相手からあからさまな威嚇をされたときは、とりあえずこちらを警戒しているか逃げる時間を確保することを目的としていることが多いから。状況を見て判断した方が良い」

「分かった。他に早めに覚えていた方が良いものってある?」

「そうだなぁ……」


 ***


「やっと寝たね~」


 そう言いながらノギは酒を飲む。あれから何故か講義みたいな形になり、半時前にようやく落ち着きキョウたちは、部屋の隅に移動して寛いでいた。


 カレンは、ソファーに身体を丸めて眠っており、ユリオとアイリスは互いに肩を凭れ合ってそのまま寝ていた。


「あれ大丈夫なの?」

「俺たちがいるから大丈夫だろう。他に誰も入らない」

「まぁとりあえずお嬢が、悪い夢を見ずに寝れたらいいけど」

「「……」」


 茶会とは言ったが、実際はアイリスの精神ケアだった。

 今日の演習、殺気に驚いて腰を抜かしたりする者は、半数はいたので、慣れているかそうでないかの違いなだけだ。問題はアイリスだ。殺気に当たられたにしては様子が違った。何かに怯えているように震え、何処か遠くを見ているそんな感じがしたのだ。


「一種のフラッシュバックだと思うけど…」

「記憶を無くす前に、命を狙われていたとかか?」

「可能性としてだよ。ユリオがシュロ殿に聞いた話だと、時々悪夢に魘されているみたいだから今日みたいな日は、特にね?」


 夢と現実が区別できなく、混乱したり場合によっては自身を傷つけるのを防ぐためでもある。


「それにしてもヤナギまで寝たら話聞けないのに」


 ヤナギも起きていたのだが、クッションに頭を置いてゴロっとしているうちに寝てしまった。


「久しぶりに、暴れたから疲れたんだと思うけど」


 そう言ってヤナギの頭を撫でるノギは、優しい目をしていた。


「ノギが、ヤナギとアイリスに接してるの見ている感じが兄さんと似てる」


 シンの言葉に、ノギが驚いたように目を見開いた。そして少し寂しそうに笑って言った。


「ヤナギとお嬢は…俺の双子の兄妹にどこか似ているんだ。まぁ大きくなった二人の姿は分からないけどね」

「「……」」


 ノギが住んでいた村は、()()()な山火事にあって無くなった。後から聞いたのが、ノギはふもとの村までお遣いに出ていて無事だったとの事だ。

 戦争が終わり、国がある程度以前の活気を取り戻しはじめ、今の国に何が必要なのかを見極める為に、視察に出たシオン達と共にユリオが初めて城の外に出た時だった。近隣の村から火事があったらしいと噂を聞いた為、ノギの生まれ育った村に立ち寄ったのであった。

 キョウがそこで見たのは、かろうじて焼け残ったかつて柱であったであろう廃材と地面に幾つも残っていた赤い跡、そして色んな匂いの混ざった異臭が漂っていた。直ぐさま状況を把握する為に動き出す近衛兵。ユリオが「父上。誰か倒れてる」と見つけたのが、ノギだった。「体力が尽きて気を失っている」と言ったスノードの目線は、墓と思わしき土の山が幾つもあるのを見ていた。


 あちこちで馬の蹄の跡がある事から盗賊の類いである事、生存者はノギをおいて1人もいなかった。


 だからノギに、双子の兄妹がいる事も今初めて知った。

 聞くに聞けなかったのだ。ノギ自身も気を遣わせないように話さなかったのだろう。


「俺が目覚めた時、「みんな居ないのに、何で俺は生きてるの?」って聞いた俺に、ユーくんが言っただろう?「そのみんながお前に、生きて欲しいから生きているんだろう?生きるのを諦めるな」って」

「そうだったな」

「それなのに俺は……おっさん達が、盗賊とか街とか話してるの偶然聞いちまって、頭ん中全部真っ黒。泊まってた宿こっそり抜けて、復讐しに行ったんだよ。まぁガキの俺が、敵うはずもなく殺されかけた時に助けてくれたのが、ヤナギなんだ」




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