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記憶を無くした空の騎士姫と太陽王子  作者: 桜月雪


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21.双剣の鬼智

お読みくださり有難うございます。

「双剣の鬼智……」


 先程とはまた違う熱気が篭る中、誰が呟いた言葉に幾人かが反応を示した。


「双剣の鬼智ってあの3大闇ギルドを壊滅させたって言われてる伝説の?」


 今から6年前、人身売買など数多くの犯罪を犯していた3大闇ギルドがたった2名により一夜にして壊滅した。


「双剣の鬼智と黒豹だっけ?あれって作り話じゃねぇの?」

「違う。当人が目立つのを避ける為に、奴らの身柄を全て冒険者ギルドに渡したって話だ」

「それが、どうしたよ」

「双剣の鬼智は、ヤナギ総隊長だ」


 そう断言した男に、周りにいた者達はケイジュとヤナギの方を見やる。


「俺ずっとポール隊長が、実力はあるけど表立って出てこない総隊長の事を高く評価してるの疑問だったんだが、さっきの模擬戦と今のを見て確信した」

「確かにあそこまでの双剣使いは、国にいないが……6年前って総隊長13歳だろ?」

「俺の両親、冒険者ギルドの職員なんだが、一度見た事ある。年はもいかない子供に、大人達が緊張した面持ちで対応していた。今思えばあれは総隊長だ」

「ヤナギ総隊長が、双剣の鬼智ならまぁ俺たちの隊長が、それを知ってて評価していたのもうなづけるな」


 そこそこ通る声で会話しているので、こちら側(ユリオ達)にも筒抜けである。


「キョウ、ノギ何故俺に報告してないんだ?黒豹ってノギの事だろ?」

「事実を言うと俺は何もしてませんよ。ヤナギが投げて横してくる奴らを縛ってただけなので、いやぁ〜あの人達も災難ですよね〜ヤナギの地雷踏んでしまったばかりに」

「闇ギルドって確かあの件にも関わってたやつか」


 ヤナギがユリオを庇って怪我した。子拐い事件である。

 あれには続きがあった。




 ***



 6年前ヤナギは、手傷を負ったものの相手を倒し近くの警備の者達へと引き渡した。だが捕まった者達は、子供の集団だと思っていたのに、完膚なきまでにやられた上に牢に入れられた事に、逆恨みもいいとこでヤナギを恨んだ。


 子拐いも未遂だったために、半年で釈放された者たちは、ヤナギの情報を探す為、親元の闇ギルドへと戻り得た情報が、あの一行がこの国の第一王子とその護衛の少年だという事。そして幾人かの貴族達が、その少年の失脚を狙っている事だった。そこから男達は、ヤナギの身辺情報を集め始めたのだった。


 当時、シオン達は新たな戦争の火種になりかねない闇ギルドの一掃を考えていた。だが中々尻尾を掴めず、冒険者ギルドに、秘密裏に依頼をかけていたほどだった。


 ある日城下町に、買い出しに出ていたシンとカレンが襲われた。幸い非番のレイスに、助けられ城へと戻った2人は、心配をかけたく無いからとユリオに伏せていたが、他の面々には早々に耳に入り、弟が襲われたとあっては、ヤグルマギクが黙っている筈もなく、自分の情報網を駆使して掴んだのが、襲ったのは単なる偶然ではなく、計画的で相手の狙いはヤナギで、裏には闇ギルドが絡んでいるという事であった。


 それを聞いたシオンは、レイス達に命じて解決しようと動いていたが、何処から話を聞いてきたのかヤナギが黙っている訳もなく直談判しに来た。


「陛下その任、私一人に行かせてください」

「しかし相手は……」

「シオン陛下。行かせてください」


 その場を凍らせる事が、出来るのではないかと思うほど低い声で、いつも朗らかに笑っている顔からは想像もつかないくらい、無表情のヤナギがそこにいた。

 シオン含めその場にいた者たちは、未知数の化物を怒らせたと少々闇ギルドに同情したのも無理ない。1人で行こうとしていたヤナギに、ノギが意地でもくっついて離れず出発時に揉めた。


「ユリオはキョウ。シンとカレンは、ノギが護らないと駄目だろ!」

「スノード様やレイスさんがいるから大丈夫だし。俺はヤナギについて行くからね」

「俺1人で行く!」


 がんと譲らないヤナギの頭に、ノギが鉄拳をかました。


「お前だけが危険な所で、俺らは安全な所に居ろって?ふざけるな!お前に何かあったら悲しむ奴がいるの分かってるだろ!1人で暴れるのは構わないけど、俺はなにがなんでもついていくらかな」

「ヤナ、闇ギルドの場所は、ノギくんにしか教えないから居ないと困るでしょ?」

「レイ兄まで!」


 ヤナギが、既に大人をも凌ぐ強さを持っているのは分かっている。だが万が一があるかも知れない。それを皆が危惧していた。


「ヤナ、本当は単独で行かせたくないし、みんなヤナの事心配なんだ。分かってくれる?」

「……入り口までだ。中には1人で入る」

「ヤナギの獲物は、とらないよ。入り口に転がしてくれれば、縄で縛っておくから」


 レイスの説得でなんとか収まり、2人が出発した後、今度はノースとポールまでもがついて行く許可をシオンに取りにきた。


「お前達もか」

「残党が逃げてきたときの処理をいたします。後小規模な闇ギルドは師のヒイラギが既に動いております」

「陛下、心配なさらなくとも弟子達の実力は保証致しますよ」


 シオンは自分の護衛をしている隊員達が苦笑しながらうなづくのを見て、それで良いのか?と心配したのも無理はなかった。


 そして一夜にして三大闇ギルド壊滅

 ヤナギが双剣の使い手となったのもこの時であった。


 ノギは、後の報告に――


「ヤナギは怒らせたら駄目です」


 と笑顔で言ったのが、全てを物語っていた。



 ***



 1人が話せば徐々に広がるもので、観覧席全体がヤナギの話で持ちきりだった。中には嘘の噂で広げられた物もあり、どれが真実なのかと言う話にまで発展した。


「ゼラすまない。お前達の隊にとっては、嫌な噂だよな」

「初めの頃は、みんなで隊長に言ったんだ。「何故、野放しにしているのか」って」


 隊の中で誰よりも努力しているのを知っているからこそ、部下の自分達にとって腹ただしい噂は幾つもあった。


「本当の事を言って俺が目立てば、俺の周りが、標的になる事だってあり得る。俺達が護らなければならないのは、ユリオ殿下の御身だ。危険は少しでも減らした方がいい。まぁお前達に肩身の狭い思いをさせるのは、悪いと思っているが……」


 ヤナギは苦笑しながらそう言ったのだった。


「職務中は、がちがちの怒らせたら凄く怖い人なんだが、休憩の時とかは、年相応の顔になるし、本当は人懐っこくて真面目な方で……だから俺たちは、与えられた職務を精一杯こなして、隊長の力になろうと決めた」

「お前達本当に、ヤナギ総隊長好きだな」

「ロシュ、心配しなくても今日でヤナ坊の味方は増えたぞ。大将呼んだのユリオ殿下ですよね?」


 声をかけられたユリオは、悪戯が成功した子供のような顔をして言った。


「噂を口で否定したって、信憑性がないからな。目で見たほうが、事実を伝えやすいだろ?本当に良いタイミングで帰って来てくれたよ」


 ありもしない噂で一番怒っていたのは、ユリオ・ソレイユであった。



 ヤナギ・ソル――もう一つの呼び名を鬼智



 初めは智略と鬼人から取って付けた愛称だったが、気がつけばその名は至る所に知られていた。但し彼の実力を知らぬ者達からは、名付け当初の意味で捉えられてている――

 この日を境に、彼の部下達含め新たに部下となった者達からは、称賛と敬意を込めて呼ばれるようになった。


 そして影で動く謂わゆる雇われの者達からは、鬼智と聞くだけで依頼を断るくらい恐れられている。

「エテの王族をつついて鬼智を出す(鬼智と決して相対するな。エテ国の王族を敵に回せば、鬼智が出る)」と言い伝わるほどに――



 余談だが、鬼のリスト並びに副隊長組リストを掛け合わせて作られた。訓練メニューを皆「隊長の鬼!」と叫びながらこなすのが、隊内での掛け声になっていった。

少しでも面白いなと思っていただけましたら応援よろしくお願いいたします。

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