20.弱みを握る
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普段からこの手の話題を避けに避けたのが主な原因で、カレン達にヘタレと言われているユリオは、ふと「手を握ったはいいがこの後どうすれば良いのか?」と考えなくていいことを考えてしまった。
「(ここは死角だし、このままでいるのは、別に問題ないのだが……何か話すか?いや、ダメだ。下手に話しても逆効果に……)」
頭の中では、グルグルと考えては否定を繰り返していた。
そんな息子の百面相を横目で面白そうに見ていたシオンは、気をそらしてやろうと思い話しかける。
「ユリオ。父上から何か課題を出されたようだな?」
「は、はい。友好国や敵国など他国について、もっと深く学ぶようにと」
どもって答えるあたりまだまだ修行が足りない。こんな事で外交は、大丈夫だろうか?とシオンは内心息子の心配をする。
「そうか……レイス。あれを……ヤナギが相手ならお前たちも何か得られるだろう」
「分かりました」
レイスは、部隊の面々に合図を送ると隊列が先程とうって変わるように動き出す。ユリオは、その様子を食い入るように見つめていた。
「我が国の隊列の組み方と真逆だな」
「殿下、流石です。これはヒイラギ隊長が、先の大戦時に友好国や敵国の隊の組み方や戦闘方法を研究したものです。ロシュ殿達も隊の動きより、ヤナの動きを見て覚えてください」
ヒイラギが、何の為に研究をしていたのは理由を聞くのが怖いのでさて置き、ゼラ達は後半のレイスの言葉に首を傾げた。
「ヤナギ隊長の動きだけで良いのですか?」
「固定観念を持たないようにする為ですよ。戦い方は常に変わりますが、基礎の部分はそう大きく変わる事はなく、穴となる部分が存在するものです」
「穴となる部分……」
「ロシュ殿、ヤナが決めた。隊で動く時の組み方がいくつありますか?」
「隊長が前衛に入る場合と後衛に入る場合、あと隊長が1人で向かい、我々は後方で待機の大まかに3つですね」
隊長が1人で向かうの言葉に、隣にいたケアン達は聞き間違いか?と問う。
「相手を見た隊長が、俺1人の方が早いから待機って」
「その任務多分、シュロ隊長に来るはずだったのが、ヤナのところにいってしまった任務なので、むしろ隊で動いていたら死者が、出ていたかもしれませんね」
シュロやヒイラギに、直接いくような案件は基本、国家の危機に面するくらいのものが多い。
ヤナギを排除したいが為に動いた筈が、手柄を与える事になるとは当人達も思わなかっただろう。
「ヤナギ総隊長は、1人でそれを……」
「うちの隊長最強ですから!あの素晴らしい動きを見て隊のメンバー全員が隊長に再度惚れましたからね」
「ヤナみたいに、前衛後衛どちらにも動ける人はそう多くありません」
近距離戦で師シュロ、遠距離戦で父ヒイラギ、そして1人で一国を落とした祖父ケイジュという、この国でその部門の頂点に君臨するこの3人の英才教育を受けて育っているからとも言えるが……
「敵の動きを即座に判断し最善の指示を出す。それが我々隊を率いる立場にいるからこそ最も学んでおかなければいけませんからね」
レイスの話を聞きながら、ヤナギの動きを目で追う。動きが突如変わっても直ぐに対応し、それに応じた武器で対処する。これが天賦の才を持つ者かと言われればそうなのかもしれない。
「ヤナギは才能も持ち合わせているが、あれは努力と経験で得た物なんだろうな……」
ユリオが溢した言葉をシオンは、興味深げに拾った。
「お前にはそう見えるか?」
「才能を持っていてもそれに見合う努力をしなければ、宝の持ち腐れですし、経験が無ければ咄嗟の対応なんて出来ません。まぁ1番はヤナギが、訓練しているのをずっと影から見ていましたから」
ユリオが、ヤナギに話しかけたいと思ったきっかけでもあった。直向きに訓練する姿に、幼い自分は尊敬と憧れを抱いていたからだ。
「(それは今でも変わらないか……ヤナギみたいに己に打ち勝つ心を持ちたいものだな)」
ユリオは素直にそう感じていた。
「それにしてもヤナギのやつ楽しそうに、遊んでおるな」
「陛下もヤナが、遊んでるように見えますか?」
「上手い具合にギリギリを攻めるあの顔、ケイジュとヒイラギが、意地の悪い作戦を思いついた時と同じ顔をしとる」
「人聞きの悪い事を言わんでくださいなシオン陛下」
いつの間にか来ていたケイジュは、シオンに抗議を入れながらレイスの肩に手を置いた。
「レイス、ヒイラギとシュロの仕事を割り振ったのは、ヤナギか?」
「そうですけど、何か問題ありました?」
「問題はないが、見事に2人が苦手な物と嫌いな物だけを割り振ったなと。彼奴ら顔を顰めておったし」
後ろでそれを聞いているノギとキョウが、近くにいなければ聞こえないくらいの小声で話す。
「そう言えば、父上が2人の得意分野と苦手分野は、真反対だって言ってたな」
「それを知った上で、割り振ってるね。しかもヤナギは2人の弱みを握ってるから逆らえないし」
「弱み?」
「あの子は、昔から父親の武勇伝より失敗談を聞く方が好きでな?せがまれてあやつの生まれた時からの話を全て聞かせてやったわい」
カラカラと笑うケイジュに、シオンも苦笑をこぼす。
「シュロの弱みは、フドルに昔から仕えている者達に聞いたのだったな」
主人を守るはずの使用人達だが、フドル家に至ってはヤナギはもはや家族の扱いなので、聞けばなんでも教えてくれたのである。
「そうですね〜後王妃様からも色々聞いたと言ってましたよ」
「母上その手の話好きですからね」
「殿下、因みにヤナは、隊長達だけでなく我が隊全員の弱みも握っているので、もしヤナが敵に回ると我々は頭が痛いです」
「俺の方が断然優しい」と言わんばかりとのノギの視線に、ユリオはどちらも変わらんだろうと溜息をこぼした。
「そろそろ頃合いだな。おい!俺と交代してくれ!」
大きな声が聞こえ、ヤナギ達の動きが止まった。
「おお!大将帰って来たのか!」
「おかえりなさい」
会話はかなりフランクだが、全員が軍内での最上級の礼をとっているあたり、ケイジュがどれだけこの隊で慕われかつ敬われているのかよくわかる。
「ヤナギ防具は、全部あやつらに預けろ」
「全部?いいの?」
「たまには思い切り動かないとな?」
ヤナギは、訓練用の防具を取って、差し出された手にそのまま渡す。すると重力のままそれが地面に落ち砂埃が舞った。
「おい!ヤナ坊一体どれだけ中に仕込んでる!」
顔面蒼白で捲し立てる相手に、ケロっとした顔でヤナギは言った。
「ちょっとしか入っていませんが?」
「いやいや、ちょっとの重さじゃねぇよ!驚いて落としちまっただろうが」
手足だけでなく防具にまで重りを入れていたヤナギであった。
「まさかあいつ全部に入れてないだろうな」
「訓練用だけで〜す。立って指導してるだけだと訓練にならないって言ってました〜」
ノギがあまりにも気の抜けた声で言い、キョウが反応を示さないのは、"言ったが意味が無かった"という事だろう。ユリオは呆れて何か言うのを諦めた。
下にいた隊員達と入れ替わりで、ケイジュが降りてゆく、
ヤナギ隊だけでなく、此方も前を陣取るかのように我先に帰ってくる。
「ヤナ坊が本気で暴れるの見るの何年ぶりだろうな」
などと呑気なことを大人達は言っており、ユリオの横にはいつの間にかシンが立っていた。
「シン?」
「ヤナギの怪我って、訓練中が1番多いんだけどなんでか知ってる?」
「いや、分からん」
「新しい戦法の開発だって、無茶苦茶な動きで試すからなんだ。だから見ながらの方が、後でいる薬がどれかわかる」
「なるほど……」
とするとシュロと3人で挑んだ時もその開発をしていたから怪我をしたと言うことになる。シンが普段ヤナギを怒る理由が、なんとなく分かったユリオであった。
「よーし!まず基本からだ。何処からでもこい!」
その掛け声と共に、一部の者を除き全員が、ヤナギの姿を見失った。
「右側が甘い!もう一回」
「はい!」
基本とは?とここで見ている全ての人間が、思ったであろう。まず目で追えない。
「俺、大将に弟子入りしなくて良かった〜」
ノギの呟きにレイスは苦笑した。自分達の隊は、全員漏れなくケイジュに鍛えられているからだ。
ただこれは、ヤナギが規格外なだけであって、自分達にはまだ優しかった……筈である。
「ヤナ坊あいつ速さだけなら隊長達の上いったな」
「甘いと言っても初めの一撃で、勝てる相手がほとんどだろうな」
「ヤナに勝てる相手を探す方が難しいと思いますよ」
「流石、我らが自慢!鬼智の子だな」
憧れの大先輩達もヤナギ総隊長への熱量は、自分達の隣で目を輝かせながら見ているゼラと変わらないなとケアン達は思っていたが、後に自分達の隊長も似たようなものだと、ヤナギの武勇伝を聞かされてから知るのであった。
作者は執筆が遅いのですが、頑張って書くので、最後まで応援していただけたら嬉しいです。
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