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記憶を無くした空の騎士姫と太陽王子  作者: 桜月雪


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16.護るための刀

お読みくださり有難うございます。


 今日は、陛下や殿下方ご家族揃って朝食をとられる日で、とても和やかな朝の時間だった。しかも今日は仕事もスムーズに終わり皆笑顔で交代したのだ。問題の無かった1日は嵐の静けさだったのだとレイスは悟る。


 ――夕刻 南の宮応接の間

 朝とは真逆のピリピリとした空気が漂っている。ただし一部だけであるが――嵐もその一部のみに発生している。


「シュロ隊長が渡しているのは、ネロ印の手入れ道具……」

「レイスくん、ネロ印って予約待ち1年のあれかい?」

「ええそれです。手入れの道具でも相当いい値がするって言われてます」


 ソファの背から顔だけ覗かせて向こうの様子を見ていたレイスは、振り向いて答えた。レイスと同じように3人を見ているキョウは無表情なのだが、引き気味の声で言った。


「ヒイラギ叔父上が渡してるのは、ヤナギが好きな数量限定の菓子」

「よっぽどヤナギに嫌われたくないのだなあの2人は」

「陛下笑い事ではないですよ」


 可笑しそうに笑い全く止める気のないシオンにレイスは苦言を漏らす。今こちら側にいるのが、陛下であるシオンとその妻ユリ、スノードとその妻サルビア、タルロとその妻リズそしてキョウとレイスだ。


 因みにレイスは、シオンに「今日あの2人は使い物にならないし、面白い物が観れるから一緒にお茶をしよう」と誘われて今ここにいる。先輩達にはズルいと言われた。


「ノギ殿は来られなかったのですか?」


 静かにお茶を飲んでいたスノードの質問に、キョウがヤナギ達を気にしつつ答える。


「ノギが「ノースとポールが居ない時に、俺だけがそこに居ると師匠に「ヤナギの仲裁になぜ入らん!」って後で八つ当たりされるの面倒」と言ってまして、絶対に面白いからとりあえず仕事をノギがする代わりに見て教えてくれと、ここに派遣されました」


 その様子がありありと浮かびレイスは苦笑する。


「ノギくんこの類の話、大好きだからね。今ヤナに渡してる物を隊長達が昼休憩に、急いで買いに出た話をしたらもっと喜ぶと思うよ」

「あぁお腹を抱えて笑いそうですね。それよりも2人とも抜けて大丈夫なのですか?」

「私たちの隊は基本、隊の執務室で食べてるから多少の事なら問題無いよ」


 キョウの素直な疑問に答えると、斜め向かいに座っていたタルロが眉を寄せてお茶を一口飲みつつ言った。


「居ないのはあのバカ(シュロ)くらいで、まぁ派閥争いを好まない者しかいないからな」

「タルロ殿の言う通り、先輩達が口を揃えて「貴族の争いに巻き込まれるの面倒、仲間は疑いたくない」って他に新しい人を入れようともしなかったので、本音を言うとヤナが欲しい」

「それは無理でしょうね〜ユリオの「ヤナギは渡さん」ってセリフと顔が直ぐ浮かぶくらいには」


 キョウの言葉をレイスは理解している理解しているのだが、本音を言えば


「ヤナがいれば隊長達が真面目に仕事するのに」

「……ヒイラギ叔父上は仕事しているのでは?」

「キョウは知らなかったな」


 タルロが苦笑しながら答える。


「ヒイラギは、仕事も早く的確に指示を出せるのだが、自分がやりたくないもしくは、面倒だと思った物は、絶対にやらないどころか上手くその仕事を他人に押し付けている。基本その仕事は、フラフラといなくなるシュロへ回っていく」

「それですよ!急ぎの案件とかあってもシュロ隊長は捕まらないし、ヒイラギ隊長は気配を完全に消して隠れるし、結局私達が案件を片付ける羽目になり、仕事が増えていくという」


 絶望感漂うレイスに、キョウは同情の眼差しを向けた。


「だからヤナギが欲しいと」

「円滑に仕事を回したい……」

「キョウその手にしてるの頂戴!」

「ヤナギ食べるなら座って食べろ」


 背後からキョウに飛びついたヤナギは、貰ったクッキーを頬張りながらキョウとレイスの間に座る。


「ヤナくんお茶どうぞ」

「リズおばさん有難う」


 隊長達は?とレイスが、視線を巡らせると深緑の液体が入ったジョッキを一気に飲んでいた。キョウはそれを見ると古いブリキの玩具のように首を動かし恐る恐る問いかけた。


「ヤナギあれはカレンスペシャルか?」

「そうだよ」

「……色が濃いように見えるんだが?」

「カレンスペシャル濃度100%!」


 キョウの表情が呆れを通り越して完全に無表情になった。スノードは困り顔でヤナギを見て言った。


「ヤナギ殿それは原液と呼ぶのでは?」

「スノード様そんな原液だなんて〜濃度100%なだけですよ」


 とても笑顔で言い切ったヤナギは、機嫌の悪い時のヒイラギとよく似ている。


「ヤナ、カレンスペシャルってなんだい?」

「カレンが作った色々な薬草が入った健康ドリンク!」


「普段は水で薄めているけどな」とキョウの小さな呟きが聞こえた。濃度100%って事は、薬草そのままの味って事なのか?と恐る恐るレイスがシュロとヒイラギを見ると床と机に突っ伏していた。ジョッキは空なので飲み切ったようだ。


「ヤナギ殿、他の人にアレを飲ませたらダメですからね?」

「シンにも同じ事言われました!それにアレ飲ませるのは滅多に無いと思うのでご心配なく!」


 念を押すように言うスノードに、親指を立てて答えているヤナギだが、怒らせるとアレが待っていると遠回しに言ってるのは気のせいなのだろうか?

 先程の不機嫌さが無くなり、ヤナギはお茶を飲みながらホッと一息ついていた。それとは対照的にキョウの表情は少し暗い。


「ヤナギ、すまないあまり力になれなくて」

「ノギと2人で色々助けてくれてるだろ?」


 あまり表情が変わらないキョウだが、幼い頃から見ていれば多少の違いが分かってくる。助けになりたいが出来ないそんなもどかしさと歯痒さが入りっている顔だ。


「昨日の今日でまだ調整が上手く出来てないがな」

「それは俺たちみんな一緒だよ。まぁ前から決めてた事とかは教えて欲しかったけどなアイリスの師になる事とかさ〜」


 やはりそこは怒っているんだなぁと大人達が苦笑いしている。


「俺だってまだまだ爺様には程遠いのに」


 少し拗ねた物言いに、ヤナギが三方の稽古以外で、唯一怪我をした時の事をレイスは思い出していた。

 ユリオ殿下付きになって初めての護衛任務、帰りの道中に子拐いのゴロツキと出くわしたのだが、無傷の殿下は暗い表情、軽傷のヤナギは殿下が見てない所でかなり拗ねた今と変わらない表情をしていた。

 後々聞けばヤナギは片手に子供を保護しており、ユリオの死角を狙ってきたのを庇った時に怪我したのだが、それが気に食わなかったのか、鍛錬し続け今や双剣の使い手だ。


「まぁアイリスの事は、しっかり鍛えるつもりだけど、本音言うとユリオも含めてあまり戦って欲しく無いな」

「それには同感だが、あの2人は聞いてくれないだろうな」

「何故その様に思う?」


 ヤナギとキョウの呟きにシオンが問う。ヤナギは真っ直ぐシオンを見て言った。


「ユリオ殿下が目指しているは皆が心から笑う国だからです。剣を持つと言うのは守ると同時に奪う事を意味します。だから出来るだけ遠ざけ無ければ、目指すものから程遠くなってしまう。それは私たちが家臣としてそして友人として1番望まない事ですから。それにアイリスも似ているのですよ志が……」

「だからと言ってお主たちが戦い傷つくのをあの子は望まない。それに剣を持たねばならぬ時が来ないとも限らぬ」


 シオンは静かに厳しい口調で言っているが、その視線は温かな温度がある。


「分かっております。ユリオが冗談で言葉を発しても周囲からはそれが殿下の言葉としてとられてしまう。言葉だけで生かす事も殺す事もできる立場にいます。甘い考えだとは私とて思っております。けど守りたいんです純粋に平和を愛するその心を」

「心は決まっている様だな」


 突如頭上からレイス達にとって、懐かしい声が聞こえつられるように上を向く、そこには2人、1人は明るい金の髪に背格好も程よく締まった身体で、柔らかい面差しの武人。もう1人は茶色い髪に細身で、端正な顔の人だ。


「爺様?」

「久しいのヤナギ」


 武人は、ヤナギの頭をひと撫でした後、2人揃って胸に手を当て家臣の礼をとった。


「シオン陛下、ケイジュ・ソル並びにレンギョウ・フラウ戻りましたのでご挨拶をと」

「ケイジュにレンギョウ久しいな。元気そうで何よりだ」

「お二人ともお久しぶりです。あの父上は?」

「スノード殿下もお変わりない様で、シラン様なら孫の顔を見に行くから後で来るとの事です」

「相変わらずですね」


 ヤナギの祖父であるケイジュとキョウの祖父レンギョウだ。声が聞こえた途端に覚醒したシュロとヒイラギは、背筋を伸ばして立っているが顔色はまだ悪い。ケイジュが、チラリと2人を見たが、何も言わずヤナギに視線を戻し言った。


「ヤナギ、私たち大人が未熟なせいで幼かったお前を巻き込んでしまったのはとてもすまないと思っている」


 ケイジュは後悔が混じった顔をしている。ヤナギは軽く首を横に振り言った。


「爺様達は、一生懸命争いを終わらせようとしてた。俺は巻き込まれたなんて思ってない。爺様達の背中見て育ったんだよ?遅かれ早かれ俺はこの道に進んでたし、人より少し早かっただけだよ。俺ねユリオが初め話しかけてきた時、どうやって距離を置くか考えたんだ。一緒にいたら巻き込んじゃうから。なのに逃げても逃げても見つけてくるんだよ?」


 ヤナギが大袈裟に肩をすくめ、その時側に居たであろうキョウはため息をついている。


「終いには、「俺は父上や叔父上が目指す国を共に歩みたい。だけどまだ力や知識が足りないからお前が欲しい」って言われたんだ。始まりはそん感じだったんだけど、今はちゃんと自分の意思で側にいる。それで出したのがさっきの答えだよ。俺は傷付けるためでなく、護るために力を使う」

「分かった。ヤナギこちらに来なさい」


 ヤナギがケイジュの前に立つと彼は、手にしていた包みを開けた。細身の刀身で、剣と少し似たものだ。


「これは?」

「東の国にある刀というものだ。初めにやった剣はお前が一人前になった証にやったものだろ?己が護ると決めたのならそれに見合ったこれお前に渡す」

「有難う爺様」


 ヤナギは嬉しそうにそして決意の固めた顔で受け取ったが、途端に思案顔になる。


「何故腕は3つ無いんだろう?」

「ヤナギますます人扱いされなくなるぞ」

「それは大いに困るね」


 キョウとヤナギのどこからツッコメばいいのか分からない会話を聞いているとケイジュの隣では何故か重たそうな包みを何個か持ったレンギョウが土産だとキョウに渡していた。


「お爺様これは、レシピ本ですか?」

「あぁシラン様のお共であちこち回ったのだが、珍しい料理が沢山あって作り方を聞いてまとめたのだ」


 孫への土産にレシピ本を渡すのか?と普通の人なら突っ込むのだが、相手が趣味と息抜きが料理することのキョウであるため嬉しそうだ。


「お爺様、この国で扱ってない食材もありますよ?」

「心配するなちゃんと種や苗は貰っている」

「因みにレンが好きなのはこれとこれ……」

「おいケイジュ余計な事は話すな」


 その後土産話を手に和やかに夜を過ごした。


 余談だが、シュロとヒイラギは羨ましそうに、その光景を眺めていたのだがヤナギが許さないので、眺めるだけに終わり。シオンがケイジュに事の経緯を教えたので孫が可愛いケイジュに2人が絞られたのはいうまでもない。



少しでも面白いなと思っていただけましたら応援よろしくお願いいたします。

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