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記憶を無くした空の騎士姫と太陽王子  作者: 桜月雪


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閑話 神童 鬼智の子

お読みくださり有難うございます。


近衛部隊執務室――

 その部屋の最奥に座り、隊長と呼ばれている2人の男が、真っ青な顔をして書類と向き合っていた。因みにいつもの十倍速のスピードで仕事をこなしている。そしてその2人の机にこれでもかと追加の書類を重ねていく副隊長と呼ばれている男がいた。

 彼らの部下である隊員達は、誰も止めるどころか心配すらしていない、今日はゆっくり部屋で休めるなと何処か晴々とした顔で各々自分の分の仕事をしていた。


 正午を知らせる鐘が鳴り響いたと同時に2人の姿が部屋から消え、それを確認した、隊員達は自分達の昼食を持って部屋の端のスペースに移動する。


「おいレイス朝何があった?ヤナ坊を怒らせたのか?」


 部屋にいた面々が食べ始めた所で、笑いながら問いかける強面の男。彼に問いかけられたレイスという男は、ここにいる隊員の中では、1番若く穏やかな面差しをしている隊内一の苦労人である。


「それが今朝ヤナ居なかったんですよね〜ノギくんが護衛についていて、話を聞いたらヤナがアイリス嬢の師になるって事を結構前から決めてたのに当人に伝えず、ノースくん達の口から昨日伝えたみたいで、あまりにも無責任すぎる態度に怒っているという」

「今朝会ってないんだろ?あの2人の慌てようおかしくないか?」

「陛下へヤナからの伝言があったんですよ。その内容が「親愛なるシオン陛下、いい茶葉が入ったのでお茶会でも如何でしょうか?あとヒイラギ殿、シュロ殿に今晩、南宮殿の客間で待つとお伝え下さい。」って」


 執務室にどっと笑いがおこった。中にはお腹を抱えて笑っているものまでいる。


「陛下を通すとは流石!!智略ヒイラギの子!あぁ今夜の当番誰だ?変わってくれねぇかな〜」

「おい待て、俺だって見たい」


 見たいと言う声がどんどん増えていく。


「駄目ですよ。有事に備えて万全を期すのが我が隊の心得なんですから、珍しく仕事が早く終わるのでちゃんと休憩取ってください。副隊長命令です」


 キリッとした顔で真面目に告げたレイスに、全員が残念そうにため息をついた。


「お前真面目すぎる……にしてもヤナ坊が弟子を持つのかぁ〜早ぇなぁまだあの事が、昨日のように思い出せるぜ」

「あれか確かに衝撃的だったからな」


 それは終戦して3年目、ヤナギが2歳を過ぎた頃、彼が誘拐される事件が起きた。

 直ぐに救出に向かうべくヒイラギを含めた数名の近衛部隊がヤナギがいるであろう犯人の隠れ家までたどり着いたのだが、扉が開いており不自然なほど静まり返っていた。慎重に気配を消して扉に近づき中を覗いたが、目にした光景に皆足を止めた――


 そこには伸びた複数の男たちと散らばった武器、その真ん中に静かに佇んでいる小さな子供がいたからだった――


「……ヤナ……」


 レイスは、無意識に彼の名前を呼んでいた。ヤナギは彼と視線が合うと、普段自分達に向ける笑顔でレイスの懐に飛び込む


「レイにい!」

「ヤナ、痛いとこない?」

「?いたいとこぉ?ない!」


 ヤナギを抱き留め問いかけつつ彼の身体を確認する。目立った外傷は無いようで、一先ず安心した。隊員に指示を出していたヒイラギがヤナギの元へと急ぎ早に駆けてきた。


「ヤナギ」

「はい!とうさま!」

「何が遭ったか説明出来るかい?」


 少し考える素振りを見せたヤナギは、覚えた言葉を繋ぎ合わせて話出した。彼の話をまとめると――

 町に出かけたはいいが、後ろから来たこの男達に引っ張られここに連れてこられ、縄で椅子に縛られようとしていたところ痛かったので身を捩ると男の顎に足が上手いこと当たったらしい。そこから男たちとヤナギの追いかけっこの始まりだったのだがヤナギもそこからあまり覚えておらず気がついたらこの状態だったという事らしい。


 城に戻り陛下へ報告する際、ヒイラギは陛下とスノード殿下方4名とタルロ、そして陛下付きの近衛部隊以外は人払いした。報告を受けた陛下もこの場にいる者達にヤナギに関する事について箝口令が敷かれた。終戦したとはいえ関係がまだ危ういところも多く国内でも実権を握ろうと躍起になる貴族も増えていた。そんな中でたった2歳の子が複数の大人を相手にしたという事は偶然だと言い張るには苦しく、政治利用などを恐れ、当時まだ総隊長であったケイジュらが地下でヤナギを鍛える傍ら、身を隠すために、タルロの屋敷やシュロの屋敷などを転々とした。


 だが今回の戦で名前が知れ渡っていたソル家は、子供のヤナギが標的になってしまう事は必然的で、彼が誘拐されたもしくは、されかけたのが計40回(この全てをヤナギが、1人で片付けている)

 外部だけではなく侯爵家をよく思わない貴族達などから毒をもられたりと命を狙われる事もあった。

 その為なのか、ヤナギは基本早朝か人目につかない所で1人稽古るす事が増え、幼い頃から知っている者達とも人目がある所では挨拶する程度で、極力目立たぬようにしていた筈だった。

 何があったのかユリオ殿下に気に入られ、殿下達と行動を共にするようにり、正確に言えば逃げ回り避けまくるヤナギをユリオが追いかけていたのだが……


「俺さぁこのまま行くとユリオ殿下が、ヤナ坊を近衛に指名すると思うんだよなぁ」

「俺も思った。本音を言えばうちの隊に欲しいけど」

「殿下相手じゃ叶わないな。ただそうすると反対するアホがいるだろうからなぁ」

「あの子の実力を知らないからな。俺たちじゃもう相手にならないぞ、怪我させるどころか怪我させられてるしな」


 全員思い当たる節があるのか笑い出す。


「鬼智の子が動きやすくしてやらんと」

「そう言えばいつの間にヤナって鬼智の子って呼ばれてるんですか?」

「呼んでいるのは俺らだけだよ。鬼人と智略が育てた子だから分かりやすいだろ?あ!そうだレイスお前だよ」

「何ですか?急に大声出して」


 突然の大声に耳を塞ぐレイス。


「あの2人は近々隊長に上がるお前その2隊の副隊長やれ」

「いやいや何故2隊とも私が副隊長何ですか!皆さんの方が先輩でしょ!」

「陛下とスノード殿下の護衛に別れる時だけしか別れないから同じだろ?お前が1番若いし、あの子と親しいそれが理由」

「なるほどな。あの子の性格考えて先回りしたり、道筋整えてやるのにレイスが副隊長している事によって、今まで経歴が長い者が隊長格に上がっていたのを一気に変える事が出来るから反対派を押さえやすい。それに実力はあるんだからさ」

「そういう事だ。俺たちがやる仕事は何も変わらない肩書きだけが変わるってだけだ心配するな。もうこれ決定先輩命令」


 その様な形で陛下付きの近衛部隊副隊長は決まった。実際にユリオがヤナギを近衛部隊の長に推薦したとき、レイスの例を出して反対派を押さえ込んだのだからこの時の策が功を制したと言えよう。


「最近思ったのですが、私を副隊長にしたのはあの2人のお守りをさせるためなのでは?」


 レイスの問いかけに、暫くの間があった。


「んなぁわけねぇーだろ、考えすぎだと思うぞ」

「それ私の目を見ていってくれませんか?先輩方?」

「おーいお前ら料理長から差し入れもらったぞ」


 扉を開け入って来たのはフドル領のピアスをつけた左頬に傷のある男だ。


「早朝勤務おつかれ〜何か変わった事は?」

「特に無いな。後双星が今朝方任務に出た」

「争い無しに事が終わる事を祈るしかないか……ん?お前腹減ってたのか?一切れ無いぞ?」


 話しながら籠の中身を取り出して手をつけている。


「中庭の裏通路でヤナ坊に会って、腹鳴らしてたから一つやった」

「中庭?あそこはボンクラ子息とポール隊の庁舎しかないぞ?ヤナ坊あそこに行くの嫌がってなかったか?」

「さっき言っただろ双星が出たと、それで2隊ともユリオ殿下の管轄に入る。本人曰く昨日聞かされたらしいが、当面は今まで通りらしい」

「年末から早まったということですか……」


 陛下であるシオンの護衛として常にいるため、基本守秘義務の情報がこの隊には、当たり前の様に共有されている。勿論口外など決して無い。


「そう言う事だな。にしてもユリオ殿下の人事采配には恐れ入った。陛下やスノード殿下に相談しているとはいえ、誰を今の内から手元に置くか自身でも見極めが必要だからなぁ」

「昔ヤナが「殿下は普段危なっかしいけど、洞察力と直感が人とは桁違いだ」って言ってましたよ。まぁヤナが殿下について行くって決めたのは別に理由があるみたいですけどね」

「まぁ俺たちに出来るのは影からあの子達を支えてやる事か、平和になってくると馬鹿な考えを持つ奴が増えるし、今のうちに潰していかないとな」

「発言が物騒ですよ」


 物騒な物言いでもここにいる隊員達が、皆同じ事を考えている。2人の隊長が戻るまで隊員達は、これからの基盤になってゆく者達の話に花を咲かせたのであった。


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