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記憶を無くした空の騎士姫と太陽王子  作者: 桜月雪


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12.侯爵家

お読みくださり有難うございます。

 

 執務室の真ん中にあるソファに座り、書類の整理をしているアイリスは、極力音を立てないように静かに紙をめくっていた。量がかなりあるので自分の机では置けないと判断したためだ。……決して重たい空気から避難するためではない。


 アイリスの机右斜め前で執務室の奥、窓際の席に座るこの部屋の主は、身体を小さくしながら時折此方に、助けを求めるかのようにアイリスに視線を寄越すが、先程ノギに「少なくとも一刻は、助けないでね」と言われたので、懸命に気づかないフリをしていた。


 そして主の机の前で、仁王立ちをし無表情がさらに一層増した顔で、静かに部屋の主に問いかける青年。


「それで、大事な事柄を伝えてない事について「忘れてた」というのは、一体どういう事でしょうか?仕方が無いので殿下の言い訳を聞きましょう」

「……お前達には伝えていたと思っていた」


 部屋の主、エテ国第1王子ユリオ殿下とその側近キョウである。正座ではなく椅子に座らせているだけでも一応敬意は払っているらしい。


「まず、今回の件について色々と対策を練らないといけないですよね?普通の部隊じゃなく、フドル直系の部隊ですよ」

「あっ!」


 声を上げたユリオは、そこを完全に見落としていたと言わんばかりの表情だ。


 キョウの溜息が更に深くなった。


「そこを取り仕切るのが、ヤナギが適任というのは分かりますが、近衛部隊の隊長を任された時も相当風当たりが強かったのを忘れたのですか?先に対策を考えなければ、負担になるのはヤナギだぞ」


 丁寧な口調で怒っていたが、最後の言葉は、友人を案じての事だとわかる。それを聞いたユリオは難しい顔をしている。アイリスは、先程の兄達とヤナギの会話を思い出していた。兄達の「ヤナギ殿自身は、大丈夫か?」という問いは多分この事を指しているのだろう。


 ヤナギは侯爵家の人間だ。フドル家で教わった事とこちらに来てからヤグル達が、教えてくれた事をまとめると。身分で言えば、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順番である。アイリスはメモ用紙がわりに使っていた紙に復習のように書いていく。


 公爵は、元々王家の血筋の者が与えられていた爵位などで、軍部を支えるフドル家、政務を支えるフラウ家(キョウの実家)、この二つはエテ国でも有力な貴族だ。他にも公爵家はあるのだが、アイリスは会ったことが無いので誰かは分からない。血も大分薄まっているらしい。


 侯爵は、エテ国に貢献した者などに与えられていると聞いているが、現在その身分を名乗れるのは、ヤナギの実家ソル家だけのようである。

 伯爵以下は、古くからある貴族達が主で、中でも1番古いのが、ヤグルやシンの実家であるアルブル家である。


 アイリスは、書き出した内容を見た。貴族の身分では、フドル家の兄達が圧倒的に上なのだが、軍階級は同じであるヤナギが、王子の近衛隊長だから王子の配下に居る軍部をまとめる役を担うのは、まぁ納得のいく話である。


 書きながら頭をひねっていると、影が落ちてきたので、アイリスが顔を上げると、キョウが上から紙を覗き込んでいる。ちらりと横目でユリオを見たが、何かを一心不乱に書き、後ろにある窓を開け、ピーピーと指笛を鳴らしていた。


「ユーくん呼んだ?」

「ん」


 木にぶら下がって現れたノギは、ユリオから渡された紙を見て、ユリオの頭をわしゃわしゃと掻き回した。


「おい!ノギ!」

「ははは、よく出来ました。後は俺に任せて!」

「あと……ヤナギにすまぬと言っておいてくれ」

「それは、自分で言わないとね?()()()()一発は覚悟しようね〜」

「それ痛いんだぞ!」


 笑いながら話すノギと顔を顰めたユリオが、わいわいと言い合いを始めた。それを眺めていたアイリスはノギの手の中にある物を指差しキョウに問いかけた。


「キョウ、ノギに渡したあの紙って……」

「対策だろう。で、アイリスは何を考えていたんだ?」

「大まかな貴族の話とか、派閥とかについては聞いてたんだけど、ヤナギの実家……侯爵家の事聞いてなかったなと」

「あぁ、それか」


 キョウは、先程までアイリスが仕分けしていた分をパラパラと確認し、ユリオの机に急ぎの分から積み重ねた後、アイリスの向かいに腰を落とした。そして残りの資料に目を通しながら話し始めた。


「ソル家が侯爵の爵位を賜ったのが先王の時で、その当時まだ戦争が各地であったんだ――」


 "奇跡の男"ケイジュ・ソル侯爵は、ヤナギの祖父にあたる人物で、たった50人の部隊で、200人の相手軍に1人も欠ける事無く勝利を収めた。また彼の指揮した部隊は、負傷者はいるのだが、戦死者を1人も出していない。武術も勿論だが、臨機応変の戦術に関しては非常に優れた才能を持っている。現在は国内外を悠々と見て回っている先王の護衛をしている。


 ヤナギの父、ヒイラギ侯爵とシュロ公爵は、騎士見習いの時に同室で、キョウの父、タルロ公爵も剣技を学ぶ為に、部屋に空きの有った2人部屋に居たのだが、シュロ公爵とタルロ公爵の生活習慣が真逆で、よく言い争っていたのを止める事が出来たのが、ヒイラギ侯爵だったらしい。基本常に笑顔なんだが、怒った時は、普段の倍穏やかに笑い、頭脳戦では、右に出るものがいない。現在の軍部総隊長と呼ばれているのはシュロ公爵だが、実質はヒイラギ侯爵と2人で隊をまとめている。


「因みにヒイラギ侯は、剣よりも暗器の方が得意だったりする」

「暗器?あれヤナギは、剣だよね?」


 アイリスの素朴な疑問に、キョウは言ってなかったなと納得したようで「ここから話すのは近しい人しか知らない話なんだが」と前置きをした。


「ヤナギは暗器だけでは無く武器ならなんでも扱える。まぁそれは置いといてノース殿とポール殿が、ヒイラギ侯に弟子入りしたいと言ったらしい」

「兄様達が?」

「あぁ理由は、「父に教わってたら父に勝てないから」だそうだ」

「兄様達らしい」


 打倒父上!を目指している兄達らしい理由だとアイリスは納得してしまう。


「落ち込んでいるシュロ殿を見て、「じゃあ俺がシュロ殿の弟子になる」ってヤナギが言ったのが、始まりだそうだ。因みにヒイラギ侯の一番弟子は、ノギだがな」

「だからさっきヤナギは、シュロ様の事を師匠って呼んだのね。ノギが兄様達の兄弟子……そういえばノギから大まかに城に来た経緯を聞いたけどいつから城に?」

「俺たちがノギに会ったのが、俺が6歳の時だから7歳だったと思うぞ、俺が側近としてユリオの側にいるのなら、2人が走れないとこには俺が行くって、ヒイラギ侯に弟子入り志願に行ったらしい。後にヤナギから聞いたんだが、「今日から俺がお前の兄になってやると」言ったそうだ。まぁそんな感じで、父親と師から学んだ事を活かして今それぞれの部隊で活躍している」


 キョウは、少し息吐き、昔を思い出すように


「侯爵といえば貴族の一員だ、だけど元々平民だったソル家に、いきなり貴族の立ち居振る舞いを求めても出来るわけがない。お二人とも結構大変だったと言っていた。だからヤナギは2歳の時まず俺の家に1年くらい居た」

「一年も?」

「あぁ貴族としての振る舞い方を俺と一緒に覚えた方が早いと言って、父が家に連れて来たんだ。だからヤナギとはそれからの付き合いだ。確かその後フドル家にも行ったらしいんだが、あそこはカトレア夫人も含め皆騎士だからな……どちらかというと騎士としての振る舞いを覚えたってところかな。そのあと教養を身につけるためにアルブル家に2年ほど居て、6歳の時に騎士見習いとして城に入った」

「ヤナギほぼ家にいないんじゃ……」


 教養を身につける為にずっと他家にいるのは、年端もいかない子供には酷な話だ。キョウは微かに目尻を下げて言った。


「時々侯爵夫人が寂しがるから帰ってはいたぞ、まぁ基本家にいないな。それだけ貴族には厄介な決め事が多いともいうな。貴族に派閥があるのは知っているか?」

「兄様たちから聞いた。フドル家とフラウ家は同じ派閥なんだよね?」

「まぁ表立ってそこまで対立している訳ではないんだがな。俺たちは、ユリオ殿下に仕えているだろう?だが何人かの貴族は、スノード殿下を推しているんだ。当の本人は、「私は王になる器じゃない」と言って昔から逃げているが……簡単にいうと周りが勝手に盛り上がっているようなものかな」


 この話を聞く限りだと侯爵家は、どこにも属していない筈だである。


「ヤナギへの風当たりが強いのは何故?」

「スノード様が王位を継ぐ意思が無いのは周知の事実、なら次の国王になるユリオに取り入ろうと貴族達は躍起になるからな。フドル家や俺の家は、代々王家に仕えているが、ヤナギは侯爵家といえどまだ騎士にすらなっていなかった見習いだった。空いていた近衛隊長の座に、選んだのが殿下自身とはいえ、自分達がそこに入るものだと思っていた者からしたら面白く無い話だ。まぁ後はあれだ、侯爵家は、公爵家の次に身分が高いだろう?王家に、ましてや次期国王になる人間の側にいるって事は、身分とは関係なく権力という力を持つ事になる」

「要するに逆恨み」

「あぁ、ヤナギを追い落とそうと、毎日の様に影から行動を見られていたな。あまりにも度が過ぎていた場合は、ノギが片っ端から捕まえていたがな」


 キョウの話だとヤナギもそれを分かっていて好きにさせていた所もあるのだそうだ。あえて自分と敵対するものを自由にさせるという事は、それだけ気を張り続けてなければならない。自分には到底無理だとアイリスは思った。


「ヤナギが言ったんだ。「敵はいつ来るのか分からないからいい修行になるだろう?それに、いざっていう時に、誰が本当に信頼出来るのか見極めるいい機会だろ?」って」

「ヤナギって結構……」

「あぁ、普段飄々しているが、頭の回転が凄く早いだけでなく、敵に回すと厄介な奴だ。因みにそれにノギが加わるともっと面倒な事になる」



 キョウは、少し遠い目をしてそう言った。

 昔何かあったのだろう。そこには触れるのは今では無い気がして、アイリスは書類の整理に戻ったのだった。



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