11.フドルの証
お読みくださり有難うございます。
ヤナギが具沢山なバケットを口に頬張り目を輝かせる。
「これ美味い! 何個でも食える!」
「俺たちの分も残せよ」
目を閉じ味の余韻に浸っているヤナギにユリオがチキンパイを口に頬張りながら言う。
「2人とも考えて食べなよ」
「沢山あるんだゆっくり食べろ」
シンとキョウが呆れ顔で言った。
「これハーブ?」
ソーセージを食べていたアイリスまた一口と食べていると隣でスープを飲んでいるカレンが楽しそうに笑いながら言った。
「そうよ!それね叔母さまが作るの1番上手なのよ」
「父上の好物だからな」
「宰相閣下の好物ね」
ノギが、うまいうまいと言いながら大袈裟に首を縦に振っている。
「キョウの母君は、笑顔が温かい人だよね」
「タルロ殿が、「妻の笑顔に惚れた」って言ってたくらいだからな」
アイリスの言葉にユリオが答えると、キョウがそうなのか?と言わんばかりの目でユリオを見ている。
「確か……3日徹夜で疲れて、木陰で休んでた所に「疲れた時にはこれです」って飲み物を渡されたんだっけ?」
「そうそう、で何かと話すうちに笑顔に惚れてたって……」
「なんで2人が、そんな事知ってるんだ?」
ユリオとカレンが両親の馴れ初めについてスラスラと答える事にキョウは驚いているのか目が若干丸い。
「昔叔父さまが非番で、ユリオと絵本読んで貰った時に聞いたの。キョウが、叔母さま手伝って水やりしてた時かしら?」
「そうそうその時、ってキョウどうした?」
「いや両親のそう言う話は少し……」
キョウは気まづそうに目をそらす。カレンはそんな様子を見て笑いが込み上げてくる。
「ふふっふは、何キョウ恥ずかしいの? そういえば陛下達の出会いも王妃様から聞いたわ」
「母上その手の話題が好きだからな」
「嬉しそうに話してくれたわ」
ウキウキと話す母親の様子がありありと浮かびユリオは苦笑した。
「あ! いたいた」
明らかにこちらに向けて放たれた言葉で、声がする方を向くと、銀髪の面立ちがそっくりな青年が2人、こちらに向かって歩いてくる。ユリオと目が合うと、家臣の礼をとった。
「「殿下おはようございます」」
「おはよう。楽にして構わないぞ」
その言葉を聞くや否や片方が、アイリスの肩に手を置いて問いかけた。
「では、失礼します。妹よ。父上と大暴れしたとは本当かな?」
「ポール兄さん重い。シュロ様は、機嫌が悪かったみたいで……」
「父上機嫌が、悪いと手加減忘れるからなぁ」
遠い目で言うので、フドルでは日常茶飯事なのか?と言う意味合いを込めて、ユリオはもう1人の青年を見ると、笑顔で肯定している。隣でポールの話は続いており本題は先程の出来事では無くその後の事だった。
「いや〜でも見ものだったよ。絵師が居たら描かせてたくらい。タイトルは……鬼人と鬼夫人」
「ポール兄様怒られるんじゃ……何かあったの?」
「うん? 父上が演習場を整えてるのを鬼の形相で、母上が見てたからさぁ〜俺の執務室から見えるんだよあの場所、距離的には離れているのに怒気がすごくて、まぁ見てて面白かったけど」
先程の一端を見ているが故にありありと想像出来てしまい「うわぁー」と皆が声に出したのも無理はない。それを面白いと思うかはまた別の話だ。
「ポール殿が描けば良かったのでは?」
「殿下、俺の絵心は壊滅的です!」
ユリオの問いにポールは、両手を前に突き出し首を激しく横に振っている。
「そんなにか?」
「ポールは、簡単な地図でさえ描けませんからね」
「兄上酷いぞ」
ポールが恨みがましく抗議をするが、兄と呼ばれた方は慣れているのか小さく笑っている。
「事実だろう?まぁあの絵とよく分からない説明を聞いて、しっかりとした地図を書き上げる事が出来た、ヤナギ殿は凄いですよ」
「要点は、抑えられていたと思いますがね?」
その時の事を思い出しているのかヤナギが少し考える素振りをした。
「ヤナギ殿だけだよ俺の味方は、あとアイリスそんな期待の篭った目で見ないでくれ」
「アイリス今度見せてあげる。屋敷にまだあるから」
「有り難うノース兄様」
兄のノース・フドル、弟のポール・フドル
シュロ・フドルの息子達で一卵性の双子である。銀の双星と呼ばれる理由の一つでもある。この話をする為にわざわざアイリスを探していたわけでは無いのは分かるので、兄達を見上げて問いかけた。
「で、兄様達は何か用があったのよね?」
「あぁ頼んでた物が出来上がったから持ってきたんだ」
「頼んだ物?」
ノースは、ポケットから小さな箱を取り出した。
「これをアイリスに」
アイリスは、渡された箱を開き目を見開いて固まった。
中に入っていたのは、ピアスだ。
フドル領の騎士達は、一人前の証にフドル家からピアスが渡される。それは、実力があると言う証明にもなり、城内で働くフドル領出身の者は皆着けている。
だからアイリスに手渡されても何の問題は無いのだが――
双子が身に着けているのは、他の物 騎士達とは違い、フドルの直系のみ身につけている。雪の結晶をモチーフとしたフドルの家紋で作られており、全体が銀色で真ん中に宝石が組み込まれている。
そうアイリスが手にしているピアスは、双子と同じデザインの物だった。それは、フドル家を表すということ。
「兄様これ……」
アイリスが戸惑うのも無理はない。ノースは、アイリスに目線を合わせ、そっとその手を握った。
「アイリス、君は父上に会う以前の記憶がない。この先いつ戻るかも分からない、そして記憶が戻った時、少し寂しいが、私たちの事を忘れているかもしれない。この先の未来何が起こるかは誰にも分からない……」
ノースは、優しい笑顔で続けた。
「だから一つの証だ」
「証?」
「例え君が全てを忘れても私たちは君の家族だ。君がこれから先進む道に、私たちフドルの者達が味方になるという事だ」
アイリスの後ろ盾に、フドルが付くという証。
敵に回せば、フドルを敵に回すという事。
「まぁアイリス、これは半分建前で、俺たちが可愛い妹に変な虫がつかないようにする為の印って事にしてよ」
ポールがアイリスの頭をわしゃわしゃと撫でながらそう言った。
「アイリス、兄たちの気持ちを受け取ってやれ、釣り合わないと思うのなら努力すれば良い。俺も力を貸す」
まだ戸惑っているアイリスに、ユリオはそう声をかけた。
「ユリオ……」
「お嬢、俺たちみんな共に成長する仲間だよ。1人じゃない! ってこれは昔ユーくんに言われた言葉だけど」
ノギが笑いながらアイリスを励ますように言った。
ノギは警戒心がかなり強いので、今日初めて会って短時間で随分仲良くなったことに、珍しい事もあるもんだとユリオは、1人感慨深くなる。
アイリスは、みんなを見回し、そしてもう一度ピアスを見た。
「ノース兄様、ポール兄様……着けてくれる?」
2人は、顔を見合わせて笑う。
「「喜んで!」」
アイリスの耳に、ピアスを交互に着け言った。
「「アイリス、改めてフドル家へようこそ!」」
その言葉を聞いた、アイリスがとても嬉しそうに微笑んだ。それが雪解けの花が咲いたようだとユリオは思った。
「「「笑った!」」」
「アイリスもっと笑いなさい!」
アイリスの肩を掴みそう言ったカレンに、ポールは苦笑しながら
「カレン嬢、俺たちもそう言ってるんですけどね。中々笑わない……」
「私、そんなに笑ってないかな?」
「キョウ並みにレア度が高いわ」
「レア度?」
「失礼な俺だって笑う時は笑うぞ」
「「「滅多にない」」」
キョウの抗議は全否定されている中――
ユリオは、アイリスと初めて会ったあの時のように、彼女の笑顔を見ていると、心臓がぎゅっと掴まれる感覚がしたので、疑問に思い軽く心臓に手を当てたが、ただ鼓動が伝わるだけだ。
「どうかした?」
ユリオの隣に座っていたシンが、小声で訪ねてきた。
「いや……心臓がぎゅっと掴まれる感覚したから何事かと思って、病気か?」
ユリオは心配になって訪ねたのに、シンにため息をつかれ呆れ顔で見られた。
「なんだその目」
「流石にそこまで鈍いのはどうかと思うけど……大丈夫だよ。病気って言われればそうだけど、治療法は、自覚して向き合う事だから時間が経てば治るんじゃない?」
「シンでも治せないのか?」
「師匠でも無理だよ。できて話しを聞くくらいかな。本当に苦しくなったら医務室おいで」
シンに優しい笑顔で、諭すように言われ何だか腑に落ちないユリオである。1人言葉の意味を考えているとポールが声を上げた。
「あ、アイリス俺たち暫く任務で、城を離れるから」
思い出すようにそう告げた兄弟にアイリスは首を傾げた。
「2人とも?」
「そう2人での任務」
「危ない事じゃない?」
隊長クラスが2人での任務なので、アイリスの疑問は的を得ているのだが、任務について話せないノースは苦笑して言った。
「普通の任務だよ。大人数で動くより私たち2人で動く方が早いからね」
他国が絡む事柄の何処が普通の任務だ。ユリオが目線で訴えるとポールが困ったように微笑んだ。
アイリスは2人の軽いやり取りで、大丈夫だと信じたのだろう。
「2人とも会話しなくても通じてる時あるもんね」
「よく分かってるじゃん妹よ」
「ノース・フドル、ポール・フドル」
ユリオの声に、双子は姿勢を正してこちらに向き直る。
「何でしょう殿下」
「貴殿らの2小隊を正式に、我の傘下に入れる。総統括はヤナギになるが、基本貴殿らの業務内容はそのままだ」
この2人とヤナギは、軍での階級は同じなので、同列なのだが、必然的に、ユリオの指揮下にいる者をまとめる人間が必要になってくる。
「有り難いお話ですが、宜しいのですか?」
「元々陛下と今年の末には、そうしようと話していたところだ。前倒しでも構わないだろう?」
軍には、様々あって、シュロやヤナギみたいに直属のものもあれば、他のものは、指揮下には全て入っているが、直属という後ろ盾がないので、派閥争いがあると、幼い頃に聞いた。
この2人の隊は、少し特殊なのもあるが、実力がある者しか入れない。入りたい志願者が多い頭脳エリート部隊。ましてや隊長2人がフドル家の者となると、自分の権力下にと思う者やフドル家と繋がりを持ちたい者達などが多いその事について言っているのだろう
「私どもの隊の者達は、異論を唱えるどころか光栄な事だと大喜びする思いますが、ヤナギ殿自身は、大丈夫か?」
ポールが、少し心配するかのように、問いかけている。
ヤナギが笑って言った。
「大丈夫ですよ。今更何か言うのは、あの部隊だけですから」
ノースが、少し考えてる素振りをして途端苦虫を噛み潰したような顔をした。
「あぁ、あの部隊か」
「そうですよ。それにシュロ殿と私の父が、戦友なのは周知ですし、今更権力どうのは関係ないですよ。ただそちらの隊は、他から引き抜きありそうですがね」
それを聞いたノースは、心当たりがあるのか苦笑している。
「昔からあるのですが、基本隊員達が門前払いしてますよ。隊に何の用事も無しに出入りしてるのは、ノギ殿くらいですよ」
ユリオは黙ってノギを見た。当の本人は、ひらひらと手を振って
「飲み友達が多いんですって」
「お互い情報交換してる事もありますがね」
「まぁ外・と・中・の違いだけで、主な部分は似てるからな」
ノギが頷きながら言った。
「そうそう。お互いの有益な情報を伝えないとね」
「お二人は、任務の事、隊の者達には伝えたのですか?」
「これからだが……」
「では午後に、一度皆で顔合わせしませんか?」
「そうだな。それがいい」
「場所は、東の応接間で……よろしいですか?」
「好きに使ってくれて構わないぞ」
ユリオの許可を得たヤナギは、2人に向き直り
「我が隊の者には、話を通しておきます。ノギお前も来いよ」
声に出さず了解と軽く手を振るノギ
「では我々も隊の者達に話してきます。アイリス後で母上と会いに行くよ」
「うん」
2人が、敬礼し去って暫くした後、ユリオ達は食事を再開していた。ユリオが、食べかけていた物を食べ終わり、軽く喉を潤して一息ついた時、それを測っていたかのように
「ユリオく〜ん」
ヤナギの満面の笑みと共に名を呼ばれた。正直嫌な予感がしたが、心あたりがあるのでユリオは逆らえない。
「なんだヤナギ」
机から少し離れた途端、頭を思いきりグリグリとされた。地味に力を加えてあるので痛い。
「さっき一時的って言ったよな。今年末とか統括云々聞いてないぞ!」
「言おうと思って忘れてた」
「忘れるなよ! そんな大事な事!」
「ユーくん、ヤナギが1番苦労するんだから教えてあげなきゃ」
「だから忘れてたんだよ!」
アイリスが、ヤナギに捕まっているユリオを指差しながらカレンと話してる。大方ヤナギとユリオの今の状況に大丈夫なのかと聞いてるか、カレンがこちらに聞こえるように
「大丈夫よ! 今ここにいるの私達と、厨房の中にいる父様達だけだから! それに今回の件は、ユリオが悪い。」
「ヤナギそれくらいにしとけ、ユリオには後でしっかり言っておく」
キョウのその言葉はユリオにとっては逃げ出したいレベルのもので、それを知っているヤナギはユリオの肩に手を置き
「ドンマイ!」
と晴れやかな笑顔で言ったのだった。
少しでも面白いなと思っていただけましたら応援よろしくお願いいたします。
励みになります!




