10.げんこつとチキンパイ
お読みくださり有難うございます。
「はぁ〜」
ユリオは、何度めかわからない溜息をつき、先程の話の続きを繰り広げながら数歩先を歩くノギ達をどう止めるか考えていた。ノギは放っておくと本気で実行に移す可能性がある。
「ノギにあの手の反撃意味ないぞ」
「笑うな、分かっている。しかもアイリス達まで悪ノリするし」
げんなりしてるユリオに、ヤナギが、笑いながらポンポンとあやすようにユリオの頭を撫でた。
「まぁそれだけみんなお前が大事なの」
「半分遊んでるがな……」
「まぁ……愛情表現って事で」
「あ、ヤナギ。2小隊お前の指揮下に入る」
小声だが、ユリオの声色が変わったのと同時にヤナギの顔も軍部を取り仕切る者の顔になる。
「2小隊?」
「非公式で、銀の双星が動く」
「非公式ね。良くない案件か?」
「とりあえずは状況把握と人探しだな」
「この事キョウは?」
「さっき話した。ノギはまぁ……何となく分かってるだろうし、あとアイリスにはただの任務と伝えてくれって言われた」
「ノギの得意分野だもんな。了解!バレたら怒られるぞ」
アイリスが怒るところをユリオは想像した後、ヤナギを横目で見て言った。
「その時は一緒に怒られるぞ」
「巻き込むなよ〜」
ヤナギは心底呆れた顔で言った。
銀の双星、シュロ・フドルの息子達に付いている二つ名で、2人の所属する部隊は、主に国外の諜報など特務を担っており、表向き他の兵達と変わらず任務を行なっている。エテ国自体が広い為、東西をそれぞれ1小隊ずつ担当しているエリート部隊である。
基本的な最終決定は国王であるシオンなのだが、「本の中の知識だけで無く、己の目で見て学べ」幼い頃からそう教えられている事もあり、国内外に関する事は、まずユリオを通していた。だから一時的にヤナギの下に入れたとしても合同で訓練でもするのだろうという程度の認識で済む。
それぞれの国や領地などでもあるように、権力や財力を持つ者が私利私欲の為にそれを振りかざす事……王宮でもそれは変わらない。貴族平民問わずに王宮では様々な人間がいる。上へ行けば行くほどそれは如実に出てくる。軍部でも圧倒的な存在感を持つフドル公爵家に近づこうとする者が多い、だからこそユリオはヤナギを指名した。
剣術大会で優勝した騎士見習いのヤナギは、初めこそ裏でかなり言われていたらしい……これはノギから聞いたので多分本当の事だろう。
優勝候補だったゼラも初めとても悔しそうにしていたが、ある日「殿下! 殿下の護衛騎士団長にヤナギ殿が任命されるの本当ですか!? 私もその隊に入れて頂けませんか!?お願いします!!!」と土下座まがいに来ていた。貴族は情報で生きていると言っても過言では無い、自身と繋がっているものを間者として潜り込ませるのは1つの手段と言っていい。ヤナギの部下達を決める際、ユリオは自身の忠誠などよりもヤナギをどのように見ているかを判断の1つとしていた。だから今ヤナギの部隊にいるのは、彼の努力を知り尚且つその人柄に惹かれている者達で、仕事では出来る人間達だが、任務が終わると笑いの絶えない隊である。
「1人で楽しそうに何考えてるのかな?」
「うん? あぁお前と初めて話した日を思い出してた」
「あぁ、あの時な……」
途端苦虫を噛み潰したような顔するヤナギに、ユリオは笑う。
「後にも先にもあんな風に怒られた事ないからな」
「俺は心臓が本気で止まるかと思ったからなぁ」
そうあれは、ユリオが6歳の頃だった――
***
「キョウ次は何するの?」
「次は、ダンスレッスンだな」
「うげぇ〜俺やりたくない」
「まぁそう言うな、後で甘いものでも用意しておくよ」
身体を動かす事自体は好きなのだが、最近始まったダンスレッスンは、自由に動くどころか、型にはまったステップを覚えなければならなく苦手なのだ。それを知っているキョウは、苦笑しながらやんわりとなだめてくる。その時だった、ぶんぶんと風を切り裂くような音がしたのは――
「なぁなんか聞こえないか?」
「うん? あっちの方か?」
そっと物陰から覗いてみると、少年が稽古用の剣で素振りをしていた。キョウは、ボソリと呟いた。
「あぁヤナギか……」
「キョウ知ってるの?」
「騎士見習いだよ。年は俺と同じだ。」
「ふーん」
何故かキョウが少し寂しそうだったのが印象的だった。それから気になってこっそり何度かヤナギの練習を見に行った。いつも1人で黙々と素振りをしている。どうしてそこまで一生懸命になれるのかユリオは不思議で、話すきっかけを作るためユリオは、ある日いつもヤナギが練習している場所に向かったが、城の隅の一角は子供のユリオだと小さな堀でも高く、仕方なく反対側にある草むらから顔を出した。
「なぁ!」
「うおわぁ!? あっぶね〜」
大声で驚くのも無理はない。丁度ユリオが顔を出したのが剣先すれすれだったのだ。
「なぁ〜なぁ〜いったーい!」
再び話しかけようとした時、頭に思い切りげんこつを喰らう。頭が割れたのでは?というくらい痛い。
「なぁ〜じゃない!危ないだろう!」
ユリオは草むらから引っ張り出され、衣服の葉っぱを払いのけられた。その間殴られた事自体が初めてだったユリオの口は開いたままだった。
「これ木で出来た物だから良かったけどな!真剣だったら怪我だけじゃ済まないんだぞ、命を落としたらどうする!」
「お前と話したかったんだ」
膝をつきユリオと目線合わせ話していたヤナギは、ムゥと頬を膨らませつつ見上げてくるユリオに若干怯みつつも
「うっ……だからって武器を持つ人間に、いきなり近づいちゃダメだ。一定の距離を保って、声をかけろ分かったか? ユリオ殿下?」
「俺の事知ってるの?」
説教していたヤナギは、ユリオの質問に今度は盛大にため息をついた。
「この城にいてまず知らない人がいると思います?って俺殿下殴って説教しちゃった。これ不敬罪になるんじゃ……」
今度は顔を真っ青にしてオロオロし始める。先程から素直に表情が変わるヤナギを見てユリオは笑う。
「ふは、お前面白いな! なぁ俺も稽古に混ぜて!」
唐突過ぎるユリオの言葉に、ヤナギは首を傾げる。
「はい?」
「俺強くなりたいんだ!」
「いや俺、じゃなかった私と?」
大真面目にユリオは首を縦に振った。それに対してヤナギは即答で一言。
「殿下俺なんかといると怒られますよ?」
「キョウに許可取って貰うし、それにあいつも一緒にやるから大丈夫」
「それ大丈夫って言わないです」
困った顔を隠しもせずに言うヤナギに、ユリオは面白いと思った。
「後敬語いらない。ユリオでいい」
「え……けど」
「もうさっき俺を殴って、怒ったから今更だろう?」
ニヤリと笑うユリオに、ヤナギは困ったように笑う。
「一本取られたな。 俺はヤナギよろしくユリオ」
手を差し出した。
***
「あれから10年以上も経ったのか、昔は可愛かったのに」
「どう言う意味だ。実を言うとあの後キョウに1時間説教喰らった」
「え? なんで?」
「俺たちのやりとり見ていたみたいだ。それで武器について延々と……」
「まぁあれはユリオが悪いしな」
カラカラと笑いながら、昔話に花が咲く。
「昔よく言い争いもしたしな」
言い争いに留まらず喧嘩もした。後にも先にもヤナギとしか出来ない気がする。
「したなぁ〜ノギは楽しんで見てるだけだし、止めるのはキョウと……」
ふと言葉を止めたヤナギに、どうした?と声をかけようとしたが、漂ってくる香りを嗅いだ途端、ユリオはヤナギを見て言った、
「ヤナギ行くぞ!」
ユリオの意を得たかのように、一緒になって小走りになる。前を歩いていたアイリス達が何事かと振り返るが、それに構わず、みんなを抜かし、香りが漂う扉を開けた。
「「じぃや! チキンパイ食べたい! 」」
いきなり開いた扉に、中の面々はこちらを見る。
「その呼び方何とかなりませんか? 殿下」
「じぃやは、じぃやだろ?」
「親父訂正はもう諦めなって、後、殿下方後ろ見た方が良いですよ」
後ろと言われ、振り返ると顰めっ面したキョウが仁王立ちしてる。ゲッと声が出たのは致し方ない。
「あれ程走るなと、あと行儀が悪い!」
「「ごめんなさい」」
途端厨房にいた者たちやノギの盛大な笑い声が響き渡った。
「あー懐かしい。ユーくんとヤナギ成長してないな」
「ヴッ……昔話してたらじぃやのチキンパイの匂いがしたから」
「ほぉーそれで童心に帰ったと?」
「キョウ怖い」
怒られているユリオたちを他所に、カレンが中を覗き、
「爺様、父様おはよう。早いんだけど7人分のランチ作れるかな?」
「おはようカレン。出来る事には出来るけどな親父?」
チキンパイをオーブンから取り出していた じぃや は、ユリオたちを見てからキョウを見た。
「キョウ手伝え」
「分かった」
「ハニーの手料理も食べれるとは、今日はついてる!」
「ノギうるさい」
「キョウ兄様!おはよう!兄様も料理作るの?俺も一緒に作っていい?」
「あぁいいぞ」
声が聞こえたと思ったら、キョウにべったり付いてる金髪頭のカレンに良く似た青年がいた。
「え?ロラン?」
「あ!殿下お早うございます。」
「ちょっとロランいきなり籠を預けないでよ」
「ごめん姉さん。キョウ兄様の顔見るの久々なんだもん」
ヤナギが、カレンの持っている籠を取り厨房の隅に置きながら言った。
「ほんとキョウの事好きだな」
「兄貴の事も好きだよ〜」
ユリオがやりとりを見ていると、袖をアイリスが引っ張っていた。
「どうした?」
「状況が飲み込めてない」
「? あ、紹介してなかったな」
ユリオはアイリスの手を引いて、厨房に入り壮年の男の前に立った。
「こちらは料理長で、キョウとカレンの爺さんだ。だからじぃやって呼んでる」
「そう呼んでるのは殿下とヤナギ殿くらいですよ。孫たちが世話になっております」
「アイリスです」
そう言いながら握手を交わした後
「で、こちらが副料理長」
「カレンとそこのロランの父です」
「ロラン・フォレです。13歳見習いです!」
「よろしく。キョウとカレンって従兄弟だったの?」
威勢良く挨拶をするロランに苦笑しながら、アイリスはユリオを見た。
「それも言ってなかったか?」
「言ってないね」
「とりあえず、此処に居てもあれだし、そこに座って説明するわ」
カレンの一声で、厨房に入っていったキョウ達は置いて、ユリオたちは近くテーブルに移動した。
「私の父の家系は代々この城の料理を作っているの。最終的に継ぐのは弟のロランなんだけどね。私の叔母がキョウのお母さんで、陛下の側近をしているタルロ様の奥さん」
「タルロ様の?」
「それも説明してなかったな」
「そうだね。私も聞かなかったし」
「この2人の馴れ初めも王宮ロマンスなんだけどね〜タルロ様の家系は代々陛下に使えてるのよ。フドル家が軍方面で仕えているのと同じかな」
アイリスは、なるほどと言うように首を縦に振った。話に花を咲かせていると、漂ってくる芳しい香りが鼻をくすぐる。
「ヤナギ、ノギ手伝ってくれ」
あれよあれよとテーブルの上には、じぃやの黄金色に焼けたチキンパイ、バケットに色とりどりの野菜や肉を詰めたもの、スープ、熱でぷくぷくと泡立っているチーズに、スティク状に切られた野菜。
「短時間に結構作ったな」
「あぁ丁度母様が、とれたての野菜を持ってきたからなロランに切ってもらった。スープもあいつの自信作だぞ」
「キョウ、これも皆んなで食べて」
皿に乗っているのは、燻製されたソーセージだ。ユリオは声のした方に向き直る。
「リズ夫人おはよう」
「ユリオ殿下、皆さまおはようございます」
ほっこりする様な笑みを浮かべる夫人だ。ユリオは向かいに座るリズをアイリスに紹介する。
「アイリス、キョウの母君だ」
「アイリスです」
「主人から聞いてるわ。ごめんねうちの息子分かりづらくて、誰に似たのかしら」
これを聞いてしまいつい笑ったユリオはキョウに睨まれたのだった。
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