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1.出会い

初投稿です。まだまだ未熟者ですが、楽しんで頂ければ嬉しいです。

 月が白銀に色を変えはじめ、草花に霜がかかる頃、鳥たちのさえずりや馬の走る音に耳を傾けながら、森の中を進む青年がいた。


 目立たない服装をしているが、凛とした佇まいに、柔らかな金の髪、深い緑の瞳、端正な顔立ちは森の中にいる妖精のようだといわれている。草木の香りをまとった爽やかな風が、青年の頬を撫でる。


「やはり外の空気は違うな」


 晴れ晴れとした顔で青年は呟く、なんせここ数日次から次へと増えてゆく書類の山を片付けるため、執務室に閉じこもっていた(逃げぬように、常に部下(監視)が居た)からである。


 しかしずっと閉じこもっては、身体が鈍ってしまう。ならば早朝に出て、すぐに戻ればいいと、思い立ったが即行動――気分転換に()()()()たのだった。


「そろそろだ、あと少しだから頑張れよ」


 と愛馬に話しかけながら、水のせせらぎが聞こえる方へと馬を走らせて行く。


 目的の小屋へとたどり着き、愛馬を解くと甘えるように顔をすり寄せた後、川辺の方へと向かい水を飲み始めたのを見届けてから、小屋の入り口に向かって一歩踏み出そうと足を向けた時――


 水の音に流れて微かに聞こえてくる音があった。


「(歌?)」


 青年は、足音を忍ばせ声のする方へと近づいていく……



≪人と人の出会いは 


 音と音の出会いと同じで 


 出会うたびに音が増えていく 


 空も木々もいろんな音を掛け合わせて 


 新たな歌を作り出す 


 言葉に出来ないのなら 


 風に乗せて 


 歌を紡いでいこう≫



 澄んだ声だった……


 頭がすっぽりと帽子(フード)に覆われており表情は見えないが、静かに、ただ静かに歌うその姿は、どこか寂し気に見えて――


「(胸が締め付けられる……)」


 パキッ

 この静寂さに不釣り合いな音がした。そう青年は完全に歌に気を取られていた為、うっかり木の枝を踏んでしまっていた。


「(俺としたことが……)」


 自身の失態に情けなさを感じていると、先ほどの澄んだ声が聞こえた。


「誰?」


 音に気づきこちらを振り返った少女は、突然現れた青年の顔をじっと見つめ、返事を待っている。その瞳は澄んだ水のようにとても青く、引き込まれるような感覚に、青年は返事をするのも忘れ見入っていた。


「あなたは誰?」


 呆然としている青年に再度、今度は訝しげにそう問われてしまい、青年は少女の警戒心を解かなくてはと軽く微笑みなるべく穏やかな口調で話す。


「俺はユリオ、シュロ殿の知り合いなんだが……」

「シュロさま?」

「あぁところで君は?」

「私は……アイリス」

「アイリスか……よろしくな」


 静かに頷くアイリスを見て、僅かだが警戒が解かれたのを知りユリオは安堵した。


「なぁ?さっきの歌ってなんて名前だ?」


 取り敢えず会話を続けようと思いユリオはとりあえず気になった事を聞く事にした。


「……分からない。何も覚えてなくて、でも昔から知っているような……」


 アイリスが少し寂しげにそう答えた。何か事情があるのだろう。初対面で深く聞くのは良くない。


「そうか悪い……俺もいきなり聞いたりしたから」


 フルフルと頭を振るアイリスを見て、気を悪くしていない様子にユリオはホッとする。そして沈黙が流れた――


「(こういう時って何を話せば……)」


 基本的に誰とでも普通に話せるのだが、ユリオは一対一で女性と話した事がほぼないと言っていい、意図的にそれを避けているので、仕方ないと言えば仕方がないのだが――


「(キョウはダメか……あいつも俺と同じだし、ここにヤナギでもいれば……)」


 生憎今はユリオ一人である。いつもなら助けてくれる人はいない。どうするべきかと唸っているユリオにアイリスは、頭を傾げつつも手に持っていた洗濯物(シーツ)を干し、皺を伸ばしていたのが、丁度その時大きな風が吹き、アイリスの被っていた帽子(フード)が、飛ばされてしまった。帽子(フード)が……と考えるよりもユリオは、目に映る色に魅せられていた。



 目の前にあるのは青――



 それは彼女の瞳よりもさらに青く――



 晴れた日の澄んだ空の色



 それをそのまま切り取ったような青さだった――




少しでも面白いなと思っていただけましたら応援よろしくお願いいたします。

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