お化粧
トイレで着替えるなどという、名家のお嬢様では有り得ない行動を取り、私達は別人へと変身した。
鏡で自分を見ても、マリさんの姿を見ても、いつもとは趣の違う姿に自然とニヤリとしてしまう。
「変われば変わるものなのねぇ……自分でもビックリだわ」
丸くて太いフレームの伊達眼鏡に、ヨレヨレのバケットハット、派手な大きめのプリントのTシャツ、カーゴパンツ、首からはゴテゴテでキラキラのイミテーションの宝石で書かれた異世界の言語のネックレス。
どこからどうみても、個性的でファッションに対してこだわりや偏りを持っている人物である。
「私は驚きよりも恥ずかしさの方が勝っています」
マリさんが勧めてくれた服装に、クロッシェ型の帽子、頬まで覆う茶色のサングラス、目立ちたいのか隠れたいのか分からない人物の出来上がりだ。
「実は私も……」
えへへ、と笑うマリさんは、とんでもなく可愛かった。
むしろいつもと違う装い、雰囲気だからこそ良い。
そのマリさんはいつの間に買ったのか、ファンデーションのパッケージを開いていた。
「お化粧直しですか?」
「これも変装の一部よ。ほら、肌の色がちょっと濃くなるでしょ?」
手の甲にファンデーションを塗って、違いを見せてくれる。
「あ、その手段は思いつきませんでした!」
「レミちゃんもやりましょうね。色白だから、とても印象が変わると思う」
そういって、私の顎を触れながら、パフで優しく撫でるように塗ってくれた。
されるがままに目を閉じて、マリさんの手の動きを感じる。
このまま唇を奪ってくれてもいいんですよ?
などと邪な考えをしていると、「はい、おしまい」と楽しい時間は直ぐに終わってしまった。
「おお」
目を開き、鏡で自分の顔を見るとつい声が漏れる。
青白い不健康な白さの肌が、血色良くなっているではないか。
「首回りもやりましょうねー」
続けて首から鎖骨にかけてパフを滑らせる。
なんだろう、こう、エロティックに感じてしまう。
うん、これは……良い。
しかし、鏡に映る自分のだらしない顔に気付いた。
「あ、あの、自分でやりますよ!」
「ふふ、丁度終わり。お疲れ様」
そういうと今度は自分を塗り始めるマリさん。
私も手伝った方がいいのかな?
しかし、化粧は得意な方ではないし、畏れ多いのも事実。
うーん、どうしたらいいものか、と悩んでいる内に、マリさんの綺麗な磁器のような肌は、見る見る染まっていくのであった。
「ま、こんなもんでしょう。いよいよね!」
「はい!」
お遊びとはいえ、手の込み方と気合はそれの域ではない。
意気揚々と女子トイレを後にするのであった。




