現場仕事4
転移にしても転生にしても、こちらの世界に渡ってくる際には前兆がある。
まずは空間に歪みが生じる。
これは、この世界においてテレポートを行う事でも同じことだけど。
その空間からの歪みから、漏れ出る魔力や量子などの因子を解析することで判別をしている。らしい。
あとは漏れ出る因子の量や質で、規模を予測する。
先輩が呼ばれるようなものは、それは大規模なもの。
今回は私を帯同させるくらいだから、簡単なものだと思われる。
最後に、空間の歪みの激しさで、大まかな時間も予想できる。
さて、さっそうと現場に降り立った係長は、と……。
空中を見つめて、突っ立っている。
「係長、どうしました?」
「あそこ、魔力の奔流が分かるか?」
係長の視線の先を見ると、陽炎のように空気が揺らめいているように思える。
「陽炎、じゃないですよね?」
「端末もあれの方から魔力を検知している」
「空中出現の恐れがありそうですね。あの奔流の真下をチェックしてきます。場合によってはクッションマットも持っていきます」
「そうだな、頼む。俺はセッティングを行っておく」
基本的に準備するものは5種類。
翻訳機、撮影・録音の機材、検査機、有事の際の装備、そして、エネルギーフィールド発生器だ。
まず、翻訳機だが、あまり使えない場合があったりする。
対応していない言語が多すぎることが原因だけど。
撮影は記録のため。
検査機は毒ガスや瘴気、エナジードレインなどなどを恐れての事で、使わないにこしたことはない。
装備は攻撃のみならず、防御や治療、回復手段もその装備に含まれる。
そして何かしらのアクシデントに備えて、出現ポイントを中心に、エネルギーフィールド12本の柱を立てる。
これはバリケードの役割。逃げ出してしまうとヤバイ場合もあるし。
「じゃあ、反対側は私がやります!」
「時間に余裕もあるし、大丈夫そうだな」
手にクッション、6本の発生器を持ち、ダダダっと走っていく。
「座標を表示。係長の進行方向もチェックをしていって」
『了解。マップにポイントの座標を表示します。係長の位置もマップに表示します』
えーと、まずは落下地点にクッションを準備して、その間に周囲に柱を立てて、と。
いや、その前に本当に空中出現かっていうのも確認しなきゃ。
空中の歪みから地面へ向かって、何かしらの因子の流れが確認できれば、もしかしたらフワッと降り立つのかもしれないし。
あとは、地面にも魔法陣のような受け口が出来上がるかもしれない。
とにかく、確認を怠ってはならない。
『ポイントに到着』
「よし、下に魔法の兆候はないね。あとは因子の流れを……。うーん、私には感じられないなぁ、アンタッチャブルは何か検知した?」
『特にありません』
「なら、そのまま展開させてっと」
私の顔ほどの大きさの円盤を置くと、すぐさまプシューっと膨らんでいく。
超高層階から飛び降りても無傷で済むらしい。
「あとは柱を立てるだけだね。係長はどんな感じで立てたんだろ? 柱の位置をお願い」
『柱の位置と、サイジ係長のルートを同時に表示します』
「げ、もう既に6本目ですか。速いなぁ……。とにかく同じ距離感になるように立てないとね、ナビゲート開始!」
『ナビを開始します』
ほぼ全力疾走で第一目標まで向かう。
魔物の血を引く私が、スーツで身体機能を上昇させ、さらには魔法でスピードも上げている。
その速度は下手な車両よりもずっと速い。
とはいえ、係長の範囲はそれでも広大に感じてしまう。
現場仕事って、こーゆー作業が嫌なんだよなぁ……。