酒好きに情熱とお財布事情
このホテルにチェックインした際、マリさんが好きだという事で用意してもらっていたボトルをカタログに載っていた。
お酒にしては豪勢な金額だが、このカタログからしてみれば安く見えてしまうから恐ろしい事だ。
日頃のお礼と、この旅行中に色々とお世話になっているのだから、多少値が張ろうとも購入してみようか?
いやしかし、私の給料を丸々使ってしまうような値段ではある。
うーん、どうしようか。
「難しいお顔をなさっていますね」
先ほどのコンシェルジュが緑茶を持って来ながら訊ねてきた。
「こちらのお酒が気になる、というかプレゼントしたいな、と考えておりまして……」
決して値段で悩んでいるなどとは言えない。
今の私は上流階級の金持ちなのだ。
「なるほど、これはお目が高い。ですが、申し訳ございません、こちらは現在、在庫切れでございまして……いえ、正確に申せば、販売を控えるようにとお達しが出ておりまして……」
あ、きっとそれ、マリさん用って事なんだろう。
「ですが、私が責任持ちまして、お客様の分は確保致しますよ!」
セールスマンだなー、とも思うけど、それ以上に申し訳ない気持ちが強かったりもする。
「あの、これに似たようなものや、ちなんだ物ってありますか?」
「それでしたら、ピッタリの物がございますよ! このお酒は、異世界からの物ですが、感銘を受けた作り手が実は魔界にも、皇国にもおりまして、二種類のバリエーションがございます。もちろん、どちらも職人が精魂込めた一級品です」
「そちらはいかほどで……?」
「有り体に申しますと、ゼロが二つほど減ります」
「格安ですねぇ。では、両方下さい」
「ありがとうございます。今お渡しいたしますか?」
「部屋に届けるようにして頂けますか? こちらまで」
と言って、ルームキーを差し出す。
「こちらのお部屋に……はっ、かしこまりました」
多少驚いた顔をして、コンシェルジュは下がっていく。
そこを呼び止めた。
「あの、お会計は?」
「失礼いたしました。お部屋にお付けになるものと思いまして……」
「いえ、私個人で支払いたいのです」
「かしこまりました。お支払いはいかがなさいますか?」
「端末で」
スッと、端末を差し出すと、手のひら大の機械に置く。
点滅と効果音が鳴り、支払い完了を伝えた。
「ありがとうございます。よろしかったら、ごゆっくりとお過ごしくださいませ」
「いえ、そろそろ出ますね、お茶、ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。またのお越しをお待ちしております」
と、リカーショップを後にする。
出口まで見送られ、チラっと振り向くとまだ見送っていた。
申し訳ないので、早いとこ視界から消えるとしよう。




