突撃となりのVIPスペース
スッ、とルームキーを出してVIPだと証明する。
少しの驚きを見せるものの、平静を装い落ち着いた声でこう言う。
「かしこまりました。ご案内いたします」
男性の後に続いて、黒い無機質な壁の前まで来た。
「こちらにキーをかざしてください」
言われるがまま、壁にタッチする。
すると、魔力の流れる音と共に静かに壁がスライドしていく。
ふむ、電気や磁気ではなく魔力式か。
私たちの端末のように、ガッチリとした認証ではないだろうけれど、魔力の方が確実だ。
もちろん、込められた魔力が無くなったり、おかしくなったりして使えなくなるけれど、それよりも問題なのは使えない人間が使えるようになってしまうことだ。
まぁ、癖で探査してしまった魔力の感じを見ると、認証を誤魔化すことも出来そうだけれど。やらないけどね?
そして、扉が開くと薄暗い暖色系の照明に、黒い大理石の床、皮製のテーブルセットとソファセット。
その背景には天井まで高く作られたショーケース。
ボトル一つ一つのスペースに区切られ、開閉の為であろう取ってはブロンズ色に輝き、その枠には宝石と思われる色付きの石と彫金。
そんな豪華な枠に負けない存在感を放つお酒が鎮座している。
なるほど、美術品だこれは。
「これは圧巻ですね……」
「私も最初は息が上手く出来ないほどでした。どうぞこちらへおかけくださいませ」
訳の分からない形をしながら、怪しく光るランプが置かれたテーブルにうながされる。
あ、この椅子、手すりも背もたれも皮張りじゃないか。すり減ったりして管理大変なんだろうなぁ。
などと庶民的な感想を抱いていると、分厚い冊子を目の前に置かれる。
「こちらが当店に置いてあるリストでございます。記載がないものでも、お取り寄せが出来る場合もございますのでお申し付けくださいませ。簡単にではありますが写真と説明が載ってございますので、読み物としても面白いものがありますよ」
「確かに、異世界のものはエピソードがどれも興味深いものばかりですね。ふむ、これは勉強になります」
「でしたら、お茶をお持ちいたしましょう。紅茶、コーヒー、緑茶などもございますよ。その間ご覧になってお待ちくださいませ」
「あ、そんな、悪いですよ」
「いえ、大切なお客様でございますから。お寛ぎの一助になれば幸いですので」
「ではお言葉に甘えて……緑茶をお願いします」
「かしこまりました」
とニコッとほほ笑んで去っていった。
一人で居るのも手持ち無沙汰なので、読み進める。
ブックマンは基本的に速読だ。半分の私も人間よりは早い。
流し見しているように見えて、しっかりと頭に入っている。
歴史やルーツ、製作者の説明、ボトルの造詣一つとっても価値を高めるような一文だ。
合わせる料理は高級料理、異世界料理が羅列され、TPOの紹介に至っては「パーティー、即位や叙勲の時」なんて書いてある。
そんな機会、きっと一生訪れないだろう。
私たちの一族も『一応』貴族階級ではあるが、変人揃いの為、社交界からは消えている。
そういう大人の付き合いは、ジジイとおばあちゃんが一手に請け負っており、彼らが逝去すれば社会的な地位も瓦解するかもしれない。
「おや、これは……?」




