現場仕事2
スマホから投稿
ブラウスのボタンを締め終えると、ジャケットを片手に持ちながら、操縦席へ。
「終わりました」
「よし、なら少し頼めるか? 自動航行に切り替えたが」
「もちろんです」
「パイロット変更だ」
『オーダーを確認。新しいパイロットはパーソナルデータをお願い致します』
係長と席を入れ替わり、操縦桿を握る。
『操縦桿よりデータを確認しました。これより魔力の確認作業を行います』
「ーーー飛べ」
『確認致しました』
「オートクルーズは継続」
『オートクルーズ、継続します』
優れた兵器に一番必要なものは何か?
それは、安全である。
いかに強力な武器でも、暴発や誤作動の恐れがあるのなら、それは欠陥品だ。
そして、奪われてしまえば、今度はこちらへ牙を向く。
その問題を解決するのが、魔力を利用したパーソナルデータの確認である。
指紋や虹彩、声門、IDカードなどは偽造が出来てしまうが、魔力は1人1人特徴がある上、瞬間的なもの。
故に、偽造の心配は無い。
「マップを展開。残り時間も」
『展開します』
「えーと……今は……うわ、もうここまで来てるの? 係長飛ばしたなぁ」
三十分ほどかかる道のりが、五分足らずで半分は進んでいる。
計器を確認するが、今だって音の速度よりずっと速い。
「けど全然揺れなかったなー。やっぱり係長は凄い……」
音速を超える際、空気の壁との衝突で揺れるものだが、魔法による機体操作で緩和出来る。
発生したソニックブームも、何だかんだ無くしたことだろう。
いや、もしかしたら、それすら推進力に変えたのかもしれない。
何にしても私には真似出来ない業だ。
「どうだ、異常は無いか?」
「はい、つつがなく」
「なら、このまま頼む」
係長は助手席に座ると、ネクタイを結び始める。
ーーーが、なかなか上手くいかないらしく、何度も解いては結びを繰り返す。
「あーもう……」
係長の胸元に手を伸ばし、ネクタイを手に取ると、ササッと結んでしまう。
「む、すまん」
「普段現場行く時、ネクタイをしていないの知っていますよ。ですから無理に付けなくても……」
「それはダメだ。………部下の前でくらい、カッコつけさせろ」
「ふふ、すでに格好がついていませんよ」
「ハッハッハ、それもそうだな」
快活に笑う係長。
気難しそうな見た目から、勘違いされることも多いらしいが、言葉がぶっきらぼうなだけで、キチンと感情はある。
「よし、なら変わろう。現着は早い方がいい」
「はい、係長の技術に甘えさせてもらいます。実は二日酔い気味でして……」
「ああ、そのようだな。アンタッチャブルから報告が上がっている」
くそ、アンタッチャブルめ……
再度配置を入れ替わりながら、自分の端末へ毒づく。
個人個人によって名前や特性は異なる。
自分の守護霊を端末へ憑霊させ、自分の意思や志向も汲み取る、らしい。
私にとってはすぐにチクる口うるさいおばさんにしか思えない。
端末同士もリンクしており、情報を共有する機能まで付いてくる。
「係長の端末は物静かで羨ましいです」
「なあに、俺が吹聴しないだけだ」
「え?」
ということは、思ったより多くの情報を垂れ流しているのだろうか……
月のもので体調が悪い時とか……
あ、どうしよう、死にたい。
消え入りたい気持ちで、白目を向きながら、目的地まで黙ってしまった。