現場仕事1
少し重たい頭のせいで、しんどい出社になってしまった。
「うぅ……ちと飲みすぎたかな……」
今日はなるべく転生・転移者が居ないといいなー、なんて思う。
「新米! いいところに! 着いてこい!」
着席する前に背後から声をかけられる。
無精ひげの銀髪、漆黒の目、透き通るような白い肌、そして、低めの落ち着く声。
「あれ、サイジ係長、昨日遅番だったですよね?」
「ああ、引継ぎ際に転生・転移者だ。もしかしたら今日の朝番に引き継ぎが必要かもしれないからな」
移民局はいつでも転生・転移者に対応出来るように、三交代制を引いている。
とはいえ、女性を夜中に歩かせるわけにもいかなかったり、育児などの理由があって、男性の独り身は大体遅番に回される。
「分かりました。ちなみに場所と時間は?」
「ここから30分ってとこだな。おそらく、今からなら丁度間に合うくらいだろうな」
「意外と時間無いですね。感知からそれくらいの時間というと小規模な転移ってところでしょうか」
「だと良いんだがな」
廊下をサイジ係長の後ろを着いていきながら、現状の把握をする。
「今、お前の端末にもデータを送った。場所と感知時間、発生予想時間などの詳細を一応確認しておけ」
「了解しました」
ガラスの板を鞄から取り出し、淵をなぞる。
『パーソナルデータを確認。起動します』という音声とともに、青白い光が灯り、立体画像が現れる。
「移民感知データを確認。最新のものを」
『最新のデータを表示します』
「読み上げて」
『異世界よりの転生・転移のエネルギー感知時刻……』
係長の言うとおり、詳細を聞きながら廊下を進む。
『読み上げは以上となります』
「地図を」
『地図を展開』
立体的な画像が宙に浮かび、周りの地形なども描写される。
ふむ、森の中か。
「現在からの距離、ルート、時間を表示。あと、森は省いて」
『平面での表示をします』
表示したところで屋上へ到着。
局の屋上はちょっとした空港のようになっている。
多様な垂直離陸機がズラっと並び、床には魔法陣が描かれている。
この魔法陣は防音や耐荷重、耐衝撃、それに離着陸の際に加減速も手伝ってくれる。
その中でも一番小型の航空機の扉を開け、操縦席に……あれ? 係長?
「俺が飛ばす」
こういうのって、下っ端の方がやるべきではなかったですっけ?
まぁ、お言葉に甘えて運転してもらおう。
二日酔いの状態ではちょっとやりたくないことではあるし。
「先に準備をしておいてくれ。少し急ぐぞ」
「ではお先に」
一番小型の機体と言えど、8人分の席を設けるくらいは居住性は確保されている。
そして、座席の下にある金属製の箱を一つ取り出し、さらに奥へ。
最後尾、人が二人分の幅のロッカーのようなものがある。
先ほどの端末を扉に軽く当てると扉全体が輝き始め、端末がピタリと張り付くと扉が開いた。
その中の足元に、靴のマークへ足を合わせ、箱を置けば自動的に扉が閉まる。
『パーソナルデータを確認。業務スーツへの転化を開始します』
私の周りに魔術文字で作られたリングが作られる。
『転化確認段階、最終チェック。スペルをお願いします』
一つ、大きく息を吸う。
体中に走る魔力が躍動しているのを感じる。
「―――我纏うは鉄壁の守護者」
リングが回り始め、箱は幾何学模様の光が亀裂のように走る。
「我の歩みは守護者の歩み」
箱がバラバラと崩れ始め、破片がリングの周回へ吸い込まれていく。
「従え―――満たせ―――我が眷属よ」
横回転していたリングに縦の回転が加わり、破片が周回から外れるように宙に浮いた。
「汝の名は、堅牢無双、アンタッチャブル!」
破片が私に飛びつき、体を覆っていく。
輝き、伸縮し、繋がり、様々な動きをしながら顔以外の全身を包み込む漆黒のスーツが出来上がった。
このスーツは様々な魔法と科学を駆使され、物理・魔力問わず衝撃を受け止め、生命維持や回復、マナやオドの管理、果ては精神攻撃の耐性まで上げてくれる。
どのようなものが来るか分からない移民局のための、特別な装備だ。
『システムオールグリーン―――お疲れ様でした』
扉が開き、次にやることと言えば―――。
装備品として支給されている、地味な事務仕事用の『スーツ』を上に着込むことだった。
だって、変に戦闘態勢だと、相手に威圧感を与えるでしょ??