許されること。
「反乱軍の転生者は、私の知る限り三人。いずれも初代に対して対抗意識を燃やしていた者たちでした。まあ、対抗意識という言葉は可愛すぎますが」
自分を落ち着かせるように、椅子に深く座り直し、背もたれに体を預けるおじいちゃん。
普段は好々爺と言うに相応しい振る舞いで、あのように暗い話し方はとても珍しいことだった。
「能力では初代に劣るものの、強力な戦力であるのは間違いありませんでした。時期さえ違えば、勇者と呼ばれたのはその者たちだったかもしれません。それもあって初代を恨んだのでしょう」
「そんな……そんなのただの逆恨みじゃないですか」
「そう、所詮はその程度の器だったということだな」
「器、というより性格的なものと判断しますけども」
「それも含めての器ということだな」
やれやれ、といった仕草で首を左右に振り、ため息を一つつく。
「内戦初期に、その三人はそれぞれ一対一で叩きのめされた。次は二人で……その次は三人で……それに罠や連携と、段々と形振り構わずになっていった。部隊を三軍に分け、初代を引っ張り出しては撤退し、という策も繰り返したりもしましたな。個人で対抗できるのが初代だけでしたので、単純ですが有効な策でしたな」
「……おじいちゃんはその策を読めなかったんですか? そんな単純な策なら、先読みも出来たのでは?」
単純とか言うなら、そのくらいやってのけるだろう。
「読み切っておったよ。陣を引いたり、結界を張ったりな。魔界の援軍とで挟み撃ちを行ったこともある。まぁ、それでもやはり足りなかったのだよ、転生者にはね」
「……そうですか」
「それで、その後はどうなったんですか?」
「初代も疲弊していったが、それは敵も同じこと。転生者が次に取った策は……自分の味方を特攻させるものだった」
「えっ?」
「今言った通りだよ。まさに駒として使ったのだ。無駄に手を込んでいたね、死ぬと爆発するもの、切りつけると毒の霧が噴出するもの、物理的な衝撃で目くらましになるものなんかもあったか……」
「これは……一般兵が相手にしても難儀しますね」
「極めつけは、子供も戦線に出したことだ」
「…………そんな」
おじいちゃんの顔は険しく、冗談ではないことが嫌でも分かる。
「手枷足枷をつけ、よちよちと泣きながら進んでくる幼子に初代はとても苦しんだ。その姿が見ていられなくってな、つい―――殲滅してしもうたよ……」
「!? おじいちゃん! なんで!?」
「レミちゃん! ……戦争なのよ。敵は排除しなくてはいけないわ」
押し黙っていたマリさんが震える声で私をいさめる。
「それに、初代の為だったのでしょう? 辛いお役目をありがとうございました」
「……ワシは魔族です。人間が大きかろうと小さかろうと、敵というには変わりない意識。別に心は痛みません」
そういうおじいちゃんの目には涙が浮かんでいる。
「しかし―――孫に人間の血が混じっているとなると、私のしたことを悔やんでしまいますな。あの子たちにも親も兄弟も居たでしょう。先立たれるのは辛いものです」
うなだれるおじいちゃんに、マリさんが声をかける。
先ほどとは違って、凛とした鋭い声。
いつもの移民局の『先輩』ではない。英雄の血筋、『ミストラル家のマリ』さんだ。
「しかし、あなたの英断によって私は此処に居るのは間違いない事実。顔を上げなさい。胸を張りなさい。私はあなたのことを誇りに思う。過去を断ち切り、未来へ進みなさい。許しが必要ならば、私が許そう、このマリ・ミストラルが!」
「……っく、うぅ……ありがたい……ありがたいお言葉、頂戴、仕り、ます」
涙を流しながら、頭を垂れる。
部屋に数百年以上ぶりに許された悲しい老人の嗚咽が響いた。




