うちの一族のことを知ってください。
「失礼なことを聞くけど、レミちゃんの種族って、汚染する種族だったっけ?」
「いえ、環境への影響は全くもってありませんね……生きてるだけなら」
恐縮しながら、私はマリさんにこの有様の説明を始める。
私の種族はブックマンと呼ばれる種族だ。
特徴としては、一族の経験や知識を下の世代に伝えていく能力を持つ。
その膨大な知識量を武器に、研究職に着くものが多い……というか、そんなんばっかだ。
そして、『知らないこと知る』のが大好きな種族だ。
誰しもが感じたことがあるであろう、へーそうなんだ! なるほど! という感覚。
それが他の種族よりも数倍、いや、数十倍は強いだろう。
もはや快感と言ってもいいくらいだ。
その快感を得るために、様々な研究や実験などを独自で行っていく―――周りのことなどお構いなしに。
結果、先ほどのような魔界を作り出してしまったのだった。
……まぁ、これからもっと酷いことになるだろうし、動物も樹木もほったらかしたら生育サイクルが出来上がったようだから、下手をすると他の土地にも広がるんだろうなぁ……。
「ということで、ある意味汚染している種族ではあるんですね……」
「うーん、環境を変えてしまう力というのは、凄まじいものがあるわね」
「お恥ずかしい限りです。このありさまだから、友達も誘いづらいというか、来れないですね」
「レミちゃんも色々苦労があるのねぇ……」
「まぁ、私は半分ですから、マズそうなときは知らん顔をしている感じです。……あっ、着きましたよ!」
増築に増築を重ね、いびつな形をしたマンションのような建物。
それが私の実家兼、祖父母の家である。
少し見ないうちにまた部屋が増えているなぁ……危険な実験施設じゃないと良いけど。
「レミリア様、申し訳ございません。あちらの建物の正面はどちらになるのでしょうか……」
そうですよね! これは慣れていないと絶対に分からないですよね!
「あ、えーと……、北側ですね。なので、右手側に玄関があると思いますが……」
私たちの掟で、玄関はいじらない。と固く決まっている。
どれだけこの魔窟が増築をしようと、玄関の位置は不変であり、見慣れたものだ。
反対に言えば、慣れていなければ分からない、という話でもあるが。
若干の戸惑いを思わせるように、車はゆっくりと玄関の前に停まる。
「えーと、鍵鍵……あった。では行きましょうか。運転手さんもぜひ一緒にいらしてください」
「いえ、私めなどには勿体ないお言葉です」
「甘えておきなさい、ここまで来てお断りするのも失礼よ」
「はい、ぜひぜひ。それに……この環境下ではちょっとお一人では危ないかと」
「そういうことでしたら、お言葉に甘えさせていただきます」
二人を引き連れて、玄関の扉を開く。
すぐさま迎えてくれたのはおばあちゃんだ。
鋭角な眉に黒の混じった赤い瞳、少し垂れた尖った耳、その顔をうっすらとほほ笑みながら、緑色のロングドレスを見に纏い、私を軽く抱きしめる。
早くに両親を失った私の親代わりといってもいいだろう。
様々な社会におけるマナーだの立ち振る舞いだのを叩き込んだりしてくれた。
まぁ、知識で持っていても、実践となると、ね?
そりゃまぁ、厳しく躾けられたってもんです。
マナー教室だか何だかを開いたって話も聞いたな、そういえば。
「おかえりなさい」
「ただいま戻りました。おじいちゃんはどちらに?」
「自室に居ると思うわ。……あら、そちらの方は?」
おばあちゃんはマリさんの顔を見て、少し驚いたような顔をした。
こういった顔をするのは珍しい。
連れてくるとは伝えていたのだけれど……。
「もしや、勇者の血筋の方では?」
「はじめまして。おっしゃる通り、勇者の血筋を持つ者です。マリ・ミストラルと申します。以後お見知りおきを」
「やはり……主人もきっと喜ぶでしょう。早速ではありますが、どうぞこちらへ」
おばあちゃんの思惑がよく分からないけど、案内してくれるようだから任せよう。
その間、マリさんとのおしゃべりを楽しみながら進んでいく。
調度品や道中の部屋の説明をしていると、マリさんはとても楽しそうで私もうれしい。
「あなた、失礼しますよ」
部屋の外から声をかけ、重厚な扉を開ける。
何度も入った事のある、懐かしいおじいちゃんの部屋だ。
「おお、帰ったか。レミリア」
顔の半分は隠している、豊かな髭をたくわえた、昔ながらの魔法使いのローブに身を包んだ老齢の男性。
これが私のおじいちゃんだ。
低いけれども不思議と響く声が私を出迎えた。
隠居しているひいじいちゃんに代わり、この魔窟を取り仕切る長。
一族の知識とともに、類まれなる計算と思考能力を備え、国政にまで関わったこともある傑物である。
「おおおおおおおおぉぉぉ!」
その傑物が素っ頓狂な大声をあげて、驚いている。
え、何このカオスは?




