お願い。
「もう少しで到着いたします。この後はいかがなさいますか? 夜にはこちらのホテルで会食のご予定ですが」
「チェックインと両替したら、レミちゃんのご祖父母の家に行ってほしいわ。レミちゃんはこの後の予定は?」
「顔を見せてそのままダラダラ過ごすだけですねー。良かったら先輩もおじいちゃんちに来ますか?」
「あら、いいのかしら? お邪魔じゃない?」
突然の来客だとしても、あのジジイなら問題ないはず。
何せ初代勇者が魔界を治めた時代から生きている古株だ。
訪問する孫の数だって膨大な数だから、一人二人増えたところで特に気にも留めないだろう。
「いえ、ここまでしていただいて、お茶も出さず、では私の気も進みません」
「ほんとイイコねぇ、レミちゃんは。そしたらお邪魔することにしましょう」
「お邪魔だなんてそんな……おじいちゃんも喜ぶと思いますよ!」
「ふふ、ありがとう。そういえば、今日の会食、一緒にどうかしら?」
「いや、流石に悪いというか、それこそ邪魔な気がします」
「大丈夫よ、一人や二人、変わりはしないわ。正直な話、知り合いが居ないから一緒に居てほしいっていうのが本音よ」
「一緒に……居てほしい……デヘヘ」
嬉しい言葉が脳と心に突き刺さり、蕩けさせる。
こう、抱きしめたり、顎をくいっとしたり、頬に触りながら言っても良いんですけどね!
「だめかしら?」
「おっと……もちろん何処へだってお供しますよ!」
「ありがとう!」
「お嬢様方、そろそろ到着いたしますので、お仕度をお願いいたします」
緩やかに車両がゆっくりと勢いを緩め、降下していく。
「そういえば、レミちゃんはドレスとか持ってる?」
「あ、持っていないですね。スーツなら持ってきていますが?」
「え? スーツ?」
「実はなんですが……私、おしゃれな私服とかあまり持っていなくてですね……。それに、スーツが一番着心地が良いというか、楽というか……。今着ているものも、まともそうなものを選んだってだけで」
周りは結構嫌がる人が多いけど、スーツで出社できるというのは私にとってはとても楽だったりする。
何を着ていこうとか、今度アレ買おうとかで迷わなくて済む。
そして、私が選んだスーツはスポーツウェアを作っているメーカーのもので、通気性、着心地、軽さ、動きやすさを兼ね備えたものだ。
夏と冬用に4着ずつ揃え、クリーニングに順次出していくシステムだ。
休みの日に街に出るときもスーツで行けば間違いがない。
「んー、それなら会食前にお買い物して、ついでにスタイリングもやってもらいましょう」
「あの、そしたらお願いがありまして……」
「なあに?」
「服を選んでいただいてもいいですか? 私、センスがなくって」
大学時代、周りの女の子が服を可愛い可愛いと言いながら、服を物色していたけれど、どこが可愛いのか、皆目見当が付かなかった。
彼女たちの服の特徴を観察してみて、ヒラヒラか、ヒラヒラが付いていたら可愛いのか? と思えばそうでもないらしい。
かといって、色で選ぶのも違うらしい。
私にとってファッションとはカオス理論と同義である。
「もちろん! こちらからお願いしたいくらいだわ!」
「えっ、ホントですか?」
「レミちゃんにしてほしい格好もあるし、なんだか夢が叶ったみたいだわ」
「そんな大げさな……」
「いいえ、言い過ぎってことは無いわよ!」
「こちらこそ、本当にありがとうございます。私一人だと何を選んでいいかさっぱりでして……」
「ふふふ、だからスーツなのね。任せて! とても可愛くしてあげるわ!」
先輩はとても嬉しそうに笑いながら、親指を立ててそう言ってくれた。




