黄昏ガールズトーク3
「ともかく、レイさんが係長に対して好意を持っていたとは思いませんでした」
ヤスモトさんが半ば呆れたような口ぶり言い放つ。
「あら、なんかトゲがあるわね」
「あ、すみません。私の中で、レイさんってバリバリのキャリアウーマンみたいなイメージがあって、役職が上の係長にも、ズバズバ物を言ってて、凄いなーなんて思っていました」
「むしろ、係長にだけ厳しいって感じです」
「そうですよね、私は上の人にもちゃんとモノを言えるのよ!って感じの人なのかな、と。話を聞いていたら、ただのツンデレってだけだったので、そういうことだったのか、と少し拍子抜けしてしまいました」
「レイもそんな見た目しているわねぇ」
私も先輩から聞くまで、レイさんがそのような感情があるとは全く気付かなかった。
レイさんにはきっと、爽やかな完璧超人のような彼氏が居るのかと思っていた。
仕事で絡めば、業務は的確に処理できてるし、保護局の仕事ではなかった場合、他部署へ案内までしてくれた。
他の局の仕事まで把握していなければ、そんなことは出来ない。
そういったこともあって、先輩と同じく尊敬していた。
あ、もちろん、今でも尊敬していますが。
「あの、ツンデレ? ってなんですか?」
「好意の対象に表向きはツンツン、つまり冷たかったり素っ気なかったりするのですが、その実裏ではデレデレ……えーと、好き好き! 甘えたい! みたいな人のことを言います」
「なるほど、バッチリですね」
「そのデレデレを係長相手に出させないといけないわ」
「んー……本人はなんと言ってるんですか?」
「やっぱり、厳しいことを言ってしまって後悔はしているみたいです。半分は趣味みたいなものですけど」
「趣味!?」
私もその趣味はよく分からないけど、とにかくレイさんはそういうのがいいらしい。
「そーなのよねー、困った顔を見るのが好きみたいで」
「困った声でも良いそうです」
「どうしようも無い気がします」
生気がない目、力の無い声でヤスモトさんはこう答えた。
うん、私もどうしようもない気がしています。
「そこをどうにかしたいの」
「そういえば、ヤスモトさんは恋愛テクニックみたいのはあるのですか?」
「恋愛テクニック、ですか……」
「あ、聞いてみたいわね。転生者のテクニック」
異世界の恋愛事情には私も興味がある。
例えば、科学が発展していない世界なら、連絡はどのように取り合っていたのだろう? とか。
魔法が無い世界なら、どうやって婚姻の祝福や加護、そして契約をするのだとか。
ヤスモトさんの世界は科学よりらしいので、この世界にも似ているのかもしれない。
「ヤスモトさんなら、意中の男性をどう落としますか?」
「んー……私はあまり恋愛経験が豊富というわけではなかったですが、とにかく連絡を取ったり、会う機会を作ったりはしましたね」
「ふむ、それは何とかクリア出来そうね」
「あとは、そうですねー……相手を褒めたりしましたね」
「お、褒め殺し?」
「まぁ、そういうのもありますけど、いつも仕事頑張ってるねー、とか、作ってもらった資料が見やすくて助かる、とか」
いやに具体的に話をするものだ。
それに気づいたので、悪戯っぽく言ってみる。
「ふふ……その口ぶりだと、社内恋愛の経験がありそうですね」
「!? え、いあ、その、えぇーっと、あ、は……はい」
一気に狼狽してしまった。
苦い経験なのか、それとも甘酸っぱい思い出なのかは分からないけど、触れてはいけないのかもしれない。
「すみません、何か急所を打ち抜いたようで」
「ただ、経験者が居たのは心強いわ。よし、褒め殺し作戦を実行させましょう」
「そうですね、レイさんのツンツン防止の練習にもなりそうですし」
「確かに、ツンだけじゃ相手も良くは思いませんからね」
「あとは、さっきレミちゃんが教えた、おしとやか作戦も同時に決行よ」
何か、作戦とか付くと、一気に物騒になるんですが、まぁいいでしょう。
「ありがとうございます!」
「よし、そうと決まれば、レイと食事でもしましょう。ヤスモトさん、今日の夜はいかが?」
「空いてますよ!」
「申し訳ないのだけれど、レイに色々教えてあげてほしいのよ」
「いえ、構いませんよ―――私もこういうの大好きなので!」
「あら、悪い顔。そういう表情、私は好きよ」
私も悪い顔した方がいいのかなぁ……。
「あ、レイも大丈夫だって。お店も抑えたわ」
「流石、仕事が早いですね」
「ありがとう」
「そうとなれば……」
「えぇ、やることは一つですね」
「そうですね、やりますか……」
「定時に! 帰るぞーーー!」
「「おーーーーー!」」
そして私たちは机に無言で向かい始める。
まずは私は今日の麻酔銃使用の報告書、そして、使用量を間違えたことへの始末書に取り掛かる。
先輩に至っては、四人を『レクリエーションの最中』ぶっ飛ばしているので、安全管理ミスしてごめんなさいの始末書。
ヤスモトさんもきっと、コードとかいう子ども相手に何かしらやらかしているので、その報告書と始末書に追われることになるだろう。テロを計画していたというのだから、報告が多くなるだろう。
私は随行という立場ではあったが、『先輩の思うように』報告をあげることは出来る。
で、最後にちょろっと先輩にサインを貰えばいいだけの話だ。
端末をいじる、ペンを走らす、書類をめくる、お茶を飲む、文字通り手は休まることがない。
とっとと終わらせて、ガールズトークをしたいのだ!!




