教育機関訪問3~フランツ・ハイデルベルク~
「では、生徒たちを呼んできますな。どの子からといったご希望はありますか?」
「でしたら、このハイデルベルク君をお願いします」
「フランツ・ハイデルベルク君ですね、分かりました」
校長は足取り軽く、部屋から出ていく。
それを見送ると、先輩は机の下にレコーダーを設置した。
けっこうガチで調査するんだなー、と思うとこちらも気が引き締まる。
「緊張する必要はないわ。いつも通り、平常心で。じゃないといつもなら気付けるものも気付けないわよ」
「確かに、そうですね。ちなみにヒントとかはないですか?」
「答えになるかもしれないからダーメ」
言い方が可愛くて鼻血が出そうになる。
しかし、おかげで平常心に近くなった。まぁ、自分の煩悩が平常心っていうのもおかしい話だけど。
「お待たせしました」
自分の欲望を必死で抑えていると、児童を引き連れて、校長が入ってきた。
見目麗しい可愛げのある男の子だ。
「失礼しますー」
ちょこんとお辞儀をして、校長の隣に座った。
「校長せんせー、お話ってなあに?」
座りながら校長先生の服の袖をクイクイっと引きながら尋ねている。
「あら可愛い」
え、先輩、こういう子が好きなのですか?
私はこういう子どもって苦手なんですが……。
「お姉さんだあれ?」
「私はねー、ハイデルベルク君がとても優秀だから、お話を聞きに来たのー」
「へー」
「どう? 学校は楽しい?」
「うん! 魔法の授業とか、皆驚くから好き!」
「そっかぁ。あとは、お友達とかは? 何して遊んだりするのが好き?」
「今は異世界遊びするのが楽しい!」
「異世界遊び?」
「知らないのー? ケイドロとかサッカーとかだよ!」
「ああ、異世界の遊びのことね。お姉さんも小さい頃やったわー」
「そうなんだ! 一緒!」
ふむ、先輩とのやり取りを見ても、取り立てて変なところはないというか、まぁ、子どもらしい子どもというか。
フランツ・ハイデルベルク……年齢は8歳、魔法の試験において満点のスコア。
他は秀でるものはない。
高名な魔法使いの家系であるハイデルベルク家の末弟で、父親は魔法協会の理事を務めている。
となれば、英才教育のお蔭、と思えばおかしくもない話だ。
「――――――アンタッチャブル、起きてる?」
『Hello,my master』
アンタッチャブルに頭の中で呼び掛ける。
「この子の魔力量を計ってもらっていいかしら?」
『かしこまりました。その他の数値は調べますか?』
「そうね、何が調べられる?」
『機材に接続していませんので、音声の波形を調べるくらいです』
「無いよりマシね。私の目に出してしまっていいわ」
「かしこまりました」
いうやいなや、私の視界に波形と、魔力の数値が表示される。
ふむ、人の子どもならこんなものかなー?
チラッと先輩を見ると、楽しそうに話している。
本当にこんな子が好きなんだろう。
……少し妬いてしまう。
すると、先輩がコチラをキッと鋭い視線を送ってくる。
あ、もしかしら殺気とか魔力とか漏れていたのでしょうか?
しまった……すぐに抑えないと! ……って思っていると、先輩がクイっと、首を送る。
え? 続けろってことでしょうか?
それとも、もっと?
とにかく、何かしら敵意を送れってことなんでしょうね。
なら遠慮なく……先輩とイチャイチャしやがってぇぇっぇぇ!
と殺気を送らせてもらいました。
「!?」
流石に気付いたのか、こちらを見る。
―――って、子どもがこの数値って! こんな魔力量、子どもが出して良い数字じゃない!
アンタッチャブルに数値に起こしてもらわなくても分かる。
やはり、異世界からの転生者か!?
「おねぇちゃん、あのおばさん怖い~~~~っ」
「ぶっ殺すぞクソガキ」
校長先生にしがみつき、うっすら涙まで浮かべている。
「コラ、ダメでしょ、そんなことしちゃ」
と先輩におでこをコツンとされる。
わーい、ご褒美だー。
「ほら、怖いおねぇさんは私がお仕置きしたから、もう安心よ!」
「………ほんと?」
「ほんと!」
まぁ、あなたの指示でやったんですけどもねー。
とは言えない。だって、ご褒美貰ったし。