教育機関訪問2
五人の資料をざっと見ていく。
その間、先輩は校長と談笑している。
つまりはある程度まで考えをまとめろ、何か違和感を覚えろ、ということだろう。
コンテストや大会の受賞歴を見るに。とても優秀な子どもたちだ。
流石に皇国立に通うだけのことはある。
そして気付く。
「ああ、これ、資料というより、報告書ですね。しかも監視しているみたいな」
「流石、気付いたみたいね」
「あとは、この件って基本的にはオフレコ案件ですか?」
「そういうこと。いいわよー、レミちゃん!」
これだけ魔術と機械の発展したこの世界において手書きとは……。
それだけデータに残したくない、ということだろう。
紙ならば簡単な初級魔法でも直ぐに燃やせる。
「そしたら、まずは何故、この子たちが怪しい、と?」
「この学校は全国でも選りすぐりのエリート候補生たちが通っているわね。その子たち以外も秀才揃い」
「そのようですね」
「その中で、試験においてとても優秀な成績を修めたのがこの子たちなの」
「ですが、それは毎年居る成績優秀者というわけではないのですか?」
「確かに、成績優秀者は毎年居るけども、この子たちは少し違うのよ」
「違う?」
「成績の配分が偏り過ぎているの」
「なるほど、そういうことですか」
転生して人生をやり直す人間は、元いた世界で学んだこと、出来たことの分、アドバンテージがある。
例えば、大魔導士が転生すれば、魔術に関してアドバンテージが。
天才科学者が転生すれば、科学にアドバンテージが。
反対に、自分たちが経験していないものに関しては、当然ハンデがある。
「つまり、飛びぬけて一つの科目に特化はしているものの、それ以外は良いとこ秀才どまり、ということですか」
「そういうこと。下手したら、平均を下回るっていうのも有り得るの」
「確かに、この『報告書』に、その記録が残っていますね」
「だから、この子たちをピックアップしたってわけ」
「確かに優秀ですから、転生者がいるなら、国の機関に入れてしまいたいですよねー」
「そうなのです。ミストラルさんからお話を頂いた時には、こちらの方からお願いしたいくらいでした」
「先輩から?」
「全国統一試験の結果を、毎年確認しているの。こんな風に転生者が見つかったりもするからね」
「真面目ですねぇ」
「いやはや、その熱意、素晴らしいですな」
「うーん、でも、この子たち、普通の子なら、まぁ大したもんですねぇ」
『報告書』の記録を再度見返すと、大人に混じった大会などでもいい結果を残している。
「そうなのです。私が校長になって以来の秀才、天才です。まだ10歳に満たない子たちではありますが、きっと国を背負って立つ人間となるでしょう」
「あ、8歳とか9歳とかなのか、基本的なこと見落としてました」
「レミちゃん、本当に基本的なところなのに……」
はぁ、とため息をつかれてしまった。
いや、何か謎かけみたいなことしてくるものだから、そんな基本的なところが答えとか思わないじゃないですか……。
「そういえば、レミちゃんは10歳前後の頃って、何していたのかしら?」
「んー、そうですねー10歳くらいか……こっちの大学に行ってた時期ですね」
「なんと! 大学ですか!?」
「そうなんです。私、こう見えても人間の血も入っていますのでー」
「レミちゃん、校長先生はそういうことに驚いているんじゃないわよ?」
「え?」
「いやはや、この時代によもや飛び級とは……恐れ入りました」
「そうそう。凄いことなのよ、レミちゃん」
科学と魔法の融合は、学ぶ量と求める才能の種類を増やし、飛び級という制度はあるにはあるものの、人間にはほぼ不可能に近いものとなった。
「ほら、人と魔族で時間の流れ方が違いますから、そんな大したことないですよ。私の種族は生まれた時から知性と知識がありますし、一年やそこらで成体にもなります。ですから、まっとうに9年間も勉強すれば、大学にも入れますってー」
「それでもなお素晴らしいことだと思いますぞ」
「褒められているのだから、素直に喜んでおきなさい、ね?」
少しむずがゆいが、嬉しくないわけでもない。
下手な謙遜をするくらいなら、受け入れてしまった方が、先輩も喜ぶのかもしれない。
「んじゃあ……わーい……」
こんなもんでいかがでしょう?