教育機関訪問1
先輩とのお出かけに心を躍らせながら、車へ乗り込む。
仕事とはいえ、やはり嬉しいものは嬉しいのだ。
教育機関への視察という事で、朝のようなドタバタもないだろうし。
「で、先輩、どちらに向かいますか? 職業訓練校? 軍事訓練校?」
「えーと、ディーン皇国立小学校よ」
「え? 小学校」
私たち移民局が関わりのある教育機関は、上記の二つくらいしかないのに。
一体どういうことだろう?
眉をひそめながら車を出す。
物凄い難関のお受験を突破しなければ入れないという以外には、変わったところなどない学校だ。
もちろん研究機関や実験期間などは無い。
「ふふ、まだ分かっていないようね。本当は教えてあげるべきなんだろうけど、レミちゃんの勘を試してみたくなっちゃったわ」
「勘……ですか……。あ、児童たちに仕事の話を聞かせるやつじゃないですか?」
「んーまぁ、聞かせることにはなると思うけど、それが主目的ではないわね」
「あ、でも話すことは話すんですね」
「そうね、さぁ、今の私の発言を聞いて、思慮を巡らせてごらんなさい」
勘と言ったり思慮と言ったり、どちらつかずの発言。
つまりは両方をフルに使わなくてはならないということだろう。
無言で車を進ませるが、結局閃きは私に降りてこなかった。
先輩は難しい顔の私を見て、終始ニコニコしていた。
「そろそろ着きますね、正面から入っていいんですか?」
「いえ、職員用のゲートがあるから、そっちに回してちょうだい」
「了解です」
「で、どうなのかしら? 何となくでも答えは出た?」
「んー、移民が小学校の中に、ふと現れたっていう事は聞きませんし……」
車から降りながらも、推理は未だに続いている。
「ということは?」
「子どもの移民が居る、ということでしょうか」
「そうそう。よく分かったわね、レミちゃん」
「でへへへ……」
歩きながら頭を撫でられ、つい顔がとろけてしまう。
おっと、校舎に入るのだから、キリっとしておかなくてはならない。
「じゃあ、もう今回の目的も分かってきたんじゃないかしら? ええと、まずは校長室……と」
「……ああ、転生民ですね」
「はい、大正解!」
転生民は二種類。
生前の姿のままこちらの世界に来るか、それともこの世界の住人の誰かとして生まれかわるのか。
今回は小学校、しかもお受験しないと入れない学校なのだから、転生してこちらの世界を学ばなくてはならないはずだ。
「で、レミちゃん、これからどんなことが有っても疑う事を止めてはダメよ?」
「疑う、ですか。つまり、子どもたちが騙しにかかる、と?」
「転生して、この国である程度育ったなら、転生民とその家族がどれだけ支援を受けられるか知らないわけがないわ。それをしないってことは」
「何かしらの理由がある、そしてそれはお金ではない、と」
「という事で、探りを入れに来たのよ。あ、校長室はここね。移民局ですー、入りまーす」
扉の横のスピーカーに話しかけると、しばらくしてドアが開いていく。
児童が多いのだから、扉にぶつかる、挟まれるというを防ぐためだろうか、いつものもよりゆっくりだ。
「いやいや、これはどうもミストラルさん、お待ちしておりました」
「どうも、校長先生、本日はお時間ありがとうございました」
「いえいえ、お忙しい中、お早い対応ありがとうございます」
「早速ですが、この子たちは既に別室に待機させております。これが資料になりますのでどうぞ」
「ありがとうございます。私は既に確認しておりますので連れにお渡しください。レミちゃん、これに目を通しておいて」
「はい。あ、申し遅れました、私、移民局のレミリア・エイプリルと申します。本日はよろしくお願いいたします」
「ああ、これはこれは、私は当校の校長、オサベと申します。お忙しい中ありがとうございます」
でっぷりとした体形の校長から、合計で5束のファイルを渡される。
――――――この五人が、転生民候補、ということか。