通常業務
さて、試験対策の勉強をしているからといって、仕事が免除される訳ではない。
今日も今日とて移民の対応だ。
「なーんで、こんなに移民が多いんだか……」
現場に向かう車内で一人愚痴る。
ヤスモトさんの話によると、まず起こり得ない出来事だそうで、こんな事になっているとは思わなかったそうだ。
初代勇者が現れた際に、チャンネルみたいなものが繋がり、転移・転生が起こりやすくなったと聞いたことが有る。
異世界転移を、ちょっとしたお金持ちのちょっとした旅行といった感覚で行っている私達の世界にも、ことさら原因があるとか。
一度開いた穴を何度も通れば、穴はドンドン広がっていくのと同じで、今後も増えていくだろう。
そんな事を考えていると、今回の現場に到着した。
そこまでの規模ではないそうなので、私一人で対応に当たる。
「あ、どーもー、移民局の者ですー」
現場の商店街を封鎖している消防士に話しかけ、車両ごと中に通してもらう。
本当に小規模な反応は、花屋の前にポツンとあった。
車から降り、機材を一人で準備する。
空間の歪みを測定すると、しばらくは時間がかかりそうだった。
ふむ、どうしようか。
お昼ご飯には早すぎるし、一度帰るのも面倒くさい。
商店街という場所柄、昼寝というわけにもいかないし。
消防がガス、爆発といったものの対策はしっかりしているようだし、私がやる事と言えば、いよいよ拘束するだけってところじゃないか。
とりあえず、現状を消防士に伝えておこう。
「あのー、隊長はどなたでしょうか?」
「私ですが、何かありましたか?」
装備と耐火服の上からでも分かる屈強な体に野太い声。
それにゴリラみたいな顔の消防士だ。
大きめの液晶端末に映っているグラフを見せる。
「まずはこちらのデータをご覧いただけますか? 現在、空間の歪みはほぼ全ての数値が緩やかな変化をしています。このままのペースですと暫く時間がかかりそうですね」
「急に変化するという事はないのでしょうか?」
「今回のケースですと、こちらの数値が全く変化していないので有り得ないですね。私の記憶する限り、歴史上でも見てもゼロのケースです」
「そうですか、では予定時刻などは分かりますか?」
「計算ではこうなっておりますが、あくまで目安です。この折れ線グラフがこの色のついたエリアまで差し掛かると、出てきてもおかしくないってところです」
「なるほど……」
「ですので、長丁場になると思いますので、交代制で休憩を取られるといいかもしれませんね」
「分かりました。ですが、そちらはお一人ですよね?」
お、もしかしたら私の都合の良い方に転がってきているのか?
「まぁ、計器を眺めているだけなので、それほどですよ」
とりあえず、やんわりと一度は強がってみる。
「もしよろしければ、計器のチェック位でしたら私達でやれますから、適当なタイミングで休憩を取られてください」
良し来た!
「あ! 本当ですか!? いやー助かります! 一応、計器類のデータは、私も確認できるようになっていますし、何かあれば、この計器のこのアイコンを押してください。私にアラートが鳴りますので!」
厚意に乗っかる時は素早く全力で。
それが私の処世術である。