コンプラ!!
「俺達は公務員である以上、法を犯す訳にはいかない。そう聞くと雁字搦めに縛られているように思えるが、実際には解釈や過去の判例によって、自由度の高い業務遂行を可能にしている。ついでだ、実務向けの知識も頭に入れておけ」
「本音と建て前、ってやつですね」
問答無用で、ルールお構いなしの移民を相手にするのに、こちらだけお行儀よくしてはいられない。
「ああ、そういう事だ。では、身も蓋も無い話を始めようか。ヤスモト、俺達が物をぶっ壊していい範囲っていうのは、どこまでかは分かるか?」
「え? それは、人の家だったりとか、何かしらの公共の建築物って事ですか?」
私も同じように考えてみるが、大抵の物はぶっ壊しているからなぁ。
むしろ、範囲が有るのか、と思い直す。
「ああ、その方向で間違ってない」
「んー、やっぱり、遺跡なんかの歴史的建造物、王族……皇族って言うんですっけ、この国では? そういった方々の建築物や私物はダメなんじゃないですかね?」
「大原則として、俺達は一切の破壊は認められていないというのは、試験対策として頭に入れておくとして、実際には、一部を除いて、ほとんどはぶっ壊して構わない。そして、その一部というのが、軍や警察、消防関係の施設や備品だ。特に軍の物に関しては、基本的にノータッチでいた方が良い」
「あの、横からすみません、軍との連携って、大規模な転移だったりすると珍しくないですよね? その場合もですか?」
「レミリアの言う通り、軍と連携を取る事は往々にしてあるな。だからこそ、だ。軍が出張ってきて、戦力を出し惜しみ、さらには失敗しようものなら責任をこっちに被せようとさえしてくれる。故に、基本的には触れない方が、何かと都合が良い」
大人の事情、というやつか。
「でしたら、私達の出番って、どんなタイミングで回ってくるのでしょうか?」
「責任の所在を確かめてからになる。とどのつまり、軍が手柄を上げたいならご自由にどうぞ、俺達に任せるのならとばっちり食らっても文句言うなよ? と、なってからだな」
「もし、それで軍が自分らでやる! ってなったら、私達は帰って良いんですか?」
「いや、諸手続きはこちらでどちらにせよ請け負う形になるから、その場で待機だな。宿泊費や交通費、飲食代や手当も出る、いい小遣い稼ぎだと思ってくれ」
「あ、私からも良いですか?」
「どうしたヤスモト」
「特級だと、何か手続きで変わった事があったりしますか?」
「特には無い、が、特級が駆り出されるという事の大きさを考えれば、今まで以上に研究機関や軍部への引き渡しが多くなる」
「そっか、特殊だったり強かったりするんですもんね」
ヤスモトさんが頷くのを見て、私もつられて頷いた。
「では、問題だ。軍がミサイルを撃ったが、それをコントロールされ、市街地へ向かっていったとする。その場合、俺達が迎撃するのはどうだろうか? 次はレミリア、実際と建て前を答えてみろ」
「建て前としては、軍の作戦行動である可能性があり、完全にコントロールされているかの確認が取れない場合、闇雲に迎撃は許されないと考えます。で、実際は迎撃したとしても問題無しだと思います」
「ふむ、では、コントロールされているかの判断はどこだろうか?」
「うーん……魔力行使、ハッキングの痕跡の発見でしょうか」
「確かに、それであれば証拠といえるだろうな」
「ですが、本当にそれを探知出来るかは疑問です。それが移民の魔力や電子操作の能力なのかは分かりづらいので」
「そう、分かりづらい、というのがポイントだ。誰がどうしたか分からない以上、俺達が危機回避の為に行ったのかも分かりはしない。つまりは、本音も建前も迎撃しても良し、という事だ」
「え、それが例え、軍の作戦行動だったとしても?」
「移民が操っていない、という証拠もないだろう?」
「なるほど……」
「というわけで、危険を感じたら、その回避行動はどんな場合でも許されるから安心しろ」
何だか一つ大人になった気がする。