鬼ごっこ
理不尽な力技を目の当たりにしたが、呆けてばかりもいられない。
とにかく次の策を考えなければ。
まずは現状の確認を丁寧に行っていこう。
一番近くに居るのはマリさん、これは間違いない。しかし、他の三人の中で一番手強い。
じゃあ、新たに罠を仕掛けて、愚直にマリさんと追いかけっこを始めるか?
誰かが引っ掛かるかもしれないし。
でも、警戒されているだろうから、同じ手は通じないはず。
いや、あえて裏の裏というのもアリ?
…………落ち着け、兎にも角にも罠を仕掛けなければならないのは間違いない。
頭の中のタスクリストに、罠の設置と記入した。
次に、マリさんをどうするか、だが……。
――――――よし、捕まえよう。
まともにやっても無理なのはわかっているけれども、これはあくまで演習だし、マリさんに並び立つ為に私は試験を受けようとしているのだから。
どれだけ差があろうと、挑んでいかなければならない。
ネガティブな私には珍しく、挑戦的な気持ちになっていた。
やると決まれば即行動だ。
躊躇ったりするのが短所だと言われたし、克服の意味を兼ねて。
「アンタッチャブル!」
障壁を破りたてのマリさんをすかさず囲みなおした。
と、同時にマリさんの視界から外れようと横に回り込んでいく。
障壁をまたぶち破ろうとするのなら、背後を取れるだろうか?
こうなったらぶち破られるたびに張りなおして、我慢比べでもしようじゃないか。
「ふう……」
と小さくマリさんがため息をついた。
異世界から伝わった『カラテ』なる拳法、それの正拳突きを繰り出すと、一気に障壁が崩れてしまう。
そりゃあ、押すだけで破れるのだから、殴ったら直ぐに壊れる事だろう。
あまり魔力を割いていなかったというのもあるけれど。
しかし、そこまでの労力を払わなければ、私の障壁は破れないという証拠だ。
三度障壁が張られた時には、私の動向は伺わず、逃げる事を選んだようで、間髪入れずにもう一度壁をぶん殴る。
こちらも負けじと障壁を展開するが、今度の壁はちょっと違う。
今度は私も中に居るのだ。
破るのに手間を取られれば、私がタッチ出来る。
さぁ! どうしますかマリさん!?
「なるほどねぇ……」
障壁内に私も居るのが分かったのだろう、マリさんは壁を破るのは諦めて、向き合い、構える。
しかし、広さも形も私は分かっている分、アドバンテージは私にある。
これは鬼ごっこで、私に打撃は加えられない。まぁ、ルールで攻撃は禁止されているけれど。
ん? 打撃?
てことは……魔法やらは使えるって事じゃないか!
それに気付いた私は一気に距離を詰め、先に私が妨害魔法を仕掛けていった。
先ほど同じように、動きを遅くするものだ。
それの射線から逃げるように、横に逃げるマリさん。
なるほど、障壁に手をつきながら移動する事で、形状を把握していってるのか。
「それなら、アンタッチャブル!」
壁の一部を変形させて、躓かせる。
マリさんは変に堪えずに転がりながら受け身を取り、私の魔法とタッチから逃れた。
よし! そう来るなら、私の次の一手は……。
「あいた!」
出っ張らせたアンタッチャブルに、マリさんが頭をぶつける。
立ち上がりを狙ったのだ。
「はい、タッチです」
痛がっている時を狙うのは卑怯な気もするけど、そうでもないと捕まえられそうにもないんだから、何卒許してほしい。
あれ? もしかしたら、初めて私、マリさんに勝てた?