異世界の遊び=試験
「間に合ったみたいね」
と言いながら、演武場にマリさんが現れた。
「業務は終わったのか?」
「ええ、今日は滞りなく。まぁ、明日に回す事になったって感じですけどね。ヤスモトさんも試験対策? 二人はどうですか?」
「そうだな……滅多な事では落ちないとは思うが、捻った課題が出た時にどうだろうな? ってところだ」
「過去の試験を見ると、けっこう性格悪そうな課題も少なくないですからね。レミちゃん、どう? これが来たら苦手だなって感じるものはあるかしら?」
試験を受けるにあたって、過去問は当然漁っている。
学科は一度見ればいいとして、正直、なんだこれは? というのがいくつかあった。
マリさんの時の鬼ごっこもそうだし、缶蹴り、ドロケイもしくはケイドロとかいう異世界の遊びがチラホラ見受けられ、そもそも何を言っているか分からない状態まで混乱したのである。
「あの、異世界遊びシリーズがよく分からないです……いえ、ルールは分かっているんですよ? ただ、いきなり言われたら何でコレ? ってなってしまいそうで」
「課題の意味、か……一応、建前を言うと、異世界の文化にどれだけ対応出来る・理解できるかの柔軟性を見つつ、更には自身の能力をそれにどう使うかの応用力を見るとされている、な」
聞けばごもっともな理由ではある。
「まぁ、試験問題作る奴が、そういうのが大好きってだけでもあるんだけどね」
「身も蓋もないですねぇ……」
「私は、その異世界からの人間ですから、ちょっと有利ですね」
そうか、ヤスモトさんはその遊びを知っているのか。
遊びというのは駆け引きが出るものだから、経験者はそこいら辺は有利だろう。
「あら、ヤスモトさん、結構しっかりやっていた方? そういった遊びは」
「ええ、私の居た国ではやったことのない子どもは居ないんじゃないかってくらい、どれもポピュラーですね」
「……なら、四人でやってみるか?」
「反対ですっ!」
即座に私は止めに入る。
だって、子どもの遊びって大体走るやつでしょ? 係長相手にそれは無謀というものだ。
「能力は使わないさ、純粋に身体能力にちょっとブーストかけるくらいにしておく」
それでも相当速いんだよなー、この人。
「私達はいいですか?」
「もちろんだ。子どもの遊びに、俺の能力が凶悪過ぎるのも分かっているさ」
「んじゃ、何からしましょうか?」
心なしか弾んだ声で、ヤスモトさんが腕を振るう。
「シンプルに鬼ごっこにしましょ!」
うん、マリさんも楽しそうで何よりだ。
少女のような表情がたまらない。
鬼ごっこって事は、マリさんに合法的にタッチ出来るって事だ。
それは良い。とてもイイ。
「……そういえば、皆さんはじゃんけんって分かります?」
「石とハサミ、紙の三すくみゲームですよね?」
おじいさんが、初代勇者に教わったと嬉しそうに語ってくれたので、よく覚えている。
「おお……異世界の人の評価というか、理解って面白いですねぇ。お二人は?」
「ああ、問題無い」
「私も大丈夫」
「では、じゃーんけーん……ぽん!」
一発目で一人負けする確率とは14~15%ほどだっただろうか。
とにかく一回目で、私の鬼が決定したのだった……。
この人たち相手に、鬼ごっこってよく考えたらきつくない?