挑戦
ヤスモトさんの特技は、棒術である。
御多分に漏れず、背丈よりも長い棒に変化させ、こちらに先を向けてきた。
小柄なはずなのに、巨大に見えてしまう。
と、ビビっていても仕方がない。
先ほどと同じように、飛び込んでいく。
不意打ちでも何でもない為、当然迎撃に動く、が、それも想定内。
突きを繰り出してくるが、私は空中で更に飛んだ。
アンタッチャブルを踏み台にしたのである。
空振った光は、枝葉のように分かれ、私を包むように襲ってくる。
それも不可視の障壁で凌ぎ切り、再びの飛び蹴りを見舞った。
優位に立っている?
そんなはずはない。
私のアンタッチャブルの欠点は、私が一番分かっている。
如何に強固な壁を自在に創り出せるとしても、それはあくまで壁である。
壁の内側、そこはあくまで私自身。
それはつまり、徒手空拳での攻撃は、敵にも攻撃のチャンスである事に他ならない。
「カメレオン!」
私を攻撃していた枝葉は、今度は光の膜へと姿を変えた。
まずい! このままでは、捕らえられてしまう。
蹴りの先に、足場を作り出して、何とか後ろに飛びのく。
その直後、不可視の足場が光に飲み込まれた。
やはり、ヤスモトさんは強敵である。
その証拠に、遠間から魔法を放ってくる抜け目と容赦の無さを見せてくれた。
それも爆発系の魔法。
室内なのに、無茶をするものだ。
と感心している場合ではない、その爆炎の隙間から、光の攻撃が襲い掛かる。
アンタッチャブルが無ければ、とっくに倒されていた事だろう。
「ぶっつけ本番……今の私にやれるでしょうか……」
以前試したっきり、失敗に終わった技術がある。
マリさん相手に試すには余裕が無かったし、他の移民や人間相手には使う必要すらなかった。
しかし、拮抗した実力を持っている相手なら、試す価値は十分ある。
「―――我纏うは鉄壁の守護者」
猛攻をかいくぐりながら、冷静に言の葉を紡いでいく。
「我の歩みは守護者の歩み」
成功させたい、前に進みたい、だから手伝って。
「従え―――満たせ―――我が眷属よ」
私の手に、魔力が集まっていく。
「汝の名は、堅牢無双、アンタッチャブル!」
その魔力は確かに形を作ってくれた。
――――――ありがとう、アンタッチャブル。
私が持つは不可視の双剣。
堅牢なれど重さは無く。
鋭利なれど欠けはせず。
私が今思う最高の剣が此処に出来上がった。
さぁ、試し切りといきましょうか―――――――――。
「そこまで!」
気分が最高潮だというのに、ストップをかけられてしまった。
いやいやいや、ちょっとそれは無いですよ!
「えぇー……」
「ええ、じゃない。そんな物騒な物が出てくるとは思わなかったんだ」
「なになに? なんです? なんか起こったんです?」
「切れ味が良すぎる不可視の剣を、レミリアが作り出してしまった」
「えー、凄いじゃないですか?」
「切れ味が良すぎる?」
「その刃先の薄さ、分子を切ろうかと思うくらいの薄さ鋭さだ、俺の見立てだと」
「え、マジですか?」
そりゃ鋭利に、とは考えたけれど。
「その様子だと、今やってみたら出来たってとこだろう? 威力を操者が把握していない以上、お互い危険すぎる」
「あー……確かに……すみません」
よく分からない新しい爆薬をその場で試すようなものである。
過ぎたる力なのかもしれないけど、とにかくどのくらいの力なのかは把握しなければならない。
「あのー、凄い気になる事が一つあるんですけども」
「どうしたヤスモト?」
「障壁とその剣、どっちが強いんでしょうかね?」
「ふむ、確かにな、気になるところではある」
「…………確実に、この剣のが強いです」
コンディションなどにもよるが、障壁は榴弾や徹甲弾も通す事だってある。
いかに強力で鋭利な弾丸だとしても、まさか分子レベルに尖ってはいないだろう。
「矛盾、とはならないんですねぇ」
つまらなさそうに、ヤスモトさんはそう言うのだった。
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