皇国に戻って2
「これは……判断に困る結果だな」
「えー……」
「敏捷や反射神経に関してはなかなかだが、筋力系と柔軟は褒められたものではないな」
「もしかして、足切りにあいます?」
「極端に酷いという訳でもないし、平均すると普通……うーむ、本当に判断に困るな」
「つまり、足切りするほど悪くもないけど、求めるところまでは届いていない、と」
「そうだな。これだけでマイナスにはならんが、合否の境目ならこれを理由に落とすかもしれん」
一通り終えた評価がこれである。
「他の試験で巻き返す事って、出来そうですか?」
「無くはない、と言っておこうか。どういった試験になるかも分からないが、模擬戦で圧倒するくらいであれば、大きな加点だろうな」
「ふむふむ……」
「とはいえ、欠点をそのまま放置しておくのもいかん。筋トレとストレッチはしなければならないな」
「本番は、身体ブースト使って良いんですよね?」
「ああ、どれだけ強化できるかも評価するし、素の力も判定材料ではある」
「あー、どっちにしろ筋トレも強化も練習しなきゃかぁ……」
「おいおい、まだ本格的に試験対策をしていないのだから、凹んでもらっては困る。まぁ、良い、レミリア、構えろ」
「あ、はい!」
っと、気落ちしている場合ではない。
この間言われた隙を見せないようにする事を心がける。
「ふむ、良い構えだ。アンタッチャブルは使っているか?」
「ええ、使っています!」
「そうか、良い傾向だ。では、実技試験では、純粋な戦闘力、状況の対応力、周囲への配慮の三点が特にチェックされる。それぞれ、どういうものかを説明できるか?」
「戦闘力はそのままだとして……状況の対応力は移民の行動への対応、周囲は被害が出ないかっていう事でしょうか?」
「よし、まぁ、合格点だ。なら、ちょっと対応してみると良い」
「へ?」
サイジ係長が消える。
大丈夫、不可視の障壁があるんだ、まずは落ち着いて係長を探す事が最優先。
すると、背後の障壁に衝撃が加わった。
即座に振り向き、迎撃しようとする。
「え?」
視界が真っ黒だった。
私の意識が途絶えたとか、何か呪いをかけられたとかではなく、シンプルに私の障壁が真っ黒になっていただけである。
煙幕? 目隠し? 一体、次はどうしてくるのか?
「トプン……」
足元が、突然液体になる。
いきなり足場を失った私の体は、もはや構えどころではなく、倒れないようにするだけで精一杯だ。
慌てていると、ヌッと液体となった床の中からサイジ係長が現れる。
障壁の下をくぐってきた!?
「上手く受けろ」
宣言してからの掌打をアンタッチャブルを展開しなおし受け止めた。
よし、ここから反撃を―――と思った矢先、私の体は宙を浮く。
障壁ではなく、膝のあたりまで浸かった液体ごと飛ばしたのだ。
液体を飛ばすついでに私を吹っ飛ばす、とも言えるかもしれない。
「くっそ! うげっ」
空中で姿勢を整え、さぁ反撃、と思ったら、他の訓練している人にぶつかってしまった。
結果、みっともなく床に墜落し、およそ女の子とは思えぬ声が出てしまう。
「す、すみません」
「いやいや、大丈夫ですか? 頑張って!」
会釈と謝罪をしながら、サイジ係長の下へ戻っていく。
「状況の対応と周囲の配慮、分かったか?」
「ええ、身をもって分かりました……」
「俺の魔法ですらこの程度なら出来る訳だ。特級の移民ともなれば、もっと大掛かりな変化を与えてくるだろう」
「戦闘環境の変化は、周囲への配慮になるんでしょうか?」
「そうだな、今のケースで言うならば、床が液体に変わった事で、沈んでしまった人や物があるかもしれないだろう? そこを配慮出来るかどうかだ。これが毒沼なら感染などの被害を考えなければいけない」
「ふむふむ」
「状況の対応という事であれば、レアケースで言えば交渉してくる移民も居る。その際にどの程度、自分の裁量で対応出来るか、自分で対応出来ないとなれば、何処へ協力や申請をすべきかを理解していなければならない。基本は移民局に問い合わせれば良いが、即断即決を求められる場合もある」
「戦闘以外の対応も含まれるんですねぇ……」
「ああ、稀なケースではあるがな。そもそも交渉で済むのなら、特級ではなくても対応が可能だしな」
色々考えながら、戦わなければいけないのか……。
偉くなるというのも、大変だ。
それに、煙幕と状態変化という簡単な魔法で、完封されてしまった事も懸念事項でもある。
問題山積。
スポーツテスト以上に、凹む結果になってしまった。
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