傾向と対策
まだまだ騒がしいタワーから離れ、ホテルへと戻ってきた。
流石に疲れており、しばらくは何もしたくなかった為、昼食も室内で頂く事にした。
こんな状況で、外食も難しいだろうし。
しかし、マリさんとランチだというのに、惨敗したショックが抜けきらない。
「まぁ、そんなに気を落とす事はないけどね、レミリアの油断を突いただけだし。真っ当にやったらレミリアの方が強いと思うよ」
テーブルに三人で座りながら、お茶を嗜みつつ歓談する。
疲れた体に、高級なお茶が美酒のように体に染みる。
グデーっと過ごすことに決めたとはいえ、色々と後片付けをしながらではあるが、充分にリラックスしていた。
「逆に真っ当っていうのが分からなくなってきました」
「多分、レミちゃんに少しアドバイスしたら、アレックスは勝てなくなっちゃうんじゃないかな?」
「え、そんな事あります? 瞬殺されたんですよ?」
「そうでしょ? アレックス」
「うん、まぁ……負けないけど勝てないかなぁ……」
「ほら、本人もそう言ってるし」
「にわかには信じられませんね」
達人たちにしか分からない私の評価があるのだろうか。
「流石にこれは、周りに被害が出るかもしれないから、今すぐ実践は出来ないけど、レミちゃん、アンタッチャブルを上手く使えばいいのよ」
「あ!」
「戦ってた時、自分に障壁張っていたでしょう? それを常に意識して対峙しなさいね?」
「は、はい!」
「レミリアのアンタッチャブルは相性が悪すぎるよ。ただ、展開するのが遅いなぁ、っていつも気になっていたんだよねぇ」
確かに、最初っから障壁を作っていれば、不意打ちにも対応出来るだろう。
「自分でも、何で今までそうやって戦おうとしなかったのか、不思議です」
「余裕だったって事でしょうね。無理をしないとも言い換えられるけど」
「平和ボケって言ってもいいんじゃないかなー、やられてからじゃないとエンジン掛からないけど、やられる準備できてないというか」
「あー、なーんか、攻撃するのに躊躇いがあるんですよねー……」
「それが普通よ。例え、殴っても罪にならないにしても、喜んで殴る人は少ないでしょうね。人を傷つけるっていうのは、ストレスを感じる事だから」
「ストレス……確かにストレスに近いです」
よっぽど感情が昂らない限り、気持ち良く攻撃が出来ない自分を思い出す。
「ストレスを感じて当たり前なのだから、大事にしてね。何よりも自分を守る事を最優先って事を言いたいの」
「はい、甘えていた、舐めていた、って事ですよねぇ……」
「そ、守備的になるならとことん守備的になりなさい」
カッコ悪いとか、サラッと躱すのがカッコいいとかやっている場合ではない。
恥や外聞をかなぐり捨てて、全力で身を守る。
いや、もっと考えを発展させて、いつでも返り討ち出来るように備えるべきだ。
「さ、レミリアの方針も決まったところだし、テーブルをそろそろ片付けようじゃないか。料理が間もなくみたいだ」
「よく分かりますね、何か連絡でも?」
「ただエレベーターの音が聞こえただけだよ」
部屋の中、それも防音がしっかりと効いているだろうスイートルームなのに、エレベーターの音が聞こえるなんて、ちょっと頭がおかしいレベルではないだろうか。
そうそう、お片付けだった。
テーブルの上が散らかっているだけならまだしも、銃、接収した剣やら何やらの物騒な物が、分解、洗浄、メンテナンスの為に広がっているのは、ボーイさんがさぞかし驚く事だろう。
アレックスは使ったスナイパーライフルの点検を既に終えているし、マリさんは急ピッチで直ぐさま終わらせる。ズルい。
残るは私だけだが、剣を茎まで分解しなければ良かったと後悔するのだった。