現場仕事6
スマホから投稿
ギシッ……ギシギシッ…
担架が軋む音を上げながら、私たち2人は航空機へ男を運ぶ。
「さて、服装から見るに文明の無い時代、おそらく言葉もない世界から来たのだろうな」
「そんな野蛮な世界の人間、放り出してしまってよくないですか?」
「まぁ、そう言うな。虚をつかれたとはいえ、俺たち2人に不意打ちかませる身体能力だぞ? 研究の価値はあるだろう」
「確かに。つっても、あの程度なら係長なら止めれたでしょう?」
「すまん、通信に気を取られていてな……」
「あー……もしかして、保護局のレイさん?」
「当たりだ。何故か今回もお説教をくらってしまった」
通常、援護局へ移民は送られ、適正の仕事を割り振られる。
しかし、すぐに労働力となれない場合、保護局へと送ることとなる。
今回のように文明の発達してなさそうな世界からの移民なら、文字や言語訓練、はては職業訓練まで行う必要があるはず。
その労力は決して少なくはないだろう。
それに、保護局の仕事は移民よりも国民に使え、という世論もあったりする。
「レイさん厳しいからなぁ……」
先輩と出身校が同じで同期のレイさんは、私も先輩と一緒にご飯食べたり飲んだりで面識がある。
で、レイさんが係長に厳しいのは、他にも理由があるのだけど、黙っておこう。
「全くだ。現場の気持ちも考えてほしいものだ」
担架ごと航空機へ入れて、透明なフィルムで体を包む。
簡易的な拘束だが、巻き終わりの縁を少し擦ってやるだけで圧着し、なかなか解くことが出来ないようになる。
これであとは帰るだけだ。
「そういえば、時に係長、ご結婚などは?」
「今のところ、する相手が居ない。まぁ、夜勤が性に合うからな、する気も無いのだが。…………強がりではないぞ?」
「大丈夫です。そんなこと思っては居ないですから」
好きな子をいじめたくなるタイプのレイさんと、仕事人間でマイペースの係長。
うーん、まぁ、頑張ってほしい。
とりあえず、相手は居ないと聞き出せたので、今度先輩と奢ってもらおう。
「今回も厄介なものを押し付けるな、と叱られてしまった。正当な手続きなのだがな」
「先輩や私なら研究機関送りにしてますけどね」
「同じこと言われたな」
異国異文化で生活する。同じ世界でも辛いことだ。
世界の法則ごと違うとしたら、筆舌に尽くし難い苦労があるだろう。
彼の世界の場合、暴力が世界のルールだったのだろう。
だから、いきなり襲ったし、野獣のように吠えて飛びかかった。
珍しい猛獣として、研究機関に渡した方が彼の為にもなるんじゃないかな? なんて思う。
あ、私がもし彼のようになったら? もうスッパリと諦めます! 無駄な努力はしない主義!
「保護局には武闘派のスタッフは多くないですからね。あくまで保護。弱者をかばい守る機関に攻撃力は必要無い、というお国の方針のせいでもありますが」
「その方が楽だろう。ただーーー嫌なんだ、人の形したヤツが人の扱いされてないの見るの」
係長はそう言うと、ジャケットを空いている座席に放り投げ、ネクタイを緩め、シャツの首元と手首を解放する。
「よし、定時は過ぎたな。寝る。操縦は頼んだ」
言うやいなや座席のリクライニングを倒して即座に寝息をたて始める。
寝るのも早いな。