タワー攻防戦12
さて、ひと段落、といったところだろうか。
何か起こったとしても、サイジ係長という戦力が増えたのだから、多少は安心できるだろう。
「係長が言うように、移民を駒にして使っているっていうのは、いただけない事ねぇ……」
溜め息混じりにマリさんは呟く。
「皇国のやり方が、移民の自由を奪っているという主張は分からんでもない。だが、野放しにしてこの世界の人間が不幸になるというのは、見逃す事も出来ん」
「これは、私の仕事ですが、今回のような手先として動かされているのであれば、国を挙げて、テロ組織に攻撃する必要も出てきますね」
「大変だろうが、頼みたいところだな。お隣の国がどう動いてくるのかは分からないが」
お隣の国が発足―――つまりは皇国から反乱した際の主張はこうだ。
『現地人、移民にかかわらず平等であるべき』
うむ、これは分かる。
『故に、移民である勇者を首長に統べる事は許されない』
といった具合にダブルスタンダードで困ったものだった。
現状の皇国は、勇者の血筋であるミストラル家が首長で、移民の家系がこの世界の国を統べていていいのか? という声ももちろん分かる。が、そもそもミストラル家の源流は、この世界の貴族だ。
つまりはこの世界の人間の血筋でもある。
純血主義というものなのだろうけど。
そして、お隣の国の危うさというか、不思議なところといえば、世界を牛耳ってやろうと現地人と移民お互いがそう思っているところだ。
小間使いにしてやろうという国の考えと、優秀な能力を持っているから優遇されるべきだという選民思想を持つ移民が手を組んでいるのである。
敵の敵は味方、というやつだろうか、共通の敵である皇国が居る事で成り立っている関係だ。
「移民、か……。皇国のシステムって、そんなに悪いものなのかしら……」
突然転移、転生してきて、そこいら辺に放り出されるよりもマシだと思うのは、私がこの世界の人間だからだろうか?
まぁ…………私なんかは業務の意識が強いので、騙すように契約させる事も少なくないのだが、それにしたって自由が全く無くなるわけではない。
研究の素材になるのならともかく、普通に暮らす分には困らないはずだ。
個人的には、適性判断で職や役割を振ってしまうのは、お節介かもしれないが、それもいくつか選択肢があるようにはなっている。
それに、文化的な生き物がこちらに来るとは限らないしね。
「私は十分だと思うんですよね。例えば、漂流して着いた先で、現地の人に仕事や衣食住を提供されるって、とても助かるんじゃないでしょうかね?」
「俺も迷う時、悩む時はある。が、やはり今暮らしている人間が優先だと、俺は自分に言い聞かせているよ」
「二人とも、ありがとうございます。少し、楽になりました」
「すまんな、苦労を掛ける……俺も尽力する、何でも言ってくれ」
「私、結構ワガママですけど、大丈夫ですか?」
「お嬢様だからな、覚悟はしているよ」
「それは心強い」
最強と最速が揃ったのなら、向かうところ敵無しだろうなー。
「レミリア、政治的な事を言えば、俺よりもお前の方が出来る事が多いだろう? 手伝ってやってくれ」
「えええ、私ですか!? いや、もちろん、協力しますけれど!」
「戦力の面でも、期待してるのよ? 最速の係長に、最硬のレミちゃん……一国くらいなら相手できるんじゃないかしら?」
「確かにな、レミリアの防御力と汎用性は頼りになるな」
上司二人から褒められて、ついつい顔が緩んでしまう。
『談笑中申し訳ないね、ミサイルを抑えたって、公安からの連絡だ。一先ず、情報の本数分は処理出来たんじゃないかな?』
「係長、終わったみたいです。まだ警戒はしないといけませんが、敵の攻勢も弱まっていますしね」
「そうか、もう少しゆっくりでも良かったな」
ゆっくりって言っても、めちゃくちゃ早いんだろうなぁ……。いや、速いが正解か?