タワー攻防戦11
「お見事。苦戦すらしないなんてねぇ、成長したものね」
どういう意図があったのかは分からないけど、満足そうな顔から察するに、及第点は越えたようだ。
「ありがとうございます」
「これで転移は終わりになるかしらねぇ?」
辺りは魔界の公務員たちが慌ただしく行動しているようだ。
あちこちから日常とかけ離れた爆音や機械音、破裂音などが聞こえてくる。
「他の手段が本命かもしれないですしね」
「もしそうなら、随分と手間をかけること……」
「ぶっちゃけ、テロ組織にしても規模が大きすぎますよね」
「国が後ろに居たとしても異常よ」
「私はそこいら辺の事よく分からないのですが、警察、公安、軍まで出動してこんな感じですもんね」
「実際よく防いでいると思うけどね。そこかしこに魔力の発動しているのを見ると」
「ここまでくると、戦争じみていませんか?」
「ま、戦争するのが目的だからね、テロって」
「また乱暴な認識で……私が考える事ではないですが、報復したりとかするなら複雑になりそうですよね」
「魔界が動くとなると、同盟国のウチも考えないといけないのよねぇ。お父様だけでどうにかならないかしら」
「あー……マリさん、今回関わってしまいましたからね、割とガッツリ。なので、駆り出される可能性は高そうです」
「あ、そういえば、戦闘中、『先輩』って言ったでしょ?」
自分では意識していなかったが、冷静であろうと思うと仕事のスイッチが入っていたようだ。
「つい、癖で……仕事病の一種ですかね」
「ま、仕事にしようとは私も思っていたけどね。良さそうな連中は皆、皇国で引き取りましょう」
「という事は、一度、この人たちは回収しますか? といっても、何処に運びましょうか」
「このまま皇国の移民局に運んでしまいましょう。さっき係長に連絡したから、入国手続きに手間取らなければ、お昼ご飯くらいには着くんじゃないかしら? お昼ご飯の後に着いてくれるとゆっくり出来るのだけれど」
「おっと、早く着きすぎてしまったか?」
「はっや!」
つい声が漏れる。
涼しい顔で、サイジ係長がいつの間にか横に立っていた。
一体いつ連絡をしたのか分からないが、早すぎる。
航空機で行く距離なんだよ、魔界って?
「流石に早いですね、身一つですか?」
マリさんに驚いた表情は見られない。
「いや、空港までは移民局の一番速い機で来た。魔界のテロと言っていたから、なるべく早く現着した方が良いと思ってな」
「お気遣いありがとうございます。一番速いものとなると、あまり大きいサイズの物ではありませんよね」
「そうだな、五人……いや、何せテロ組織だからな、四人までにしておきたいな」
「四人ですね、分かりました。レミちゃん?」
「あ、はい!」
呆気に取られていた為、声をかけられ、少し驚く。
「目ぼしいのは居た?」
「目ぼしいとなると……今の転移能力者と、私に差し向けられた男でしょうか」
「どんな能力者?」
「マリさんと同じような能力でした」
「あら、珍しいわね」
「とはいえ、基本スペックは遥かに劣りましたが」
「ほう、ミストラルと同じ能力か、技術局は研究のし甲斐があるだろうな」
「ただ、強力な能力を持っているテロリストを、国に入れて良いのかという疑問もあります」
「移民契約がもしかしたら通じないかもしれないものね」
紙っぺら一枚で簡略化されているが、指紋認証やデータ転送だったりのハイテク、精霊や土地神を宿す高等魔法が使われている。
「そこが不安要素なんですよねー」
「とはいえ、だ。レミリアでも確保できるレベルというのなら、さして問題はあるまい」
「ちょっと複雑ですが、そういう事でしたら、まぁ……」
「にしても、どんな口車に乗ったのか分からんが、異世界からの移民がテロに利用されるというのは、可哀想に思わんでもないな」
「係長もそう思う事あるんですね?」
少し、驚いたような表情でマリさんは訊ねる。
「これが、俺達の世界での戦闘であれば、こんな穏やかな結果になってはいなかっただろう? 所詮は捨て駒にしか思われていないのだろう」
そう言う係長の横顔は、悲哀と一緒に怒りを孕んでいたように見えた。