タワー攻防戦10
パッ、といった擬音が似合いそうな感じで、ショートカットの女性が現れる。
なるほど、自身の転移はタイムラグや予兆が少ないのか。
と分析しながら、とりあえず、光線銃を撃ち放った。
転移の能力でそれを私に向けて返してくるが、その場に留まらなかったおかげで回避出来た。
「レミちゃん、任せていい?」
「当然です!」
瞬殺出来るだろうけど、あえて私に任せるという事は、何かしらの考えがあっての事だろう。
その意図は分からないけど、期待に応えてみせようじゃないか。
遠距離攻撃が先ほどのように返されては手間だ。
アンタッチャブルか徒手空拳で挑むべきだろう。
飛び込んでの蹴りを放つ―――フリをした。
やはり、攻撃を転移させてのカウンターを狙っていたのか、転移陣が展開されている。
思惑が上手くいかなかったのを察すると、今度は女の方が拳を転移陣に突っ込む。
私の視界には転移陣が見えていないとなると、どうせ背後だろうと決めてかかって、横にステップする。
まあ、今の私の動体視力なら大丈夫だけど。
「今のを避けるか~」
余裕しゃくしゃくといって様子で、転移使いの女は語り掛ける。
その表情はとても楽しげであった。
「まぁ、初めてではありませんので」
「本当にこの世界の人たちって、こういうチートに慣れてて面白くないね」
「チートに慣れるってのも、言葉としてはおかしな話ですけどね。チートが普通なら、それはもはやチートじゃないです」
「違いないね」
「それに、面白くないのは、チート以外に何も持ってないからじゃないですかね?」
「キツイ事言うねぇ……」
「嘘は嫌いなんで」
「つっても、私の能力も、あの規格外のお嬢様以外には通じそうで良かった良かった」
「―――――――――はぁ?」
「反射も出来る、私の攻撃を避けている、これを通じていると言わずに何と言うの?」
「ああ、そういう事ですか。すみません、ちょっと様子見する癖がありまして、私達、その仕事柄……そうそう、その口ぶりですと、やはり異世界からの移民ですか?」
「……今まで手を抜いていたって事?」
「有り体に言えば。で、移民ですか?」
「……ええ」
「えーっと、今さらですが、穏便に移民申請する気はあります?」
「本当に今さらねっ!」
腰元から抜き出した拳銃を展開した転移陣に発砲した。
なるほど、銃を持っていましたか。
何処から出てくるか分からないが、まったく問題は無い。
アンタッチャブルの障壁が、その銃弾を逸らした。
遠距離攻撃は通じない事は、先ほど見せたというのに、学習能力の無い人だ。
「では、こちらの番ですね、どうぞ、避けれるものなら避けてください」
「へ?」
女の体が爆ぜるように吹っ飛ぶ。
何の事はない。
障壁を広げただけである。
「ほら、続けていきますよ」
立て続けに不可視の壁を彼女にぶつけていく。
ピンボールさながらに跳ねる体。
意識を失わないところからするに、なかなかのタフネスだ。
「くっそ……!」
苦し紛れに転移する女。
まあ、そうやって逃げるでしょうな。
でも残念。
「そこは通行止めです」
現れた先にアンタッチャブルを展開し、思いきり閉じる。
私の力も、チート能力って言われるのだろうか? と思いながら、倒れていく女の体を眺めた。