タワー攻防戦9
数多の転移陣が私達の眼前に広がる。
魔界の捜査機関、軍も慌ただしく動いていた。
転移陣をかき消してくれているが、いかんせん量が量である。
私達も―――いや、マリさんはあまり乗り気ではないので、ほぼ一人で潰していくが、とても間に合わない。
そうこうしているうちに、わらわらと人間が現れてきた。
先ほどもそうだったが、本命がいつ出てくるのかを気にかけないといけないのはストレスだ。
「これだけの規模とは……一人でやっているのなら、相当な使い手ですね」
独り言をつい呟いた。
結界内に居るであろう能力者への賞賛の声でもある。
そして、直接なのか、何かしらの手段を使ってか私達を見ていた。
また、原点に立ち返り、タワーの破壊であるのなら、こいつらを逃す訳にもいかない。
同じように、マリさんを狙っているかもしれないけれど。
「先輩っ! お願いします!」
面倒くさい。
ただただ、その感情が私を支配していた。
殺さないように手加減しながら、相手の出方を伺うとか、マリさんでもなければ楽しめないだろう。
故に、先ほど拾った剣をマリさんに投げ渡した。
「あ、もう終わらせちゃう?」
親指を立てて、返答する。
それを確認すると、抜剣した刀身を指で撫でるマリさん。
「トプン」
と静かな水面に物が落ちるような音が響いた。
魔力を剣に付与したのだろう。
「これで頭を冷やすといいわ」
マリさんが突きを連続で繰り出すと、私の体が二つは入りそうな巨大な水球が射出される。
高速で飛んでいる為、楕円形で飛んで行ったそれは、転移陣をかき消していった。
明らかに現れるスピードよりも消える方が早い。
水を使ったのも優しさだろう。
「アンタッチャブル!」
私も見ているだけでなく、転移陣を不可視の障壁で蓋したり、挟み潰したりとお手伝いをしていく。
転移を仕掛けている奴は本当に何処に行ったんだろうか?
『見つけたよ、転移の能力者!』
アレックスからの通信が入った。
よし、仕留めて終わりにしてしまえ。
本当に面倒くさくなってきたし。
『ちなみに、そっちに居るっぽい』
「は?」
『いやね、直接見つけたってわけでもないんだよ。インビジブルをちょっとお散歩させてさ、二人の近くに行ったら、居たって感じみたい。座標いる?』
「もちろん。というか、アレックスは何を?」
『絶賛戦闘中だよ。あ、送ったよー』
つまり、特性無しで戦っているって事か。
アレックスも人外じみているなー。
早速座標を確認すると、ゴミ箱が見える。
……え、ちょっと予想外過ぎるんだけど。
マリさんの戦闘範囲を知らないのか? ちょっと運が悪ければ―――いや、むしろ、今まで被害が無かったのは運が良い。
とりあえず、アンタッチャブルでゴミ箱一体を潰してみる。