タワー攻防戦6
出来ると思った事が出来る。
それはまさしくマリさんの能力だ。
自分自身への事実改変とも言える、強力な力。
初代勇者も同じ能力だったと聞く。
しかし、そんな力を持つ人間が、まさか私と相対しようとは。
「そんな便利な能力を持っているなら、何で本命を狙わないんですか?」
「簡単な話だ。相性ってモンがあるだろう?」
「そうですか……」
「ま、ちゃちゃっと片付けて、本命をやらせてもらうさ!」
飛び込みながらの斬撃は、やはり私の障壁を切り裂いてきた。
回避に意識を向けていた為、強化された身体能力と動体視力も手伝って、容易に回避は出来る。
そのまま光線銃を撃ち放つが、射線を読まれたのだろう、当たらずに背後の街灯が弾け飛んだ。
「おっかないもん使うなぁ……」
「か弱い乙女ですので、これくらいは護身の範疇でしょう?」
「過剰防衛って言葉を知っているか?」
「殺そうとしている人間から聞くとは思いませんでしたよ」
「けどな、もう【分かった】からな。それはもう通じない」
「……さっきの口ぶりだと、貴方が首謀者ではないですよね?」
「ま、計画はそうだな」
「となると、協力者って感じですか。唆されたのか、唆したのかは知りませんが」
「まるで騙し騙されみたいな言い方だな、そんな人聞きの悪い事言わないでくれよ」
「もう一つ聞きたいんですが、貴方個人の目的についてなんですが、良いですか? テロが目的って訳ではないですよね?」
「目的、ねぇ……。いや、テロも目的の一つだよ。俺は転移者でな、まぁ、二回転移してんだけど、前の世界じゃ勇者みたいなモンだった、神の御使いだ何だのと崇拝もされもしたしな。けど、この世界の連中は、まるでそうじゃねぇ、いたって【普通】の扱いで、しかも俺と同じような能力の持ち主が英雄みたいに崇められてるじゃねぇか」
「つまり、同じような能力を持っている自分が、優遇されないとおかしい、と?」
「身も蓋もない言い方するとな」
「そうですか」
まったく……マリさんと同じ能力、か。
アンタッチャブルの障壁を切り裂き、今度は光線銃も通じないとまで言い張った。
人の急所を狙う事―――命を奪う事にも抵抗が無いようだし、きっと魔法や魔術も習得している事だろう。
「命が惜しいっていうのなら、逃げたって構わねぇよ」
「………………」
「そうかい、良い女なのに勿体ないが……終わりにしよう」
男は大きく踏み込み、私に刺突を繰り出してくる。
障壁をどの地点で展開しようとも、貫き、私を攻撃できると踏んでの事だろう。
そして、避けようとする私を捉える自信の表れでもある。
「―――――――――同感です」
しかし、足りない。
いくら私の障壁を破ろうと、どれだけの名刀名剣だろうと、私の攻撃が通じなかろうと。
基礎能力も足りなければ、能力の想像力も、決意も覚悟も気迫も足りない。
「ズン」
と、何とも言えない鈍い音が響いた。
男が突きの腕を伸ばすよりも早く、私の正拳突きが鳩尾に突き刺さる。
そのまま、肘打ち、鉤突き、膝蹴り、目突き、最後にアンタッチャブルの力を乗せた前蹴りで吹っ飛ばした。
「基礎からやり直してくださいね」