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こちら異世界移民局!~転生・転移チートを許さない世界の物語〜  作者: ひろほ
第二章 意外とガテン系。
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現場仕事5

「ぜーはーぜーはー……ゴホッ!」


いかに体力があろうとも、全力疾走は疲れるものである。

最後の柱を地面に突き刺しながら、杖のようにもたれかかる。


「柱を……立て終え……ました」

「ご苦労さま。こっちは機材の準備も終わっている。合流してくれ」

「わ……かり、まし、たぁ……」


未だに荒い呼吸と火照る体で徒歩はちょっと嫌だな。


「アンタッチャブル、オドの取り込み量はどんな感じ?」

『満タンです』

「え? 満タン? さっきの魔法行使の時のは?」

『先ほどのは使っておりません』

「あー、なーんか疲れると思ったら、そういうことか、そうですか……って、なんでサポートしないのよ!」

『オーダーにありませんでした』

「~~~~~~~っもう! とにかく飛翔魔法を使うわよ! もちろんオドでね!」

『オドによる魔法行使を実行します。詠唱をどうぞ』

「少しは悪びれなさいよ、はぁ……。――――――浮かべ、駆けろ」


乱暴な言い方をすれば、たいていの魔法に大仰な呪文は必要が無い。

やりたいことが出来るようになるのが魔法。

魔力を十分に持ちうるなら、その思いを魔力を込めて正しい方向へ持っていくだけで、魔法は出来る。

自分の限界ギリギリの魔法であれば、精霊であったり地母神だったりへの祝詞をあげたり、私のアンタッチャブルのような守護霊に呼び掛けたりと、サポートを依頼する必要があるけども。

それが俗に言う呪文だ。

ちなみに魔法陣はその呪文を直接書き込んだりしたもの。

これに魔力を流し込むだけで、魔法の行使が可能となる。


「ポイントまで運んじゃってねー」

『かしこまりました』


眠くなるような気だるい疲れをまといながら、アンタッチャブルに任せて遊泳する。

スーツのおかげで姿勢制御も楽々だ。


『Piーーーー!―――魔力の奔流の増大を確認』

「!?」


ウトウトしていた頭が一気に冴える。


「ポイントに急行!」

『陸路をお勧めします』

「なら早く降ろして!」


フッと体が自由落下。

両足を地面にめり込ませながら着地し、即座に駆け出す。


「走れ!」

『オドによるブーストを開始。ショックアブソーバー、ガススプリング起動』


自身の魔力、マナによる足の速くなる魔法にオドでさらに魔力を加算する。

衝撃を吸収する機構、反対に反発させる機構も動いたみたいだ。


『さらに増大。空間湾曲限界値まで、もう間もなくと思われます』


もう? 増え始めてからほんの僅かな時間じゃない。

ただ小規模な転移であることの証拠だから、本来なら嬉しいことなんだけど。

今じゃないでしょ!


「おおおおおおおりゃあああああ!」


最後の丘を走り幅跳びよろしく飛び越える。

ズザーっと着地をして、現場に到着するって、カッコイイよね。


『スポイラー作動、空力ブレーキ』


着地寸前に、強化スーツの一部がブラウスやパンツの隙間から広がり、勢いがなくなる。

予想、いや、理想に反して、フワっと着地することになってしまった。

くそ、アンタッチャブルめ……。

心の中で何度目かの悪態をつく。


「着いたか、もう降りてくるぞ」

「はぁはぁ、はー……い」

『体の冷却を始めます』


髪とブラウスの襟を軽く整え、ジャケットのボタンを締める。

さてさて、どんな人がくるのだろうか……。

この瞬間に立ち会うのは、やはり緊張する。

係長や先輩もそうなのだろうか?


「む、来たか」


歪んでいた空間が遂に開き、中から人が出てくる。いや、落ちてくる。

お、人か、良かった良かった。

広げていたクッションにドサッと落ちるのを見届けると、私たちは近くに寄っていく。


「えー、聞こえていますかー? おカラダに支障はないですかー?」


拡声器を使って、呼び掛けてみる。

が、応答がない。


「クッションに埋もれてしまって、話せないとかですかね?」

「ありうるかもしれないな。特別強力な魔力を感じるわけでもない。接近するぞ」


様々な器具の入ったバッグを肩にかけ、周りを警戒しつつ歩いて距離を詰める。

と同時に計器を近づけながら、様々な要素を出す。


「おかしいな、金属反応もない。魔力反応が無いならサイボーグなどだと思ったが、どういうことだ。なにかしらの人造人間の線もあるが、どれにしても魔力奔流が説明つかない」

「サーモスコープ起動します」

「任せた」

「んー、ちゃんと熱は持っているので、生き物ですね」

「なら、何でもない一般人がこっちに来てしまった、ということかもしれないな」


たまーに、なんの力も持たない人間がこっちに来たりすることがある。

大概ひと月もすれば、この世界で慣れてしまう。

さて、そんな話をしながらも、問題なく到着できた。

しかし、その時に悲劇は起こった。


「それなら安心なのですけどね……きゃあ!」

「!? どうした!」


私の眼前には、半裸に動物の皮をまとった男性が居たのだった。

気絶しているのか、目を閉じている。

そして、足を広げている……。


「ああ、あ、あ、あ、そのー、なんというか……アレが、丸見えで」

「む、これはどうなんだ。セクハラに触れるのか?」

『抵触します。ただ、この場合、被告はこの男性ですのでご安心を』

「そうか、ありがとうアンタッチャブル。なら、このまま転移者を確保する」


なんでそんな冷静なの二人?とも……。

アレを見るって、そんなに普通にあることなの?


「とりあえず、担架が必要か。新米、組み立てを手伝ってくれ」

「……あ、はぁ……」


衝撃が強すぎて生返事になってしまった。

必死に平静を取り戻そうとしながら、携帯用担架の係長とは反対側に膝をつき、組み立てを始める。

まぁ、その時には既に係長側は終わっているようだったけど。なんでも早いなこの人。


「よし、こっちは終わった。少し本部と通信してくる」

「あ、はい」


脳裏にアレがこびりついてしまい、忘れよう忘れようとすればするほど、アレが浮かびあがる。

あーもう、作業に集中しなきゃ!


「新米!」


大きな声で私を呼ぶ声。

一体なんだろうと思うと、背中に衝撃が走る。

吹っ飛ばされながら、態勢を立て直し振り向くと、さっきの半裸男。

そうかそうか、起きたのか。起きちゃったのか。

で、起き抜けに、馬と追突したような威力の突き飛ばしをかましたのか。

―――まぁ、問題ない攻撃力だね。


「……上等」


半裸男はチラッと係長を見た途端、おびえた表情になり逃走しようとする。

動こうとする係長を手で制し、瞬時に正面に回り込む。

驚いた表情を浮かべるが、私の顔を見てホッとしたようだ。

「なんだ女の方か」みたいなとこだろう。

叫び声を上げながら飛びかかってくる半裸男。

女だから押し倒せるとでも思った?


「“触るな”変態!」


粘度の高い液体にものを投げ込んだような鈍い音が響く。

ゆっくりと半裸男の体が崩れ落ちた。


「……確保終了です」

「久しぶりに見たな、アンタッチャブルの力。まぁ、ちとやり過ぎかもしれないが。殺っちゃってはないんだろ?」

『脈、呼吸、ともに確認できます。物凄い量の魔力が送り込まれてきましたので、周囲に散らしておきました』

「おー、運が良かったなコイツ」

「フー…フー……!」

「そろそろ落ち着け新米」


あー、もう、感情的になってしまった。

私の特性は、守護霊の名前のとおり「不可侵」の能力。

空気圧と魔法障壁、重力の三つの力をベースに、その日の気分で何かしらの属性が加え、侵入不可で不可視の壁を作ること。

その私だけの魔法は当然防御に向いている。

しかし、それを私は今回攻撃に使った。

不可視の壁を分厚く展開し、対象の体を包みこむだけ。

それだけで、いきなり全身をプレス機に挟まれたようなもの。


うん……自分で言ってて、よくこの人死ななかったなぁ……

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