ようこそ異世界へ!
―――目を開ける。
見覚えのない天井。照明がまぶしい。
あれ? 俺は一体どうしたんだっけ? ここはどこだ?
だって俺、車に――――――
「なーんて思っているところ申し訳ありません」
と私はベッドに寝ている青年に声をかける。
青年はこちらに向きながらビックリした表情を浮かべる。
「いかがです? お名前は覚えてます? それとも何一つ思い出せませんか? まぁとにかく現状だけ簡潔に申し上げますね。あなたは転生なさいました」
こちらも仕事なので、パパっと終わらせたい。
「あ……はい。え、えーと、覚えています。全部」
呆気にとられながらもちゃんと答えてくれる。
良し、意識の混濁や言語や人格の障害は今のところ無し。
「分かりました。では、あなたのお名前は?」
「田中宗助です」
「タナカソウスケ……っと。えーと、このタイプの名前は……ああ、日本というところからですね。ちなみにココに来る前に、神様みたいなのに会ったりしました? 女性でも男性でも妖精っぽいやつでもいいので」
書類にタナカソウスケと名前を書き込みながら、次の質問を飛ばす。
「あ、女神に会いました。えーと名前がレナスですね」
机の上の女神図鑑を手繰り寄せ、レ行を探し始める。
ずっしりと重いので、開くだけでも億劫になる代物だ。
「ちょっと待ってくださいねー。女神……レ、レーレー、レナ、レナス……あ、有った!」
【レナス】
主に日本での活動を行う女神。不運に巻き込まれた英雄タイプの人間を転生させる傾向がある。
英雄……ねぇ? 青年の風貌からはそうは見えないんだよなぁ。
「生前、何かしら特技や実績などはありますか?」
「特技……。サッカー……って言っても分からないよなぁ、どう伝えたら」
「あ、分かりますよ。ボール蹴りですよね」
「え?」
目を真ん丸に剥いて驚いている。はいはい、ビックリですよね。
「で、それで何か凄いことしました?」
呆気に取られているが、仕事なんで。あなたのペースに合わせてられません。
「あ、あの、その優勝しました。あと、MVPに」
「えむぶいぴー?」
聞きなれない単語は即座に潰すに限る。
それが後々に影響するかもしれないからだ。
「あ、これは分からないんですね」
この言い方にちょっとカチンと来る。が、仕事だ、抑えろ。
「はい、どういったものですか?」
「何て言ったらいいですかね。一番良い選手ってことですね」
「ふむふむ、優勝の立役者、と。なら日本では人気だったことでしょうね」
英雄扱いの理由が分かった。
「あ、申し遅れました」
そういえば、自己紹介をしていなかった。
「ワタクシ、レミリア・エイプリルと申します―――ようこそ異世界へ!」