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今日はプリメラさまの給仕についてます。
最近リア充生活してるなあと実感しますよ……うふふ。いえ、顔には出しませんけど。
園遊会は大変だったしその後もまあ忙しいですけど、生活内容自体はものすごく充実してると思いませんか?!
さて、先日あったエーレンさんの話、黙っている方が不自然だけど……さて、どうやって話すのが一番不自然じゃないのか。王弟殿下と王太后さまに相談するのは決定事項として統括侍女さまにも言わないとアレだよねえ……。外宮筆頭にも言わないとダメかな。
でもそう考えると広めたらアカーンって自分でも言ったくせに随分多くないか?
という考えに至るワケですよ。
とはいえ、アルダールには近衛騎士隊長さまに話してもらうことになっているし、陛下の信望篤いバウム伯爵さまにもお話ししてもらうことになっている以上私が足踏みしていたら変な勘繰りをされちゃいかねないよね!!
そういうのは本当に面倒にしかならないと思うので、ちゃっちゃか片付けたいです。
やっぱりここは統括侍女さまにご報告して、あちらから外宮筆頭に伝えてもらうのが一番かな。どの情報を渡すかは統括侍女さまが決めてくださるでしょう。
決して他力本願ではありませんよ。
それと、タルト・タタンはアルダールにも好評でした。
プリメラさまは大変お気に召したとのことでまた近いうちに作ることになりましたよ! もうね、天使の笑顔で「あれね! すごくね! 美味しかったの!!」って頬を染めて言われたら作っちゃうでしょう。そりゃもう全力で作りますよ。林檎農園ひとつ買い占めたい勢いで。
いえ、そんな財力も管理能力もないですしそこまでたくさんのタルト・タタンを求められてないことはきちんとわかってます、大丈夫。私、冷静。
生誕祭の後にディーン・デインさまをお迎えしてのお茶会を開くからその時にも出して欲しいと仰っていただけましたよ。腕によりをかけて作りますよ!!
はあ……うちのプリメラさま可愛い……可愛すぎるわ……癒されるよ。
最近はちょっと寒くなってきたから今はひざ掛けなんかも使っちゃってそのお姿がまた可愛いよねー、チョコンってしてる感じ!
でも冗談でなく、風邪をひかないように気をつけないとね。可愛いプリメラさまのくしゃみは勿論可愛いけど、元気な姿が一番です。
これから来る生誕祭も大事な行事だけれど、それよりも大切なお兄さまの誕生日をお祝いしたいという可愛らしい願いを風邪なんかで邪魔されてたまりますか!!
というわけで、最近はジンジャーティーとかが増えてきました。あれはあったまるよねー。
「そういえばユリア、おばあさまがアクセサリーの件でプリメラに来て欲しいんですって。今日の午後伺うからそのつもりでいてね」
「かしこまりました、プリメラさま」
「楽しみだなあ……どんなアクセサリーなのかしら! ね、ユリア!」
「はい。楽しみでございますね」
生誕祭は『王太子殿下』の誕生日を祝う式典ですから王族は皆さま伝統的な礼装に身を包むのが慣例です。当然、プリメラさまも例外ではなくサイズ調整だけでした。
代わりにアクセサリーを毎年新調するものですが、今年は王太后さまが自分が若い時に使っていたものはどうだろうかと仰ってくださったのです。由緒正しいものだから、今のうちにプリメラさまにお譲りになりたいのだとか……。
貴重なお品ですよ!! 王太后さまがお輿入れの際にお持ちになったものも含まれるとか……歴史的価値もきっとすごいと思いますね。
まあ私もこれ幸いと例の件を話したいなーなんて思っているわけですけどね。
まさかと思いますが王太后さま、全部お見通しでプリメラさまを呼ぶついでにお話をするとか……いやいや疑ってかかっちゃいけないよね! そうだったら怖いなァなんて思ってない。思ってないったら!!
……いやうん、まさかと思うけどアルダールとお付き合い始めたのが知られてるとは思うんだけど、私が名前を呼べずにもだもだしてるのを指摘するためとかじゃないよね……?
いや! 気持ちを切り替えよう!!
プリメラさまが生誕祭にお召しになるのはマット感のある生地で作られたシンプルなオフホワイトドレスですが、そこに白い毛皮のケープをかけて……天使かな?! 違った、プリンセスでした。
なんてお決まりの感じで私が毎年悶えるほどにそれが似合ってて可愛くて美しくて私の語彙力働いて!! って感じになっているんですけどそのくらい素敵なんですよ。シンプルなのにそれが凄く素敵って言うのはもうね、最高ですよ……?
ちなみに王太子殿下も白いお召し物です。
これには次代を担う王太子並びにその兄弟姉妹は穢れなくこの国と国民に対し誠実に尽くすということを示しているんだそうですよ。なんで兄弟姉妹もかっていうと、まあ言い方悪いですが王太子殿下に万が一のことがあった場合は……っていうスペア思考ですね。
男性優位ではありますが場合によっては女王の擁立だってあり得ますから、この国。
勿論プリメラさまは天才だし可愛いし美しいし国中が夢中になっちゃう女王さまにだってなれるだろうけどね! 残念、プリメラさまはディーン・デインさまと結婚して超可愛い夫婦になる予定ですから!!
私はそんな儀式を使用人の立場としてですが、間近に見る栄誉がありますからそれで十分です。
年々プリメラさまの美しさに磨きがかかってますから、お化粧も何もかも楽しみでなりません。髪型も色々考えないとね!
去年は真珠とエメラルドで作られたサークレットがこれから来る春を感じさせて素敵でしたけど、今年は王太后さまからお譲りいただける品の中から選ぶことになるんでしょうね。最近の流行がサークレットだったけど、王太后さまの頃はティアラが主流だったのかな?
何にせよ楽しみでなりませんね!!
……楽しみでならないんだから、怖いことはとっとと済ませた方がいいってわかってる。
わかってるよ……統括侍女さまのとこに行ってきますよ……。
「プリメラさま、少々統括侍女さまへのご報告がございますのでこれより私は席を外させていただきます。何か御用がある際はセバスチャンをお呼びください」
「ええ、わかったわ。今日はビアンカ先生との授業だけだから大丈夫よ。それにしても園遊会が終わってからの方が慌ただしくなっちゃったね……生誕祭までに城内が落ち着くといいなあ」
「……左様でございますね。今でもまだ少々侍女たちの間では動揺が収まりきっておらず……ご心配をおかけし申し訳ございません」
「いいのよ。あの時は本当に大変だったもの……メイナやスカーレットはもう大丈夫なのよね?」
私の後ろに控えていた二人へと視線を向けたプリメラさまのその気づかわし気な表情に、メイナの方は嬉しそうに、スカーレットの方は何故だか胸を張って「はい!」「当然ですわ!」と同時に答えていた。
そこは「お心遣いありがとうございます」だろうと後で注意しようと誓いました。
いや、まあ……そこまで厳しくする必要はあるのかって問われると難しいところですが、どこに出しても恥ずかしくない侍女として教育せねばなりませんからね、私も筆頭侍女としての立場がありますから。
いつかここを巣立って行ってもどこでも胸を張って行けるようになってもらいたいものですよね。
プリメラさまがいつかお嫁に行かれる時に、この王城に残るのか、或いは戻って婚活するなり他家で働くのか、そういった事が起こるわけですからね。
もしかしたらバウム家への輿入れの際は一緒に……なんてこともあり得るかもしれませんよ。
……まあ、そんな未来の話の前に私が胸を張って統括侍女さまの前でお話をしに行かなくちゃいけないんですけどねー……。
いえ頑張るのよユリア! ここで頑張って味方を増やしておけば危険要素があっても何とかなるだろうし、何もなければただ転生者ヒロインが自衛のために色々してただけなんだなってことに落ち着くんだから。
皆の、プリメラさまの、そして私の平穏な生活の為にも!
「ユリア? どうかしたの?」
「いえ、なにも。それでは行ってまいります。メイナ、スカーレット、後はお願いね」
「はい! 頑張ります!!」
「ワタクシにお任せでしてよ!」
「……二人とも、もう少しお淑やかにね……。セバスチャンさん、よろしくお願いします」
「その二人の事も含め、万事お任せあれ」
厳かに頷いたセバスチャンさんに私も頷き返しましたけど、メイナとスカーレットが嫌そうな顔をしたのを見逃しませんでしたよ。
セバスチャンさんの厳しいレッスン再び! ですかね……。