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 アルダールと恋人関係になって数日。

 ええ、まあ、名前で呼ぶというミッションは未だに成功せずです! 試される私のチキンハート!

 もう少し時間と心に余裕をください……。


 さて、それはともかくとして、色々落ち着いたところで元の生活をしつつ情報をまとめていかなくては。園遊会が終わったからって気を抜いていられるほど余裕はありませんからね。


 【ゲーム】のオープニングにある『辺境で巨大モンスターが出現、ヒロインの父親である冒険者が退治する』イベントが発生、完了した――という風に考えていいと思うんだよね、現状。

 園遊会の時に聞こえた“ミュリエッタ”という女性の名前。その女性が巨大モンスターの出現を示唆していた可能性があることはエーレンさんの発言からだから、ここは要確認かな。

 そしてミュリエッタ、はあの【ゲーム】のヒロインのデフォルト名である事が重要。


 私は『ゲーム設定上の主人公』をヒロインと呼んできた。だって、その“ミュリエッタ”が確実にヒロインだと証明はできない。この世界では本当にごく普通の、よくある名前のひとつだもの。

 エーレンさんと直接話をしないとわからないけれど、その女性がヒロインなのかどうかというのは大きな問題な気がする。


 ヒロインの能力に予知なんてゲームにはなかった。確かに常人より優れた素質を持っている設定だけど治癒系の能力以外の特殊能力はなかったはずだ。潜在的に強力な治癒能力を持っている、という点では特殊能力に該当するっちゃするけどね。予知とは関係ないものね……。

 でもだとすれば、予知能力者なら『ヒロイン』ではないということになる。そもそも予知能力者とか聞いたことがないから予知と仮定するならもっと話題になっていても良いはずなんだけど聞いたことがないのも気になるところ。


 けれど、その女性が私と同じだったら? この一連の出来事を知っていた(・・・・・)なら。

 つまり転生、或いは転移。そんなラノベ展開お約束とは思わなくもないけれど、すでに私が転生して記憶持ちでやってたゲームの世界に来てるという辺りがお約束展開だから二度あることは三度ある!

 まあ理屈になってないけど、可能性としてね。

 もしそれなら話が通るんだよね。出現を予見してたって言われてもゲームの時期を知ってればわかってる話なんだから。


 今の雰囲気だと陛下がその冒険者を王城に招いて爵位授与という流れが来るんだろうと思う。少なくとも準男爵位とかじゃなくて男爵位を与えてもいいと思えるくらい大きな問題だったことは確かだ。城内はその話題でもちきりだもの。

 爵位を与えられたばかりの腕利き冒険者となれば囲い込みたい高位貴族はそれなりにいるってことだからね。その冒険者の人柄次第では騎士団も獲得に動くかもしれない。

 そして真偽はともあれ、その冒険者には娘がいる。これはやっぱりゲーム展開のスタート時期と符合すると思うから……つまり、私が心配するべきなのはプリメラさまの安寧。


 今のプリメラさまは悪役令嬢っぽさはまるでなくて意地悪でもなければデブってもないし可憐で可愛くて美人で気遣いが出来てもう天使! そう天使としか言いようがない!! 大天使ですよ。

 じゃなくて。いや天使なのは事実だけど。

 その『ミュリエッタ』がヒロインだったとして、ゲーム展開になるとは限らないのが現実。

 だけど彼女が転生者でゲーム展開を望んだらどうなるのか、という不安要素が出てくるってことよね。

 主人公補正とかやっぱり存在するのかな? 私はモブだからよくわかりません……。


 いやいや、転生者だからって「ゲーム通りに人生を歩もう!」なんて思うかはわかりませんね。

 だって私も記憶が戻ってからここまで生活して思ったもの。ここ、ゲームじゃなくて現実だからね! リアルな生活感溢れる日々ですよ!!

 でもそれは私がヒロインではない、完全なるモブという存在だからで……自分がヒロインという立場で転生していたらどう思っていたんだろう? あのゲームストーリーが人生のレールだと思っちゃうのかもしれない。

 ううん……いや待て、先ずはミュリエッタという女の子が主人公かどうかが問題で、転生者かどうかはその次の問題で、いや転生者だとしたら主人公決定じゃない?

 うん? あれ? 鶏が先なの、卵が先なの??


「ユリア、ねえ、さっきから難しい顔してどうしたの?」


「は、いえ。先日の園遊会の件を考えておりました」


「……そうね、まさかあんなに問題が根深いだなんて思わなかった」


 咄嗟に誤魔化したけど、プリメラさまは憂い顔も可愛いなあ……じゃなかった。本当に違う。

 まあ、問題が根深かったのも確かなんだよね。


 なんとあの園遊会直後、大公妃殿下が体調を崩されてそれが毒だったってんですよ。恐ろしい!

 あ、一命は取り留められたそうです。陛下が根回ししておいた人員が速やかに対処したとかなんとか……宮廷の闇を垣間見た気がしますね。いえ、聞いただけですけど。


 これによりバルムンク公爵と大公妃殿下の義兄妹に不始末を全部おっかぶせて亡き者にしよう、そんでもって脳筋息子を現場に立ち会わせて事故でしたーって証言させて終わらせようというこれまた杜撰な計画だったようで……。ギルデロック・ジュードさまが看破して正義節を振るうという可能性? 脳筋だからわかんないだろう、だそうです。

 うーん。なんて色んな意味で酷い計画だ。流石の脳筋だからってそこまで単純……いや、わからないな……。バルムンク夫人も呑んだくれるばっかりで当てにならないしな……。

 あの女性、城内で軟禁生活ですけど毎日ワインを大量に呑んで楽しそうにお過ごしだとか。あらやだ怖い。別の意味でぽっくりとかないよね?


 それと、問題のライゼム辺境伯と側近は潔白。エーレンさんの元カレというのがシャグランの貴族と通じていた、というなんというかとんでもない感じでした。そちらについても余罪がありそうなので、追及されるんだとか。


 でもその辺りは辺境の闇があるとかなんとかで詳しくは聞けておりませんが……とりあえず大公妃殿下事件の発端となった私にはもう火の粉は飛んでくる気配はないので安心して良いと宰相閣下が保証してくださいました。


「大公妃殿下のお加減も心配ね。その内、お見舞いに行かせていただこうかしら」


「はい。プリメラさまはお優しいですね」


「ディーン・デインさまともあの後ばたばたしてきちんとご挨拶できなかったのよね」


「……あの、プリメラさま」


 む、これはチャンスか!

 言わねば言わねばと思っていて数日経っちゃった相変わらずチキンの私ですが、これは良いタイミングなのでは?!


「どうかしたの?」


「はい、個人的なことでございますが、お耳に入れておきたいことが」


「……どうしたの?」


「実は、その……近衛騎士のアルダール・サウルさまなのですが」


「ディーン・デインさまのお兄さま?」


「はい。お心をいただきまして、お付き合いをさせていただくこととなりました」


「まあ!」


 女主人の婚約者の身内とそういう関係になるというのはまあ、ないわけじゃないから罪に問われることもないけどね。一応知っておいていただかないとプリメラさまのお立場上ね。

 かあさまなんて呼ばれてるからなんとなく背徳感があるとかそういうわけでもなくてね!!


 照れくさいよねえ。

 ああでも、プリメラさまからしたら私の恋人を見定めるーとか前仰っていましたからお知らせしなかったらきっと怒っちゃうかもしれません。

 ぷんすこするプリメラさまもきっと可愛らしいんでしょうけれど!


「まあ! それはとても良い話だわ!!」


「は、はい……」


「ユリアが降嫁してもついてきてくれると聞いてとても嬉しかったけど、そのまま婚期を逃してしまったらどうしようと思っていたの。わたしがユリアの人生をだめにしちゃうんじゃないかって……」


「そのようなこと! 前も申し上げましたけれど、私はプリメラさまにお仕え出来て幸せなのですからそのようにお考えにならないでください」


「うふふ、ありがとう。あっ、でも何か嫌なことがあったらいつでも相談してね! わたしはいつだってユリアの味方なんだから。ディーン・デインさまのお兄さまだからって遠慮なんかせず文句を言ってあげるんだから!」


 にっこり笑ったプリメラさまは我が事のように喜んでくださったみたいで私も照れるけれど、嬉しい。

 あ、でも婚期とか言われましたけどそこまで話は進んでないっていうか、手も繋いでないっていうか、超清い交際です。お恥ずかしい限りですが。

 しかし相談していいよってプリメラさまったら。

 あれかな? コイバナしたいお年頃なのかな? だとしたら可愛すぎるよね!!


 婚期か……どうなんだろう。アルダールは、そういうことを考えたりするんだろうか?

 私としてはまだそんな未来が見えないっていうか、今のところ『恋人』ってだけでいっぱいいっぱいなんだけど……世の中の恋人とかはよくこんなドキドキに耐えられるものです。いえ、嫌な感じはまったくしませんけど。にやけるっていうか、顔が赤くなるっていうか、恥ずかしい!


 でも勿論そんな状況でも顔には出しませんよ!!

 私はデキる侍女でありたいです。仕事をしている私を好いてくださったアルダールにも、お仕えしているプリメラさまにも、恥ずかしい姿をお見せするわけにはいきませんからね!!


「プリメラさま、申し訳ございませんが午後は統括侍女さまに呼ばれておりますので給仕はスカーレットとメイナが私の代わりを務めます。セバスチャンもおりますので大丈夫とは思いますが……」


「わかったわ。きっと園遊会でのユリアの功績を称えてくれるのだと思う。お父さまも褒めていたもの!」


「プリメラさまの侍女として当然のことをしただけでございます」


 国の侍女として、とは正直言えない。

 なんせプリメラさまに恥をかかせられるかーっていう意識で行動してると言っても過言じゃないからね、私……。ちょっとそこは反省してる。後悔は勿論していない!

 

 でも国王陛下が褒めてたってことはボーナス、期待していいのかな?!

 いやいや油断しちゃだめだ、よくやったけどバルムンク公子から求婚された時の態度が悪かったからボーナス差し引きゼロでお咎めなしとかそんなオチかもしれない。

 それだったら泣けるわあ……。

 とはいえ、統括侍女さまが呼んでいるっていうんだから行かないっていう選択肢もないしね。はあ、なんにせよ中間管理職ってのは辛いものですよ。


「そういえばプリメラさまに本日は林檎のケーキを用意させていただきましたので、後程感想をお聞かせくださいね」


「わあ、新作ケーキ? 嬉しい!!」


「お気に召せばよろしいですが」


 ああもう、その笑顔に癒される……!!


 用意したのはタルト・タタン。気に入ってくれたらいいなあ。私の得意ケーキのひとつなんだ。

 ……アルダールにも今度作ってみようかな?

 この間の野苺亭でアップルパイを美味しそうに食べてたし……うぅん、タルト・タタンよりもアップルパイの方が好きなのかなあ。でも得意料理だから食べてもらいたいっていうか……聞いたら彼は優しいから何でも喜んでくれそうだしなあ……。


 はあ、こういう平穏が一番ですよ。

 若干自分の脳内が季節の先取りで春めいている気がしないでもありませんが、それ一色って訳でもないから許していただきたい。

 でもどう考えてもゲーム開始時期がもう直ぐなんだって思うと落ち着きませんね。


 王太子殿下の生誕祭、そこがスタートですもんね……どうなるかわかりませんが、今のプリメラさまなら大丈夫。きっと大丈夫。でもディーン・デインさまや、他の方がどうなるのか。そこを見定めねばなりません。

 確か、生誕祭で父親が叙勲に招かれてその後のパーティから主人公が登場です。

 パーティ会場で改めて陛下が父親に声を掛け、娘である主人公にも優しい言葉を掛けるところからがスタートでその時に王太子殿下とプリメラさまも登場して……という流れだったと記憶しています。


 私は当日、侍女としてプリメラさまの後ろに控える予定です。

 だって私、プリメラさまの侍女だからね!

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