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 アルダール・サウルさまが去ってから、私は大きく深呼吸をした。

 勿論、目立たないようにだよ?!

 あー……うん、あれだよ、あれ。イケメンっぷりに見惚れました。いえ嘘です。全部嘘じゃないけど。


 今日のこの園遊会、が終わったらってちらっと頭をよぎったものだから。

 そうです、今はそれを考えている場合じゃないの。

 筆頭侍女としての役割、ちゃんと果たさないといけません。他の侍女たちも頑張っているんだからここで私が色ボケしててどうするって話なんですよ。しっかりしなさい、私!


「おやユリア殿ではございませんかな」


「これはリジルさま」


「久しぶりだなあ、嬢ちゃん」


「ジェンダさまも、お楽しみいただけておりますか」


「ああ、とても。見事な薔薇じゃあないか。……ところでナシャンダ侯爵さまをお見掛けしなかったかい?」


「あー……先程、薔薇を眺めてから帰られると仰っていました。ジェンダさまによろしくと……」


「ほう、そうかい」


 好々爺の表情のままですが、声がワントーン低くなりましたよ?!

 その横でリジル商会の会頭は意味深に笑ってるし……。やっぱり会頭レベルのお二方は底が知れない感じがして怖い時がありますね。とはいえ、その怖さは今私に向かっていないので問題ないですけど。

 折角ですのでお二方とも少しばかりお話をさせていただきました。シャグラン王国のお話とか興味深かったですね!


 今回同行させているシャグラン王国大臣の奥さまについている侍女、あの侍女は愛人なんだって。愛人同伴の外交って……。しかも奥さんも一緒なのに……奥さんの部下にあたる人なのに……え、公認なの? 爛れた関係なの? いやそこまでは怖くて聞けませんでしたね!

 他にもその息子、つまりアルダール・サウルさまの剣の兄弟弟子は父親である大臣と仲が悪いとか、騎士としてはとても優秀だとか。

 あと、宝石が今年値下がりしそうだからいつでも相談してねとか、セレッセ伯のところの布地がすごい売れ行きで確保が大変だとか……。宝石安く売ってあげるから後でセレッセ伯に口利きしてねってことですね、わかりました。どのくらい影響があるかは保証できませんけど、一応お世話になってますからね、リジル商会とジェンダ商会でも欲しがってた旨をお伝えするくらいはしておきますよ。


 おおまかに区画を分けているとはいえ、立食ですから皆さま自由に動き回られていますね。

 流石に王家の方々はうろついておられません。どこに行っても人だかりです。

 

(うーん、今年は葡萄酒系が人気なのかしら。あまりブランデー系は減っていない気がしますね……。紅茶とジュース系も減っていっているようだし……)


 もう少しワインの比率を高めに給仕してもらうよう指示を出すべきか一度統括侍女さまにお伺いしに行ってみてもいいかもしれません。そう思って振り向いたところで人とぶつかりそうになってしまいました。


「申し訳ございません、お怪我はございませんでしたでしょうか」

「いや、気にするな。こちらも前を見ていなかった非がある」


 すぐさま相手が礼服なことを認めて非礼を詫びれば、存外優しい言葉がかけられました。

 聞いたことがないお声でしたが、怒鳴るような人でなくて一安心ですね! たまに酔っぱらって態度が大きくなる人がいますからね。あれはやっぱり怖いよ、怒鳴られるってさ……。


「うん? 貴様はここの侍女か。すまんが人を探している」


「まあ。どなたでしょうか?」


「近衛騎士アルダール・サウル・フォン・バウムだ」


「……大変失礼ですが、お客さまは」


「オレはギルデロック・ジュード・フォン・バルムンク。シャグラン王国の騎士だ!」


 思いっきりビンゴきた。

 この人か、アルダール・サウルさまの兄弟弟子というのは!


 よく日に焼けた筋骨隆々の、年齢はアルダール・サウルさまと同じくらいかな?

 ちょっと尊大な態度とデカい声が特徴的なこの人がシャグラン王国の大臣の息子ってやつかー、大臣の息子って名乗らなかった辺りが親子関係が良くないって噂を裏付けるよね。いや騎士としてのプライドが高いだけかもしれないけど。

 つか、声デカいし。名前名乗っただけで周囲の人が振り向くってどういうこと……外だからデカい声をわざと出してるの? そうじゃなくてこれがデフォルトなの?

 有名人だから振り向かれたって可能性もあるけど、正直周囲から「びっくりしたー」「何事かと思ったー」とか聞こえたから声のデカさだろうと思う。


「そうだ、他にもいるが……侍女ならば知っているか? ユリア・フォン・ファンディッドという王女宮の筆頭侍女を務めている女のことも探している」


「は」


 なんで私の名前が出たんだよそこで?!

 思わずぎょっとして相手を見上げれば、私の態度を気にするでもなく見下ろしてくる目と思いっきり合ってしまった。

 

「なんだ、どうかしたか」


「い、いえ。お客さまが侍女を気になさることは珍しかったもので」


「そうか。髪は黒、眼鏡をかけている女だと聞いていたが……うん? お前……」


「は、はい。私がお探しのユリア・フォン・ファンディッドでございます。何か粗相をいたしましたでしょうか?」


 いや、初めて会うけどな!

 待てよ……大公妃殿下の件で苦情でも言いに来たのかな。いやいやまさかぁ! 大臣の家にダメージでもあったとかで恨まれる……いやいや、まさかぁ……。


 思わず引き攣ってないか不安になるけどとりあえず真面目な顔をして相手を見れば、向こうはしげしげと私を眺めていた。珍獣ではないですよ?!


「そうか、貴様がユリア・フォン・ファンディッドか!」


「は、はい!」


 吼えるような声に思わず委縮するが、ビビって俯いたりはしません。

 こういう時は背中に変な汗をかきそうですが、ちゃんと相手を見てます! 私は悪いことしてないですからね。……ですよね?


「貴様に会えたら言ってやろうと思っていたことがあるのだ!」


「なんでございましょう」


「よくやった!」


「……は?」


 え? 何言いだしてるのこの人。

 私この人に褒められることとか覚えが無いんですけど。


「あの男の下らぬ企みを潰えさせたきっかけとなったと聞く! シャグランの恥だ。故に、よくやったと褒めてやろう!」


「は、はあ……」


「何か褒美を与えてやりたいところだが」


「あ、いえそういうのは結構です」


「ふむ。……まあいい。それでアルダール・サウルはどこにいる?」


「……。王太后さまの警護についておられるかと。あちらの方角でございます」


 なんだこの一方的な人……。そもそも『あの男』って誰の事だろう。面食らって追いつかないわー。

 悪いけど、相手をするのすごい疲れるタイプだ。会いたくないって言ってたアルダール・サウルさまの気持ち、わかるわー。すごいわかるわー!


 ってことで、申し訳ないですけど私もこれ、お仕事ですので。

 是非ともあちらで対応していただきましょう。アルダール・サウルさま、ごめんなさいね!!


「そうか、感謝する!」


「いえ、仕事ですので」


 今の私、すごい冷めた表情しているんじゃないかしら。でも悪気はないのよ。ただなんだかどっと疲れたというか……。私、この人苦手だわーって思ってしまっただけです。誰にだってあるでしょう、この人とは合わないなって思う瞬間。


「貴様への褒美は後で考えておこう!!」


「ですから、結構です!」


 人の話を聞いてくれないタイプですかね。

 ちょっとアルダール・サウルさまとのやり取りを遠くから眺めたいところです。アルダール・サウルさまが困るところとか嫌そうな顔するところとか多分レアですよ、レア。

 うん? スカーレットに絡まれた時とかエーレンさんの時とかに見たか。じゃああんまりレアでもないのかな。


 それにしてもすごい勢いであの人走っていったなあ……他のお客さま、ぶつかったりしてないかなあ。

 猛牛もかくや、って勢いでしたよ。


 まあ、流石に王太后さまを前に決闘申し込んだりしないだろう。良識ある人なら。

 ……だといいな! いや、やってそう。季節の挨拶の代わりに決闘申し込まれるとか言ってたからね。


 うーん、これまた濃ゆい人が現れたものですよ……まあこれだけ人がいれば色んな人がいるに違いありませんけどね。

 去年までの園遊会ではそんな話聞いたこともなかったんですけど、私が気が付かないだけで色々あったのかもしれませんね。


 ギルデロック・ジュードさまは金褐色の髪を短めに刈って、自信満々の顔だちにこれまた金褐色の瞳だった。男くさい容貌だったけど、まあハンサムの部類じゃないかな。スカーレットあたりの評価を聞いてみたいものですね。

 アルダール・サウルさまとはだいぶタイプが違う人だけれど、同じお師匠さんの元で剣の修行したっていうんだから同じような戦闘スタイルってことなのかなあ。

 決闘を申し込んだりするってことは、アルダール・サウルさまと実力が同じくらいで自分こそが強いって世間に知らしめたいんだろうけど……ってことは自己顕示欲が強いタイプかな。


 褒美云々はほんと、忘れてくれてたらいいんだけど。


「王女宮筆頭さま、先ほど統括侍女さまがお呼びでございました」


「わかったわ、今行きます」


 通りがかりの侍女に教えられて統括侍女さまの所に行けば、あちらも国王陛下とお話がしたい人が群れを成していてすごいことになってましたよ。あ、呼ばれたのはただの確認事でしたのでついでにワインの件を報告して、樽を追加で開けることになったからかそこかしこでワインを飲む人の姿が見受けられました。


 今年のワインは当たり年だったのかな、なんて思いながら、いずれプリメラさまとお酒を一緒に飲めたら素敵だろうなあ、なんてちょっと現実逃避しながら仕事に打ち込む私がいます。



 ……でもいつかは、実現できるといいなあ!

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