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 美しい庭に集う、綺麗な衣装に身を包んだ上流階級の方々。

 国王陛下からのご挨拶をいただいた後は立食パーティーではあるけれども、昼前から始まって三時のティータイムまでという時間、私たち給仕は気を抜いてはならない。


「スカーレット、あちらのテーブルにカナッペ類の追加をお願いします」


「わかりました」


「……変な男は寄ってきていないかしら?」


「いいえ。視線は感じますけれど」


 私の言葉に丁寧に応じながら、スカーレットはドヤ顔を見せている。

 うん、相変わらずですね……いえ、成長したと思うべきでしょう!

 公式の場だからか今のところ被った猫もとれていないわけですから。いやまあ、ところどころ怪しいですが……なんとかミステリアスな美女というものを演じてくれているようです。


 こちらのメインでもあるテーブルでは王太后さまがおそばに居てくださるおかげでしょうか、プリメラさまは私が予想していた以上に堂々と場に臨んでおられます。

 挨拶をこなして微笑むというのが殆どで、あまり政治的なことなどで問題が起こらないように会話はほぼ王太后さまがなさっているわけですが……今はとても嬉しそうですね。

 わかります、ディーン・デインさまがご挨拶に来られて同じテーブルに座っているからですよね!

 勿論、王太后さまが「バウム公子も良かったらここでお喋りしていかないかしら?」とお誘いくださったからですけどね。王族と同じテーブルに座るというのはお許しを得るかお誘いいただくしかないわけですからね。

 まあ、これで『ディーン・デイン・フォン・バウムは王女殿下の婚約者として内定している』とより印象づいたことでしょう。


 あああああ、私もあの二人のお傍で給仕したいよおおおおおお!


 なんでそこらの老貴族とか商人とか文官とかにご挨拶して回らなくちゃならないの。

 ……いえ、大事なことですけど。私が筆頭侍女である以上、王女宮のためにもきちんとすべきことですけど。私、挨拶は最小で最大のコミュニケーションだと思ってますので。

 挨拶された、されないで印象が変わったりするものだしね。勿論、それだけが相手を量るものではないけど……第一印象を大事にしたいですね!

 特に私はどうも無愛想と言われてしまいがちですし……本音はただ偉い人を前にしたりイケメンだの美女だのを前に緊張してるだけですけども……なかなかそれを人に言っても理解されないので口にもしませんが、正直なところそんなものですよ。


 しかし……今回来ている辺境伯は、お二方だったと記憶しています。

 そのどちらが一体モンスターを連れてきているのでしょう?


「ユリア殿、お久しぶりだ」


「ナシャンダ侯爵さま! これはご挨拶が遅れまして……王太后さまと王女殿下にはもう?」


「ああ、先ほどご挨拶しておいたよ。バウム公子はなかなか爽やかな少年だね」


「そう侯爵さまが仰っていたとお聞きになれば、バウム公子もお喜びでしょう」


「ははは。それにしても王城の秋薔薇も見事なものだねえ」


「はい、とても綺麗だと思います」


 相変わらずのロマンスグレーっぷりだ!

 ふんわり笑いながらワインを嗜む姿とかすごくカッコいいもの。


「でも珍しゅうございますね、ナシャンダ侯爵さまが社交場にお越しとは」


「ははは……まあ、その通りだね。本当はここに来ずに薔薇の研究をしていたかったんだが、ロベルトがナシャンダ侯爵領の特産品を売り込むのにジェンダ商会だけに任せずこういう場で宣伝しろってうるさくてねえ……」


「まあ」


 特産品をジェンダ商会が扱ってくれるというのはありがたい話だけど、そりゃまあ領主さまも宣伝に力を入れて欲しいよね。私としては薔薇ジャムの考案者ということになっているのでやっぱり頑張ってもらえたら嬉しいなーなんて思うわけですけど!

 あからさまに「来たくなかった」発言は良くないと思うんですけど……まあ私にしか聞こえていないようなのでいいかな?


「おお、ユリア殿! ナシャンダ侯爵さまもおいでとは……お久しゅうございますな」


「これはセレッセ伯爵さま」


「キース、久しいね。最近は薔薇を見にも来なくなったじゃないか」


 周囲に気を配りながら辺境伯を探しているとセレッセ伯が私の方に歩み寄ってくれていた。隣には奥様だろう、お綺麗な女性を連れての満面の笑みだ!

 確か奥様も大層な才媛だということでご夫婦で外交官を務めてらっしゃるんだとか……すごくね?

 流石顔の広いセレッセ伯だけあって、あんまり社交場に現れないナシャンダ侯とも親しいご様子ですよ。


「いやいや、最近領地で研究していた新しい布地を発表してから忙しくて! 落ち着きましたらまたそちらに薔薇を眺めに妻と参りたいと話しておりましたところですよ」


「おやおや、相変わらず商売も上手だねえ。僕も見習わないといけないかな」


「ははは、何を仰いますかな! 最近貴族間で人気が出ている薔薇ジャムとやらはナシャンダ侯爵領の新商品だという話ではありませんか」


「おや、早耳だね。うんうん、うちでこちらのレディに手伝ってもらって開発したんだよ」


「ほうほう、……ユリア殿がですか。ほほう……」


 えっ。何その意味深な笑い!


「別に私は大したことはしておりませんよ?!」


「いやいや、ははは。うちの布地も彼女に広めてもらったようなものでして」


「おや、そうなのかい?」


「ええ、彼女の社交界デビューの際に――」


「あの、私、他の方にもご挨拶してまわらねばなりませんので……」


「それはいけないね、お役目中に引き留めて申し訳なかった。僕ももう少し庭の薔薇を眺めたら帰るつもりだからその前に挨拶が出来て良かったよ」


 思わず社交界デビューのあの日の話をつらつらされるのかと思ってその場を後にしようとしたらナシャンダ侯にそんな風に言われると……良心が。アイタタタ!

 やっぱり人混みが苦手なのかしら。あれ、それじゃあ宣伝は……?


「ロベルトには適当に言っておいてくれると嬉しいな!」


「あっ、ナシャンダ侯爵さま?!」


 体よく押し付けられた!!

 ……、まあ、ジェンダ商会の会頭にもご挨拶には行かないといけませんし。一応伝えるだけは伝えますけどね……? その結果がどうなるかは私にはわかりません。

 セレッセ伯も笑って手を振ってくれたし、はあ……こういう場はやっぱり緊張してしまいますね。

 いえ、こういう交友が嫌いなわけじゃないんですよ。ただ小心者ですので場違いじゃないかなとか色々思うところがあるだけで。


 ……うん? 今セレッセ伯を頼れば辺境伯にご挨拶もできたんじゃ……いやいや待て待て、自分から地雷原に突っ込む必要はないんだった。オーケーオーケー、落ち着こうか私。

 あれもこれも解決できるとかスーパーマンみたいなことは私にはできない。そこを忘れちゃいけない。

 ただ何か起こるかも、と思いながら行動すべきってだけだ。


「ユリア殿」


「アルダール・サウルさま」


「問題はないようですね」


「ええ。そういえば例のお相手とはお会いになったのですか?」


 ほら、時候の挨拶的に決闘申し込んでくるっていう兄弟弟子。シャグラン王国の大臣はご挨拶したけど、その息子は会場をうろついてるとかで会えなかったのよね。きっとアルダール・サウルさまのことを探しに行ったんだろうと私は予想してるんだけど。


 私の質問に、アルダール・サウルさまはあからさまに嫌そうな顔をした。あ、逃げてるんですねわかりました。


「……できるだけ会いたくないんですよ」


「でも警護の立場からそのようには……」


「ええ、その通りです。でもできる限り会いたくないんですよ」


 そんなに力強く言わなくても。

 思わず笑ってしまいそうですよ!!


 近衛隊の方々も、礼服姿だけにカッコいいです。まあ公式行事ですしね、お客さま相手に近衛が強くてカッコいいっていうのをアピールする面もあるそうですから。

 普段城内におられるときは仕事着ですからね、まあ近衛隊用の普段着ってやつです。

 今日はきちんとした礼装だからちょっと華美な感じがいたしますが……まあ不測の事態の時にも行動できるよう機能性を重視した礼装なので動きにくいとかはないようです。いざという時に頼りにならないのでは困りますからね!

 それにしても、憧れのまなざしっていうんですか? そういうのをあちこちから向けられている近衛隊の人たちは確かにこの国の精鋭部隊ですからね。


 しかしそんな人たちも恐れるモンスターっていうのはやっぱりとんでもない代物なんでしょうね。ゲームだとまあ苦労はしましたけどヒロインがチートでしたからね、ちゃんとヒロイン育成さえすればちょちょいのちょいでしたからあんまり怖いイメージはないですが……目の前に出てきたらやっぱり怖い事間違いありません。


「それでは私は王太后さまの元へ戻っておりますので、何かありましたらいつでもお声をお掛けください」


「はい、ありがとうございます」


 ……うーん、やっぱりイケメンだなあ……。

 なんだってあんな人が私に告白なんぞしてきたんだか未だに謎だ!

 いや、どこがどう好きだって言ってもらったからそこは疑ってないよ? でもほら……「なんで?」ってやっぱりなるじゃん……?


 往生際が悪いって? ほっとけ!

主人公、交友関係がちゃんと広がっていたの巻。

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